それでも時間は過ぎて行く:2
アレクトとゲールの住まい、その二階。
アレクトの寝る部屋にノックの音が響く。
「…………すー」
時計に囲まれるアレクトが目を覚ます様子はない。
「アレクト、起きろ。来客だぞ」
再びのノックの後、ゲールが部屋へと入ってくる。
そのままアレクトを揺さぶると、彼の顔面にパンチが飛んできた。
「うぉっ、手を痛めるぞ」
あまり力は入っていないが、ゲールは仮面を弾き飛ばされた。
「起こすなぁ……」
アレクトの方は枕を顔から離そうとしない、不機嫌な寝起きそのものの態度である。
「起きてくれアレクト、重要な相手だ」
ただ、ゲールはひるまない。アレクトの頭をむんずとつかみ強制的に覚醒させる。
「うぐぐぐ……」
それでも多少抵抗したが、しばらく揺らされると観念し着替え始めた。
「誰よ重要な相手って……」
アレクトはぶつくさ言いながら身支度を整えていく。ゲールはコーヒーを淹れると言い残し一階へ降りてしまっていた。
(もしかして父さん……ありえないか、来てもどうせ使いを寄越したとかその程度)
身支度を終えたアレクトは一階に降りる。
「え……?」
そして、来客を見て驚いた。
「ルイスさん?」
客間に座りコーヒーの入ったカップを持つ金髪の男はルイス・アインズ。
アレクトの父グレンの友人であり、自動人形ゲールの『外側』を作った人物である。
「おはようアレクト、話すのは久しぶりだね」
ルイスはアレクトに笑いかけ、アレクトは目を白黒させている。
「……あのー、どうしてまたルイスさんが私の家に?」
そして緊張しつつ机越しにルイスの前につく。
「話があるんだ、それも今度の芸術祭に関係する話が」
「げーじゅつさい……」
若干疲れた様子でアレクトが呟く。
一般応募の締切終了まで残り六日、それまでに絵を完成させたい彼女の祭りへの胸中は複雑だ。
「アレクト、ゲールの調子はどうだい?」
ルイスがゲールを指差す。
ゲールはアレクトの後ろに付いて話を聞いていた。
「私の事なら、活動に支障はありませんよ」
ルイスの問いにゲールは指を鳴らしながら答えて見せた。
「……ええ、頭のネジは相変わらずですけど。悪くはない、ですよ」
「そうか、良かった」
そしてルイスは傍に置いてある鞄から何かを取り出し始めた。




