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時計の針を進めて

相棒バディとつむぐ物語』コンテスト用の作品です。コンテスト期間中の完結を目指しています。

『あそこは、とても美しい』

 これは、かの発明王トーマス・エジソン生前最後の言葉である。

 彼は死ぬ間際に何を見ていたのだろう。

 多くの書籍では、ただ昏睡から目覚めた瞬間、外の風景を見たのだろうと記している。


 なるほど、現実的な物の見方だ。

 だが偉人最後の言葉は往々にして深く捉えられる物。

 私はエジソンが死後の世界を幻視した、そう思っている。

 少なくとも今、私はエジソンが見た情景に近いものを見ているはずだ。

 私は、死のうとしている。


(これが死か)

 少しずつ、手足から何かが抜けていく感覚。

「おじいちゃん」

 声が聞こえる。

「手を、握ってあげよう」

 家族達の声だ。

(最後の言葉を言わなければ)

 私は非常に幸運だった。

 この歳で呆けることもなく、意識も明瞭で、死を恐れることもなくただ待っている。


「あ、あ……」

「お父さん?」

 人生最後の、たった一度のチャンスだ。

 何を言っても良い、ちょっとふざけても許されるだろう。


「まて…………まって…………ま……だ……」

 言葉が出てこない。

 最後の言葉というのは思った以上の強敵だ。これと言ったフレーズが浮かんでこない。

 呼吸が乱れる。

 喉が震え、呼吸が止まる。

(ダメだ……まだ言いたい事が……)

 意識がどんどん曇って行く。


 エジソンは私などより遥かに偉大な男であった。

 少なくとも、とちる事なく遺言を残せた。


 私は今、何処にいるのだろう。

 夢の中のような曖昧な意識。

 ぶつ切りにされた感覚で、微かに『自分』を認識している。

 死後の世界は人の死生観の数だけあると言う。

 私の場合は川のようだった。暗く、流れの強い川を流されるままに漂って行く。


 小さな赤子が私とすれ違った。

 その子に眼を向けた瞬間、私の体が引っ張られる。

(なんだ!?)

 私の身体は、赤子の方へとどんどん流されて行く。

(待ってくれ!止まってくれ!私はどうなる──!?)

 暗闇を裂いて、明るい感覚が私を突き刺した。


 赤ん坊の泣く声がする。

 何故かその声の方に行かねばと感じ、手足を動かした。

 重い手足と胴体、まるで自分の物ではないようだ。

 バランスを崩し、その場に倒れ込む。辺りに重い音が響く。

 その音を聞きつけ、人の声が近くに寄って来た。


 ここは何処なのだろう。

 朧げに、自分の事を思い出す。

(確か私は病室で……家族に最後に別れを……)

 まるで夢から覚めたように、記憶の波が引いて行く。

「ダメだ……待ってくれダメだ!忘れたくない!」

 自然と口から声が出てきた。

 周囲の声が引き気味になった。

 泣きたかったが、私の顔からは涙が出なくなっている。


 歯車の軋むような音が聞こえる。

 私の心拍に合わせるように鳴るその音は、どうやら私の躰から発せられているようだった。


 しばらく時が経っただろうか、暗い部屋に居る私の近くに何人か人がやって来た。

「旦那様、こちらです」

「ああ、開けてくれ」

 扉が開く音がして、部屋の中に光が差し込んできた。


「おーい、そこに誰か居るのか?」

 低い、男の声だ。

 私はゆっくりとその声の方へ顔を向ける。

自動人形(オートマタ)だ……」

「動いてる……」

「怖いわよ……どうしてこの日に……」

 男の背後で人々が騒ぎ始めた。


 ここでやっと、自身の腕を見た。

 人の物では無い、人形のような関節、皮膚ではなく鉄か何かが指を覆っている。

 動きがぎこちない、手を握るのにも苦労する。


 躰を動かしにくい私の前に、誰かがやって来た。

 ゆっくり頭を動かし、目を向けると男が居る。

 質素な身なりの赤髪の男だ。

「君は……誰だ……?」

 低い声で男が話しかけてくる。

 恐怖の声ではない、ただ疑問を私に投げかけてきたようだ。


 辺りには静寂、いや歯車の音がする。

 私の躰から出る音と、この部屋中から聞こえる時計の歯車達の音。

 記憶を紐解き、目の前の男に話しかける。

「私は──」

ゆるくやります

タイトルとか即興で決めたので変わるかも

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