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題名、港町、隣人、無題、自動人形:1

 ゲールとグレンが談笑している頃、アレクトはルイスの作品を眺めていた。

「祭の為にいくつか作品を運んでもらったんだ。先の楽しみを奪って悪いけど、君にはもっといい絵を描いてもらいたいからね」

 ルイスが得意げに話す傍ら、アレクトは時に真剣な面持ちで彼の絵を見ていた。

「……すごい」

「ははは!そうだろそうだろ?」

 もっと褒めてくれとでも言うようにルイスは笑う。

 現在は服飾のデザイナーもやっている彼だが、大本というか本業は画家である。

 ここ劇場の物置に置かれているのは彼の絵だけである。

 どこかの港町を描いた絵、雲一つない空は賑やかな港を明るく照らしている。濃い影を船や建物に焼き付けながら。

 淡い街灯に照らされたほのかな人影が歩く夜の街並み、そこを歩くのは人間か、もしくは死霊か。

 年ごろも性別もわからない三人組が一点を見ている。三人組は『こちら』を見ている。そんなことはあり得ないが、もしかすると本当に見ているのかもしれない。


(……ルイスさんの絵、面白いな)

「参考にはなりそうかな?」

 ルイスの描く絵は、少なくともアレクトの想像力を掻き立てるものだった。

(観客に想像の余地を残す、か)

 アレクトは先ほどルイスに言われた言葉をかみしめる。


「私……まだ未熟ですね」

 少し長めの溜息──ではなく深呼吸をして、アレクトは自分の顔をはたく。

(……見る人の想像力を掻き立てる絵か、難しい、今まで考えたこともない、何か題材を探さないと)

 少しずつ、アレクトの瞳に力が宿る。新しい絵の構想を練り始めたのだ。

(絵を描きたい、何でもいいから好きな物を──)

 彼女が懐中時計をぎゅっと握りしめた時だった。

「おーい?もういいかい?」

「──っは!」

 ルイスがアレクトの眼前で手を振っている。

「はっはい!ありがとうございます。絵を見せていただいて」

「良い刺激を受けられたみたいだね、同じ画家として嬉しいよ」

 ルイスは自作の絵に覆いをかけ始めていた。

「それじゃ、戻ろうか。人形作り手伝ってくれるんだろ?仮面のデザインも手伝ってもらいたいな」

(今すぐ絵を描きに行きたいけど……)

 授業料ね、と考えアレクトは思考を律した。


「あのールイスさんはいつから絵を?」

 劇場の廊下でアレクトは疑問をルイスに投げかけた。

「いつから……家が絵画の修復をやってて……その手伝いに駆り出されてたから……」

 正確な年頃が不明なほど若い時からのようだ。

「修復ばっかりしてたからねぇ、新しいもの生み出そうなんて考えたこともなかったよ」

「じゃあ?何がきっかけで今みたいな絵を?」

「フフ……昔、まだグレンと同じ学び舎に居た頃だな。得体のしれない熱病にかかって一月ほどうなされた」

 ルイスは神妙な顔で語り始めた。

「生死の境をさまよった時に見た夢が刺激的でね……それモチーフに絵を描いて学び舎の門に置きまくったら皆が食べ物とかお金とかくれた。それがきっかけ」

 学長には成績と出席数で退学を言い渡されたがね、とルイスは締めくくった。

 唖然としたアレクトを見て、ルイスがいたずらっぽく笑う。

 彼の十八番の話のようだった。

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