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歯車の人:3

「相当ショックを受けたようだな」

「ええ」

 ファルナたちが出て行った部屋で、グレンとゲールは人形たちを並べ始めている。

「アレクトの自信作……だった訳ですからね。アドバイスは貰えたにせよ、落ち込むのも仕方ない」


 部屋の中央に置かれたキャンバスには、まだアレクトの絵が置かれている。

「なあゲール、あの子はどんなふうに絵を描いていた?」

 珍しい質問だ、とゲールは思った。

「ふむ、そうですな……」

 しばらくゲールは考えた。

「最初は苛立っていましたね、ただ時間が経つにつれ……楽しそうに、熱中して筆を動かしていましたよ」

 ゲールの返事にグレンはわかったと言うように首を振る。


 部屋の中央に大小さまざまな人形が並べられ、最後に一体、ゲールよりは一回り小さい人間サイズの自動人形(オートマタ)が置かれた。

「ふむ、これは……」

「こんな大作を手掛けたのは君を作った時以来だ」

 人間サイズの自動人形(オートマタ)にはルイスがデザインしたと思しき仮面に、どうやら女性をイメージしたであろう白を基調としたドレスを纏っていた。

「……本当に、新たな自動人形(オートマタ)を作ったのですね」

「ああ、ルイスが提案してきてね」

「17年前、あれだけ私を調べても同じ物は生み出せなかったのに」

「……君は偶然という名の奇跡の産物だよ」

 ゲールはこの世界で目覚めたときのことを思い出す。


 病院のベットで意識を失ったかと思えば、闇の中で目覚め、躰が軋む音がした。

『君は……誰だ?』

 最初に声をかけてきたのはこの男だった。

『ゲール』という存在になる前、彼にはもう一つの人生があった。記憶は一部欠落し、ばらばらになった欠片を夢のように思い出すだけだったが、その記憶を以てゲールは自分を人間と規定した。

 だが、自動人形(オートマタ)として生まれた彼自身が、自分は人間ではないと諦観していた。

 ゲールは常々考えていた。

 自分の自我はどこから来て、どこへ行き、どこまで続いていくのだろうか、と。


 遠くで鈴の鳴る音がする。

 今日も町の門から死霊が入ってこようとしているのだろう。

「出来ると思うか?新しい自動人形(オートマタ)なんて」

 グレンとゲールは湯気の立つコーヒー片手に雑談していた。

「なんですかグレン、弱気ですね」

 貴方らしくもない、とゲールは言った。

 グレンが機械工学を前に失敗のの可能性を仄めかすなど今まではなかったことだ。

 自動人形(オートマタ)の件を除いては。

「……今回の自動人形(オートマタ)も内部構造は17年前とほとんど変わっていない。魔導線の質が上がったくらいだ」

 二人は17年前、ゲールが目覚めてから行った数々の実験の事を思い出す。

「……まあ、ルイスが望んだ『人の新たな相棒』とまではいかなくとも人形遊びの玩具にはなるだろうな」

「ああ、それは良い。アレクトが気に入りそうだ」

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