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寝られないベッド:1

 灯りのない暗い夜道を、月明かりと記憶を頼りに走り続けてアレクトとゲールは辿り着く。ライカンズデルの閑静な住宅地にあるグレン・マイヤーの別荘に、二人は帰って来た。


 扉の鍵を開け、入ってすぐのキッチンに椅子に座り込んでようやくアレクトは一息ついた。

「はぁ…………はぁ…………」

「…………誰も居ないか」

 息を整えるアレクトの傍で、無言のゲールは無言で部屋を警戒している。

 ゲールはそのままキッチンを出て行った。すぐ戻って来た彼は普段着のコートを身に付けていた。

「一応、他に何も居ないか確認してきた。この家には私たちだけだ」

「……そう、ありがと」

 食卓に突っ伏しながらアレクトは返答する。

 いつもの懐中時計を持っていないので手元に落ち着きがない。


「あの死霊の子、どうしてるのかな」

 申し訳なさ気である。

「気になるのか?」

「……あんなに苦しむなんて思わなかった……死霊に灯りは効くと思ったけど、あんなのお守りみたいな物だし……あんな風に燃えるなんて」

「相手は死霊、それも君を狙ってた。気に病む事はない」

 机に突っ伏すアレクトの肩にゲールは手を置いた。

「二人で無事にここまで着けた、君はあの場で1番の行動を取れたんだ」

「……そうかな」

 姿形はどうであれ、苦しむ死霊の少女の様子が頭から離れないようだった。


「次は、どうやって元の世界に戻るかだ」

 ゲールがアレクトの背を叩き、行動を促した。

「レンフレッドは落ち着く場所に行けば戻れると言っていたが、どうだアレクト?何かそんな様子は無いか?」

 アレクトは顔を上げ、暗い部屋を見回す。


 食卓に椅子、台所にはストーブも兼ねたオーブンに流し台、部屋の隅には手紙の塔、何から何まで元の世界と同じである。

「落ち着くなら……」

 手紙の塔を一瞥した後、アレクトは考える。

「寝室?」

「寝る気じゃないよな」

「さっき充分寝たわよ」

 アレクトは至って真面目である。


 二人は二階の寝室、先にアレクトの部屋へと来た。

「暗いわね」

 アレクトが部屋の常備灯に手を添える。現世と同じく魔法で灯りが灯るランタンだ。

 時計でいっぱいのアレクトの部屋が薄紫の光で照らされる。

「なんか、落ち着かない」

 全ての時計の針は止まった状態だ。

 この部屋からは彼女が好きな時計の針の音も歯車の音も聞こえない。

「ええっとアレクト……何かないか?普段の部屋と違う所とか」

「そんなのこの時計達よ、私の部屋の時計は全部……ほとんど動いてるわ」

 アレクトはそのままベッドに飛び乗った。

「…………」

「…………」

 二人して変化を待ち望んでみるが、何も起こらない。


「このまま寝たら、全部夢で朝目を覚ます……」

「ないと思うぞ」

 アレクトの淡い期待をゲールが打ち払う。

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