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8 私の騎士


 いざ、運命の相手を探しに訓練場に出陣!


 護衛騎士のクルトを伴って城内の訓練場へと訪れた。騎士達は真面目に鍛錬に励んでいるらしく、訓練用の刃を潰した剣を打ち鳴らす音が響いてくる。


(懐かしいわ)


 前世でもよく鍛錬に励む騎士達を横目に見ていた。時には私も混ざって一緒に鍛錬したものよ。とても嫌がられたけれど。

 尚、私の接近戦での攻撃は『魔力で強化した棒で力の限り殴る』。威力は、中級魔族レベルならばイチコロだった。

 尚このイチコロは、一撃で殺すの略である。

 そのせいか、私が混ざると騎士達には蜘蛛の子を散らすように逃げ出されたものよ。

 当時は「これぐらい避けられなければ死ぬと思いなさい」と言って、魔法で足を強化して追いかけ回していたけれど……今考えると鬼だったわ。反省してる。

 とにかく、間近で戦う騎士も見てきたわけだから剣を扱う人を見る目はあると思う。強い人を見ると胸が躍ってしまうわ。


 鍛錬している中でも、目を引く動きをする騎士に目を引かれた。


 剣筋に迷いがない。かといってがむしゃらに踏み込むばかりではなく、相手の隙をすかさずえげつなく狙うところは教科書通りではなく、実戦向きの動きと言える。体も鍛えているようだけど、前世の騎士達みたいに筋肉がムキムキすぎることもない。

 兜を被っていて顔は見えないけれど、これは期待していいのではない!?

 キラキラと目が輝いてしまうのがわかる。


(もしかして、あなたが私の運命の人……!)


 両手を組んで、狙いを定めた相手を見つめる。

 するとそれまで沈黙していたクルトが「さすがですね」と感心した声で話しかけてきた。


「え?」

「兜を被っているのにすぐに兄君だとおわかりになるなんて、本当に仲がよろしいのですね」


 な、なんですって!?

 ぎょっとして、クルトに向けた視線を再び目をつけた騎士に戻す。ちょうど決着がついたところだったらしく、狙っていた勝者側の騎士が無造作に兜を脱いだ。

 さらりと溢れ落ちる銀髪。兜の下から現れた麗しい顔。私より深い緑の瞳が伏せられて、次の瞬間にはその瞳が私に向けられる。

 そして私の姿を認めて数度目を瞬かせた。その後、こちらに歩いてきてわずかに首を傾げる。


「リリィ? 珍しいところで会うな。朝の運動をかねた散歩か?」

「……お兄様っ」


 落胆した声が自分の喉から搾り出された。その場に崩れ落ちなかったことを褒めて欲しい。

 こんな残念なことってある? なぜよりによって、見惚れた相手がお兄様なの? そんなに私の恋路を邪魔されたいのですか!?

 奥歯を噛み締めて、恨みがましい目を向ける。


「なぜお兄様が騎士に混ざって鍛錬なさっているのですか?」


 なんて紛らわしい! 私の期待を返して欲しい。


「なぜそんなに怒られなければならないのかわからないな。たまに体を動かした方がすっきりするだろう」

「お兄様はそんなに強くならなくてもよいのです。なんなのですか、あの動きは! 私より強そうではありませんか!」

「この場でリリィより弱い相手を見つける方が難しいと思うが」


 兄が、何を言ってるんだ、と言いたげな顔つきになった。

 ハッ、そうだった。今の私は魔法が使えない設定だったわ!


「それで、そんなに着飾って本当は何をしにきた?」


 なんとか誤魔化さねば、と思う間もなく兄から別件の鋭い突っ込みが入った。

 ギクリ、と全身が含む。

 実は今日の私はいつもより化粧が濃いのだ。ほんのちょっと口紅の色が鮮やかなだけだけど。「恋を探しに行かれるなら可愛くいたしましょうね」とエルザが気を利かせてくれたのである。

 それをめざとく見分けるなんて、なんて恐ろしい兄。

 しかしながら、「騎士の体を物色しに来ました」なんて、さすがに言えない。「目をつけた相手が大変残念ながら、お兄様でした」とは、もっと言えない。

 なんとか誤魔化さねば!


