第5話 覚醒
「ガルルルル」
「はあっ、はあっ。」
マナはバークウルフから必死に逃げ回っている。
「振り返っちゃ駄目だ。その隙を突かれてやられてしまう。引き返してもあの子を巻き込んでしまうし、前に進むしかない!」
なんとか追いつかれまいと走り続けるマナだったが人間の足が狼に勝てるはずもなく、いつの間にかバークウルフはマナの真後ろにいた。
「ガアアア!」
「えっ、うわっ!」
背後からの鳴き声で狼の接近に気づいたマナは体を捻り、真横へと跳ぶ。真横への跳躍は上手くいき、狼の飛びかかりを回避することに成功する。しかし、倒れ込むように跳んだ為、すぐには起き上がることができない。
「ガルァアア」
「うわああ!」
「ウインド(Lv0)!」
マナが狼に襲いかかられそうになった瞬間、リイがマナたちに追いつき、ウインド(Lv0)を使って狼を吹き飛ばす。
「マナ、大丈夫?!魔法のことも知らないのに狼に挑んだら駄目だよ!」
「・・・・!!あいつが起き上がった!」
「ガルァ!」
バークウルフに視線を向けると、バークウルフはリイの方を睨みつけている。
「さっき火属性の魔法で倒せなかったのなら今度は別の属性の魔法で・・・・」
「ガアアア」
「なんだ?何か様子が・・・・」
バークウルフが急に唸りだしたかと思うと、バークウルフの目の前に大きい魔法陣と小さい魔法陣が一つずつ現れる。それに向かってバークウルフが吠えると、目の前に骨のような上顎と下顎が出現し、それがリイのもとへ飛んでいき噛みつき攻撃を行おうとしてくる。
「危ない!!」
「ヴァ、ヴァリア(Lv0)!・・・・キャッ!」
リイはそれを防御魔法で防ごうとするが、バークウルフのバークファング(Lv1)を完全には防ぎ切れずに吹き飛ばされてしまう。
「あっ・・・・」
「ガルルル」
先程リイに攻撃したバークウルフは今度はマナの方を向いていた。
「まさか最初から俺を狙うために邪魔してくる人を攻撃したのか・・・・」
「グアアア!」
「くっ、うわっ!」
バークウルフがマナに向かって噛み付こうとしてくる。それをマナは持っていた物干し竿で防ぐ。バークウルフは物干し竿に噛み付くと、そのままマナを押し倒す。
「ぐ、ぐううう」
「グルルル、フー、フー!」
「くそっ、ここまでかよ。俺はもう、また死んでしまうのかよ!」
なんとか物干し竿で押し返すが、力の差は歴然である。涙で視界が滲んでくる。このまま押され、噛みつかれるとマナは喰われて死ぬだろう。精神力が限界を迎え、マナの意識は真っ白な中へと落ちていった。
「あなたはまだ生きられる。私の言うとおりに魔法を紡いで」
「えっ?」
真っ白な空間の中でマナはまた誰かの声を聞いた。
「グルルル」
はっ!!バークウルフの唸り超えでマナの意識は現実に戻される。
「くそっ!」
マナは右手を突き出すと、そこに魔法陣が現れ、ウインド(Lv0)が発動して狼を吹き飛ばした。
「グアアア!!」
「はあっ!」
今度は足元に跳躍(Lv0)を発動させて空中へ跳ぶ。真っ白な空間の誰かに話しかけられてから、マナはまるで最初から知っていたかのように魔法が使える。
「マナ!・・・・え?」
リイがマナに追いつくと、マナは空高くにジャンプしていた。あの高さへは魔法が使えないと跳ぶことができない。
「なんで?マナは魔法を知らないんじゃ・・・・」
マナは物干し竿を見つめると魔法陣を発動する。
「ウインド(Lv0)!!」
すると物干し竿に風が発生する。
「サンダ(Lv0)!!」
今度は物干し竿に電気がビリビリと流れる。
「ガアアア」
狼が下で待ち構えている。
「これで終わりだ!!スラッシュLv0!!」
「グアアア!!」
マナは狼に物干し竿を振り下ろすと真っ二つに切り裂いた。
リイはそれを見て驚きを隠せなかった。
「マナが魔物を・・・・倒した?・・・・」