寝られないベッド:2
「ねぇゲール、今何時よ?」
深々と溜息をついたアレクトがゲールに尋ねる。
「さあねぇ」
懐中時計を死霊に奪われてしまい、二人は正確な時間を把握できずにいた。
「現世は明け方くらいじゃないか?体感だが」
「5時過ぎぐらいかしら」
そういうと、アレクトは部屋にある引き出し付きの作業机へと向かった。彼女が引き出しを引くと、中から幾つも懐中時計が出て来る。
「な……なんだってまたそんな場所に?」
全てアレクトの物である。使用された金属類や、細かく掘られた彫金からどれも高価かつ巧みな技術で作られた物だとわかる。
「…………捨てられないでしょ」
小さく舌打ちした後、若干不満気にアレクトが口にする。
アレクトは17個ある時計の内、少し錆びた物を手に取って針を6時前に合わせた。
「ゲール、ちょっと時間貰うわ。時計が無いと落ち着かないの」
「ご随意に」
アレクトは時計の裏蓋を開け、内部構造を弄り始める。
「ここがこう、魔導線戻して……歯車詰め替えて……出来た」
修理は終わった。
「まさかと思うが、わざと止めてたんじゃないよな?」
「…………」
妙に手早い修理を終えたアレクトは答えなかった。
(後は魔法で動かすだけ)
アレクトが時計の発条を回し魔法の光を当てる。
薄紫の光が時計を満たす。
「よし、直っ……」
時計の針を見た瞬間、アレクトは絶句した。
針が猛烈な勢いで、逆回りに回転している。
「はー……今度は何だってのよ」
「これは……もしかして帰れたりするのか?」
ゲールは期待を込めて、アレクトは胡乱げに周りを見る。
時計の針が一時間戻る度に周囲の風景、アレクトの寝室も変わって行った。
全ての針が12時を指す。
『それが、誕生祝い?』
『そうだ』
新たに聞こえたその声を聞き、アレクトとゲールが振り向いた。
『綺麗な彫金……百合の花を描いたのね』
『よくわかるな』
『だって……本物みたいよ貴方の彫金。画家になれば良かったのに』
『見た物を写し取れるだけで画家になれるなら、ルイスはもっと金持ちになってるよ』
アレクトの部屋から移り変わった場面で、赤毛の男と長い白髪の女性が会話していた。
「父……さん?」
女性は妊娠中のようでベットに寝そべっている。
その女性の傍で懐中時計を見せているのはアレクトの父、グレンだった。