1 私、生まれ変わってる!?
息が苦しい。喉から胸にかけてぜえぜえと喘がせても呼吸が楽にならない。
城の中の自分の部屋のベッドの天蓋を仰ぎ、いつまでも夜が明けないような不安に駆られる。
生まれてから16年間、ベッドの上で過ごすことの方が多かった。今日も変わらず、私はベッドの住人。
(こんなに苦しいなんて……やはり私は死んでしまうのかしら)
苦しさとやるせなさに涙が滲む。
その時だった。
(でも苦しいのは生きてる証拠だから。素晴らしいことではなくて!?)
脳内で自分の呟きに、思わず突っ込みを入れたのは。
(えっ……そうよ、私、生きているわ!?)
なぜ。
恐る恐る腕を上げてみる。すごい。動くわ。
ただなぜかしら。私の腕、やたら白くて細くて、傷もなくてまるで深窓のお姫様みたいね。
(まるでもなにも、まさに深窓の王女ですけれど!?)
先程からやたらと頭に浮かぶおかしな疑問に再び突っ込んだと同時に、頭の中に今までにはなかった記憶が飛び込んできた。
それは、地平線の先まで埋め尽くされた魔族との戦いの日々。
来る日も来る日も、先陣を切って魔法をレーザービームに変えて敵を薙ぎ払いまくり、片っ端から蹴散らし続け、ひたすら魔族を殲滅していた人族の女王たる自分。
ちなみに享年19歳……だった気がする。
ああ、思い出してもなんて殺伐とした19年だったのだろう。
魔族がひしめく土地に面した国の王族として生まれ、14歳の時に父である王を亡くして、長女で魔法の才に飛び抜けていたという理由で私が女王となった。3歳年下の弟と国と民を守るために戦って……よく考えたら父が亡くなる前から戦っていたわ。戦闘狂か?
いえ、私が国で一番の魔法使いだったから仕方ない。
そんなわけでひたすら前線に立ち続け、自分の国にすら年に一、二度しか帰れなかった。正直、戦うしか脳がなかったから政治は幼なくとも優秀な弟に任せていた。でもその可愛いはずの弟の顔すらうろ覚えだわ。なんてことなの、前世の私。
とにかく、一に戦い、二に戦い、三、四も戦いで、五も戦いに明け暮れた人生だった。
そして魔王を滅ぼすために最後の力を振り絞り、確かな手応えと同時に自分の命も潰えるのを感じた。
思い出すのはあの時のいいしれない達成感と、ちょっとのむなしさ。
私の人生は戦いだけだったわ……。
思い返すと、なんてさみしい。
(それが深窓の王女になったというの……? 魔族に恐れられて、味方にすらむしろ私こそが魔王より魔王だと謳われたくらいの、戦うだけしか脳のなかった女王である私が!?)
戦いの心配もない、魔族もほとんどいなくなった(前世で私が頑張ったからね! えらいわ!)世界に生まれ変わっただなんて。
ありがとう、神様!!!
たまにはいい仕事してくれるじゃありませんか! やればできるのね! どうして前世でそうしてくれなかった!?
まあいいわ。許すわ。だって。
(いま生きてるからよ! やった! 私、生きてる……!)
素晴らしいわ!
3日間も続いている熱で体はだるく、体調が回復したわけではない。しかし気持ちはやけに上向きになっていた。
興奮さめやらぬままにずるずるとベッドから這い出した。今世の自分を確認すべく、根性で姿見の鏡までよろけながら辿り着く。素足で歩いても毛足の長い絨毯が敷かれていて寒さは感じない。
さすが王女の部屋。毎日、魔族が蔓延る深い森の中で息を潜めて野営した日々が悪夢に思えてくる。実際、地獄だったわ……。
思わず遠い目になりかける。
とはいえ、けして今ここに生まれ育った自分を忘れたわけではない。だけど前世の記憶も戻った今、改めて確認したかったのだ。
美しい私を!
(なんって可愛いの! このぱっちりとした大きな目! 風が起こせそうな睫毛! 小さな口! さらさらで癖のない美しい銀髪!)
髪の色こそ前世と同じだけど、前世では赤かった目が今世では輝くエメラルドグリーン。
傷ひとつない、すらりと伸びた白い手足。小さな顔。華奢な体は保護欲を煽る。あどけなさの残るバランスの良い顔立ちには我ながら見惚れてしまう。
完璧! 完璧だわ! 美少女の中の美少女!
これならば私は、今世こそ前世で叶えられなかった夢を叶えられる。……いえ、前世も美しいとは言われていたのよ? ただ立場と力的に怖がられていただけで……
まあ済んでしまったことはいいわ。
それよりも、大事なのはこれからよ。
(この美貌と権力で! 私は必ずや! 素敵な恋をしてみせる!)
目指せ、婚活!!!
前世では戦いに明け暮れていたから男ばかりの中に放り込まれていたけれど、浮いた話は何一つなかった。だって私は女王。ましてや味方にすら魔王のように畏怖を覚えられていた。
というか、毎日が生き延びることで精一杯でそれどころではなかった。
しかし、そんな環境の中で部下がぽつりと漏らしたことがある。
『オレ、この戦いが終わったら結婚するんだ……』
その言葉に、内心では激しく衝撃を受けた。
明日をも知れぬ戦いの日々の中、自分が生きる目標に想い人との結婚を掲げるなんて。
結婚って、そんなにいいの!?
いえ、まずは恋愛ね。恋愛って、そんなに素晴らしいものなの!? えっそんなに? そこまで?
それを知らずに生きて、そして死んだ私には、それはとても素晴らしく眩しいものに思えた。
(だから今度こそ、恋をしたい!)
この美貌と権力をもってして、王女トワイリリィ、今世では婚活に勤しみます!
新連載です。読んでくださってありがとうございます!
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