「私の可愛さを、世間に知っていただきたくて」


 元女王の秘技! 嘘をつく時は、悪びれずに堂々と!

 それに完全な嘘でもない。あわよくば、騎士の誰かが私に恋をしてくれたらいいな、という期待もあります。

 胸を張って言えば、しかし兄は私の胸中を察したらしい。すがめた目をして、「なるほどね」と呟く。

 これは完全に見透かされてるわ!

 ならばいっそ協力していただきましょう。


「それより、お兄様より強い方はいらっしゃらないのですか?」


 前世で戦う生活が魂に染み付いたせいか、強い人には目を奪われてしまうみたい。期待して兄に問うてみる。

 すると兄の視線が私の背後に向けられる。つられて視線を辿れば、そこにはクルトが立っていた。

 えっ。クルトなの!?


「強いのですか?」


 思わず問えば、クルトはちょっと困った顔を見せる。


「見たいか?」


 兄が水を向けてくれた。見たいかと言えば、見たい。

 いつも私の護衛をしてくれているけれど、これまでほとんど出歩かなかった上に、特に危険なこともなかったからクルトは空気のような存在だった。役に立たないと言っているわけじゃなく、ただ傍にいて当たり前というか。

 大きく頷けば、兄がクルトを見た。


「王女がフィスターの腕前をご所望だ」


 クルトは期待に満ち満ちている私を見て眉尻を下げた後、小さく嘆息を吐き出した。


「一度だけですよ」


 十分よ! クルトとお兄様が戦うところが見られるなんて、血肉湧き踊るわ!

 兄が兜を被る。兄に命じられて、控えていた騎士が訓練用の剣を持ってきてクルトに渡した。クルトに渡されたのは、それだけ。

 えっ、防具は!? ないの!?

 驚く私に反して、周りは疑問にも思わないよう。二人が訓練場に降りていくと、周りで鍛錬に励んでいた騎士達も手を止めて場所を広く空けてくれる。

 そんなに皆も見たいくらい強いの? これは期待してしまうわ。

 世間では、観劇の際に推しの名前を刺繍した扇を掲げるのが流行っていると聞いたけど、準備してこなかったことが悔やまれる。ぜひやってみたかった。

 兄とクルト、二人が距離を取って対峙する。緊張を孕んだ空気が満ちて、心臓がドキドキと心拍数を上げる。

 審判役が離れた場所に立ち、手を挙げた。


「始め!」


 鋭い声が空に響いた。

 その瞬間、ギンッ! という刃が擦れる金属音が鼓膜を震わせた。

 ついで、ひゅるひゅると風を切る音が聞こえたかと思ったら、気づいた時にはカランカランと剣が地面に転がっていく。


「……。え?」


 その間、一秒にも満たなかった。

 気づけば目の前には剣を持たない兄の姿と、何事もなかったかのように剣を鞘に収めるクルトの姿があった。


「えっ!?」


 いま、何が起こった!?


「試合にもならなかったか」

「申し訳ありません。殿下に怪我をさせるわけには参りませんから」


 目をパチパチと瞬かせる私の前で、兄が嘆息を吐き出しながら兜を脱ぐ。対するクルトは、申し訳なさそうな顔をしていた。


(これで終わり!?)


 クルトが試合開始と同時に兄の剣を一撃で吹っ飛ばして、おしまいなの!?

 しかし、恐ろしい速さだった。戦いに慣れた私の目にすら、瞬きする間もない出来事だった。しかも兄が怪我をした様子はないから、クルトは本当に剣だけを綺麗に弾いたことになる。あの一瞬で。

 しかも位置的に私のいる場所に剣が飛んできてもおかしくなかったのに、誰もいない場所へと剣が落ちている。もしそこまで計算されていたならば、と考えて戦慄した。

 前世でも電光石火で上級魔族を真っ二つにすることが得意だった魔法騎士がいたけれど、今世でもそれに匹敵する逸材に出会えるとは。

 しかもそんな相手が、私の護衛騎士だなんて。


(宝の持ち腐れではなくて!?)


