寝られないベット:3
ベッドに横たわる女性が懐中時計をグレンに手渡す。
『楽しみね、グレン』
「え……?」
女性の手を見て、アレクトは驚愕した。
『アレクト、無事に産まれてきてくださいね』
女性が膨らんだお腹を撫でる。
彼女の腕は、青白い死霊の腕だった。
突如、燭台の火を吹き消したかのように二人の視界が暗転する。
『アレクト?アレクトか?』
暗闇の中で、アレクトの耳にグレンの声が聞こえた。
『どうしたグレン?』
『今、そこにいたような……』
気がつけば、立っている場所はライカンズデルの部屋ではなくアレクトの生家となっていた。
「──っ……!」
辺りをぐるりと見回した後、アレクトとゲールは顔を見合わせる。
「今、一体何見せられたのよ……」
「……グレンの過去の様子だった気はするが」
「じゃああの女の人は私の母さん?」
「…………私も会った事はないが、肖像画と同じ顔だったな」
アレクトの母は、彼女を産んだすぐ後に亡くなっている。
アレクトもゲールも顔を直に見た事は無いのだ。
「ここはどこだ?一見するとマイヤー邸のように見えるが」
二人は混乱しつつも状況を整理しようとする。
現在居る部屋は動かない時計で溢れた作業部屋。
アレクトの生家である屋敷のグレンの作業部屋だった。
「また別の場所にお引越しさせられたみたいね、ここには二度と戻ってきたくなかったんだけど」
生家の馴染んだ部屋を見るアレクトの表情は苦々し気だ。
「どうする?」
「どうするも何も」
アレクトは作業場の真ん中、机の上にあるランタンを手に取る。彼女が触れるや否やランタンに光が灯る。
「闇雲でも、戻る方法見つけるの」
そして、さっき直したばかりの懐中時計を強く握りしめた。
「ねえゲール、今父さんの声聞こえたわよね?」
「……さっきの幻覚の事か?君の母親が居た」
「そっちじゃないの、父さんとルイスさんの声がした」
「私には何も聞こえなかったが……」
ゲールの言葉にアレクトは頭を抱える。だが悩んでも仕方ないと言う風に作業机の上を照らした。
「どうするんだ?」
「ここの時計、全部動かす」




