終わりのない叫びをその時感じた:1
暗闇の中に歯車の音が響いている。
「…………ん、……ここは」
つい先程の大音響とは打って変わって静かな懐中時計の音を聞き取って、アレクトは精神を落ち着かせた。
「…………ここ、どこ?」
肌身離さず持っていた懐中時計を胸に当てアレクトは呟く。
一面真っ暗闇の中、アレクトは座り込んでいた。
「寒い……」
歯がガチガチと鳴っている。
少しずつ暗闇に目が慣れ始め、辺りを見回すとまだ劇場にいる事がわかった。
しかし、誰もいない。
つい先程まで会話していたゲールやルイス、グレンも何処かに消えてしまっていた。
「誰か……誰かいないの?」
震える手足を持ち上げアレクトは立つ。
呼吸を整え、劇場の裏口からぼんやり明るい外へと飛び出した。
静寂。人の音も風の音も聞こえない。
アレクトが感じる音は手に持った懐中時計を回す音だけ。
「────っ!ぁぁ…………ああ…………!」
パニック状態に陥りかけたアレクトの手は落ち着きを失い懐中時計の発条を巻き続けている。
(怖い……いつもはゲールが一緒に居てくれるけど……完全に独りになって……どうすればいいの?いつまでこのままなの?)
心臓が痛いほど鼓動し、呼吸が乱れだす。
(一人は嫌……ゲール……ここに居てよ!)
アレクトの懐中時計が音を立てて回りだす。
「…………え?」
文字盤に変化はない、ただ歯車自体が大きな音を立てている。
誰かに何かを伝えるように。
すぐに、アレクトの背後から音が聞こえてきた。
ガシャガシャ音を立てる大きな歯車の音。
毎日すぐ側で聞いている、聞き慣れた音が。
(この音は──)
アレクトのすぐ後ろの劇場のドアが開く。
そこには何故かびしょ濡れのゲールが立っていた。
「ゲール!!」
「…………アレクト?」
まるで何処かの川で泳いできたかのように全身ずぶ濡れだ。
アレクトはゲールに触れようとしたが、ただでさえ寒いのと気恥ずかしさに負けてやめた。
「「何処に居た?の?」」
そして二人の疑問がぶつかった。
「私は君があの人形に吸い込まれた時、君を追いかけたら川に落ちててな、しばらく泳いでた」
「川…………?寒そう、そっちじゃなくて良かった……」
しばらく後、劇場の中に戻った二人は自動人形を起動させようとした後の事を話し合っている。
「君の時計の音が聞こえたんだ」
ゲールはアレクトが大事そうに持つ懐中時計を指差す。
「その音頼り泳いでたら岸と扉を見つけて、その先に君が居た」
ゲールのコートは今や氷が張り始めている。
「そっちはどうなんだ?グレンやルイスは見たか?」
ゲールの質問にアレクトは首を横に振る。
「誰とも会ってない。私は──あの人形に引き摺り込まれた後からずっとこの辺…………寒……」
ここに来てからずっとアレクトは寒さで震えている。ゲールが劇場の窓から外したカーテンをアレクトにかけたが、全く暖まらずむしろアレクトの体温をどんどん奪って行くようだった。
アレクトは時計を見る、時刻は深夜を過ぎる頃。本来なら家で寝ている時間だ。