 急に不安になってきた。そんな優秀な人材が私の護衛騎士を務めているだなんて、勿体なさすぎる。

 剣を返してから兄と一緒に私のそばに戻ってきたクルトを見上げる。


「クルトは私ではなくて、お兄様の護衛騎士になることを希望した方が良いのではない?」


 その方がやり甲斐もあるし、王女より皇太子付きの方が名誉でもあるでしょう。兄だって、これほどの使い手がいたら安心していられるはず。心配ないくらい平和な国ではあるけれど。

 兄をチラリと見たが、何も言わない。ただ面白そうにクルトを見ているだけだ。

 クルトは眉尻を下げて、首を横に振った。


「謹んで、ご遠慮申し上げます」

「お兄様を選んでも、私は怒らないわ」


 迷うことなく断られて目を瞬かせた。私に遠慮することはないのに。

 すると、グレーの瞳が真っ直ぐに私を見つめる。


「トワイリリィ殿下にお仕えしたいのです」


 はっきりと宣言された。逸らされることのない瞳に、強い意志を湛えて。


(それって……)


 クルトに一歩近づく。腕を掴んで引くと驚かれたけれど、私に引かれるままにやや身を屈める。それでも足らない分は背伸びをして、クルトの耳に唇を寄せた。


「つまりクルトは……、私のそばで楽な護衛の仕事をしていたい、ということなのね?」


 なんて、ふてぶてしいの!? でもいっそ清々しいほどに潔いわ。皇太子に仕える名誉を捨てて、怠惰を貪ろうなんて。

 なかなかできない選択よ!


(でも、その気持ちはよくわかるわ)


 私も前世で滅多に帰れない城に帰った時は、永久にベッドと添い遂げたいと思ったものよ。人間、一度怠惰を覚えると抜け出せないものよね。

 理解を示して深く頷く。クルトは心底困った顔をして私を見下ろしていた。

 図星を刺してしまったせいかしら。別に責めたりはしないわ。生き方は人それぞれだもの。当人が王女の護衛が適任だと思っていて任を全うしてくれるなら、私から言うことは何もない。

 兄には聞こえないよう声を潜めたつもりだけど、視界の端で兄が残念なものを見る目で私達を見ている。

 聞こえてしまったかしら!? 聞かなかったふりをしてください!

 兄とクルトの間に入り、クルトを守る形で兄に向き直る。


「お兄様、ごめんなさい。クルトは渡せません」


 どんな理由であれ、騎士がそこまで私を選んでくれるなら、それに応えるのが主人というもの!


「私は欲しいとは一言も言っていないのに、なぜ振られた形になっているんだ?」


 兄が呆れた顔をして、ぐしゃりと私の髪を乱すように撫でた。断られた腹いせですか!?

 私が両手で髪を直している間に、兄は「私はそろそろ戻る」とひらりと手を振った。その姿は、本当に未練はなさそうだった。

 颯爽と立ち去る姿を見送ってから、クルトを見上げる。

 先に言っておかなければならないことがある。


「ところでクルト。私を選んでくれたのは嬉しいけれど、実はこれからとても元気になる予定だから、クルトを振り回すかもしれないわ」


 後悔しても遅くってよ!

 そんな気持ちで見上げた。しかしクルトはまじまじと私を見つめた後、少年みたいな笑顔を見せた。

 

「望むところです。親愛なる王女殿下」


 そう言って目を三日月型に細める姿は、本当に嬉しそうに見えて。

 ……もしかしてクルトは怠惰でいたいわけではなくて。

 ただ王女に仕えるのが趣味なだけかもしれないわ!?



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