終わりのない叫びをその時感じた:4
「これでよし」
肩の覆いを戻し、ネジで留める。
「良くなった?」
「ああ、バッチリだ」
ゲールは右腕を振り回して見せた。
アレクトがズボンのポケットから小銭を取り出しカウンターへ置こうとした時だった。
「お客さん?」
「ひゃっ!」
暗い店の奥から声が響いて来た。
驚いたアレクトは声の方を見る。
「ど……どうもこんばんは!夜遅くにごめん……ちょっとヤバいやつに追われ……て……」
アレクトの声が次第に不安を帯びた物になって行く。
「アレクト、後ろへ」
ゲールがアレクトを背後に庇った。
店の奥、上階から降りてくるのは人ではなかった。
暗闇の中で薄く青白く光る影、人間の姿をしているが実体を持っていない死霊。人を見るなり暖かさを奪いに襲い掛かってくる生者の天敵──
「ああ、いいよ。こっちもお客さんなんて久しぶりでね。何か買っていかれます?」
──の筈が、アレクトを前に手を出す事もなく朗らかに話しかけてくる。
「…………どういう事だ?」
死霊が言葉を話す。
前代未聞の事にアレクトとゲールは顔を見合わせた。
死霊はカウンターの椅子に座り、机の上に乗った硬貨を物珍し気に手に取った。
「おや……暖かい……これまた珍しい、生きた熱を感じるよ」
「不躾なですが、貴方は一体?」
アレクトを後ろにしつつゲールが問う。
「僕はレンフレッド、ここで機械の部品を売ってる」
「……レンフレッド」
その名前にアレクトは聞き覚えがあった。
アレクトはゲールの後ろから顔を出し、レンフレッドを改めて見る。
白髪を短く刈った初老の男。何処にでもいる風体だが、彼女はどことなく親しみを覚えていた。
「もしかして、エリオ爺の弟……?」
「ん、なんだ、兄を知っているのか?まだこっちには来てない筈だけど」
「エリオさんの……弟」
ゲールもその人物に思い当たった。だが、エリオの話で彼の弟は数年前に亡くなったと聞かされていた。




