時計の針を戻して:1
『あーよかった!ここが正解だったか!グレン!お前にも聞こえるな?』
時計から聞こえる声の主はルイスのようだった。
「ルイスさん?一体どうやって私に話しかけてるんです?何処にいるんですか?」
アレクトの脳内は疑問は一杯になっていた。
そんなアレクトを落ち着けるようにルイスはゆっくりと話し始める。
『まあ落ち着いて、深呼吸して。君、誕生祝いの時計持ってるだろ?』
「はっ……はい」
『その時計はこっちの世界と君を繋ぐ思い出の品だ。君が大事に置いてくれてたお陰で連絡手段になってくれた』
「……思い出?」
『大事にしてるだろ?』
時折磨く事はあったが、うっちゃっていた時計を大事と言われアレクトは気恥ずかしさを覚えた。
「えっと……ルイスさんは今何処に?」
『時計台だ。機関部の下をエリオに開けて貰ったんだ』
「どうしてまたそんな場所に?」
『この街で君が気に入っている場所を考えてたら、グレンが言い出してね。昨日ここで強い思い出が出来たはずだろ?』
グレンを怒鳴りつけた、時計台の一幕を思い出した。
『君は今何処にいる?』
「私は……信じてもらえないかもですけど、故郷の屋敷に居ます」
『実家か!なら……』
混乱するアレクトにルイスは告げる。
『アレクト、今すぐその家で……君が一番大事にしている物を見つけるんだ』
早口に喋るルイスの声が少しずつ小さくなるのにアレクトは気付いた。
「大事にって……でも誕生日の時計は全部……』
『他に何……かきっとある……私は祖父が描いた絵に魔力を浴びせたら元の世界へ……』
耳を凝らしてもルイスの声は遠ざかっていく。
「ルイスさんは前にもここに来た事があるんですか?」
『……前に言った……病気で死にかけた時……いいから早く見つけるんだ……』
『ルイス、アレクトと話せるか』
時計から先程まで黙っていたグレンの声が聞こえてくる。
ルイスの声とは対照的に、グレンの声は明瞭に聞こえた。
『……父さん』
アレクトの脳裏には先程見ていた父の姿──厳しい父を演じていた時とは違う悩める彼の顔が嫌でも浮かんできた。
『戻って来るんだ』
アレクトに対して、父はいつもキッパリとした物言いをする。
『お前にはまだライカンズデルでやる事がある。だから戻って来い』
いつもと同じ、自分の意見など知った事かと言うような言い回し。
アレクトはいつも彼の言葉に重圧を感じていた。
「…………」
『アレクト、ゲールは近くにいるのか?』
「……いない」
『探しに行くんだ。ゲールの側を離れるな、危険があれば守ってもらえ』
グレンはいつも、自分が話したい事だけを話す。
『ルイスの言った事に心当たりはあるか?お前の部屋だとか──』
「父さん」
グレンの言葉をアレクトは遮る。
『なんだ?大事な事か?時間も有限では──』
「母さんは……どうして死んだの?」
それは、アレクトが見た記憶。
最初の誕生日プレゼントを介して見た、母の唯一の姿。死霊に取り憑かれた者の姿。
「時計の記憶から、私を産む前の母さんを見た」
死霊に取り憑かれた者は、生者でも死者でもない怪物になる。
「私を産んで……その後どうなったの?」