それでも時間は過ぎて行く:3
「どうぞ」
ルイスが机の上に置いたのは一体の人形だった。
「わ、かわいい!」
両手で抱えられる程の大きさ、子供向けと言うよりはインテリアとして飾られるような人形だ。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
質素な衣服を着せられた手足は鈍色に光り、顔にはゲールが付けている物と同じような仮面を被っている。
「ルイスさん、これはもしかすると……」
人形が何かに気付いたらしきゲールが口を開く。
「ああ、ゲール。君が思った通りの物だよ」
ルイスが人形の躰、心臓のある辺りに手を当てた。
「ゲールと同じように作られた。ちゃんと中身も人と同じように組まれている」
ルイスが魔力を込めると、黄色い光が人形に吸い込まれる。それと同時に人形がピクリと動いた。
歯車の動く微かな音が人形から響き出す。
「じゃあ、これも自動人形?」
自動人形が動き出すのをアレクトは固唾を呑んで見守っていた。
「そう、17年ぶりの作品だよ」
ルイスが人形から手を離す。人形とルイスの手を繋ぐ黄色の光条が糸のように両者を繋いだ。
「心臓に魔力を込めると動き出す……筈なんだが」
しばらく経ってからやっと自動人形が立ち上がった。ぎこちない動きでアレクトを向き、ぺこりと一礼する。
「良かったわねゲール、弟よ」
「八十七歳にもなってから弟が出来るのは複雑な気分だな」
しかし、自動人形は突然力が抜けたようにバランスを崩し倒れてしまった。
「ああ、ダメだ。これでは自動人形など程遠い……」
ルイスは疲れた顔で溜息を吐く。
ただ、すぐに気を取り直した様子でアレクトに笑いかけた。
「それでだアレクト、この17年ぶりの自動人形達を完成させるのに力を貸して欲しいんだ」
「え?『達』?他にもあるんですか?」
「ああ、この子は一部だよ。グレンがその辺も手紙に書いてくれた筈なんだけど」
そこまで聞いたアレクトの顔がさっと引きつる。
「き……昨日は手紙を読まなかったもので……」
アレクトの後ろでは愉快げな歯車の音が鳴っている。
「そうか、まあ本題はここから先なんだ」
ルイスの眼が真剣さを帯び、アレクトも姿勢を正す。
「次に作る人形達を、ゲール以来の新たな自動人形としてこのライカンズデルの祭りで発表する」
ルイスの目には力が宿っている。燃える芸術家らしい熱意の籠る瞳だ。
「出来る事なら完全な自動人形を……ゲールのような傑作を生み出したい。この計画は1年前からグレンと始めたんだが……これ以上は奴でも手詰まりなようなんだ」
ここでルイスは頭を下げた。
「そこで君にも助けを求めたい。同じ芸術家として、あと奴の娘としての技術者としての力も欲しい。勿論出来上がった自動人形の製作者の一人としても数える。どうか助けてくれないか?」
(ルイスさんと私と………………父さん、の合作)
暫く部屋には沈黙と、歯車の音が聞こえていた。




