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第6話 逃避行 with princess

 王女様が目の前にいる。しかも、こんな裏通りで一人。

 それは、はっきり言って一大事だった。

 本来ならばあり得ない光景だ。彼女は基本的に城から出ないし、城下町に出たとしても

 常に護衛がついていた筈だ。


「ど、どうしてこんな所に? 」


「は、話は後でします! 取り敢えず、私と一緒に逃げてください! お願い致します! 」


 王女が駆け出したので、慌てて後を追う。

 するとなにやら後ろから声が聞こえてきた。


「この辺に逃げ込んだ筈だ! どこいった!」


「くそっ、王を殺しやがって! 王女とは言え許せねぇ!」


「見つければジャミ様から褒美も貰えるし王女様も好きにしていいってよ! 捜せ!」



 複数の男の声がした。

 息をひそめ物陰に隠れていると、彼等は俺と王女が逃げた道とは違う方角に

 行ってくれた。ほっとため息をつく間もなく、王女は走る。走る。

 やがて通りの奥側まで来た。ここなら暫く先程の輩も来ないだろう。


「王女様、どうして逃げてらっしゃるのですか?」


 と、問うと王女様はフードを握りしめ、ふるふると震え出した。

 そして少し間を置いた後に、ぽつりぽつりと喋りだす。


「……手短にお話します。実は、あなたが居ない間に父は宰相ジャミに

 殺されたんです」


「ええっ!? 」


 あまりにも唐突すぎて、つい大きな声を出してしまい王女様に

「お、お静かに……」と口に指を当てて注意された。

 宰相ジャミと言えば、この国で王よりも実権を握っているとされる男だ。

 眼鏡をかけ、外見はいかにも優男って感じだ。

 実際に誰にでも優しく、平等かつ思いやりがある……云々と、非の打ち所の無い人

 だった筈だ。王からの命令を俺や兵士、騎士に伝令する役割も持っていた。

 それが、どうしてまた──。


「どうも、彼は父を殺して名実共にこの国の頂点に立ちたかったようです。

 でも、それには私の存在が邪魔なので私が父を殺した、などと言う噂を流されています。

 ……ジャミ派の兵士や騎士などが多いのはご存知ですよね?

 彼等の手による印象工作も徹底されて、私には抹殺命令が下されました。

 私は結局味方である使用人の方に逃がされ……今、ここにいるわけです」


 王女はここまで話した後、一息ついて、また少し震えた声で話始めた。


「実は、この件には貴方も関わっている、と根も葉も無い噂を流されています。

 ジャミから貴方の抹殺命令も下されているんです」


「……まじか」


 数日空けただけでこんな事になっているとは。

 こんな事ならもっと早く帰るべきだった。

 俺は確かに王に対して不満を抱いていたが……

 別に死んでほしいとまで思ってた訳じゃない。


 と、俺が考えていたことが顔に出ていたのか、王女は複雑な、

 でも少しだけ慰めるような顔をして、


「べ、べつに貴方が責任を感じる必要はないですよ。確かに、貴方が城に

 いたならこんな事件も怒らなかったのかもしれませんが……今思えば、

 魔王討伐に行かせたというのもジャミの策略かもしれませんね」


 と、言ってくれた。

 俺は、彼女のあまりにも冷静な判断の仕方に驚いた。

 確か彼女は15とか16くらいだったはず。父親が死んだというのに、よくぞそこまで

 分析できているものだ。


「王女様、ここから壁の方まで行けば、俺があなたを連れて外に逃げられます。

 壁まで向かいましょう」


「……はい!」


 短く返事をした王女がまた走り出したので、俺もそれについていく。

 道中は人気が全くない。このまま行けば、あっという間に壁まで行って、

 自分の跳躍で壁を越えられるはず──


「そこまでだ!!」


 背後から大きな声がした。

 振り替えると、そこには燃えるような赤髪を持ち、大剣を背中に背負い、

 こちらを睨み付けてくる美男子がいた。

 黒いコートのようなものを纏っている、という事は──


「サイデス騎士団、副団長のゴウカ……貴方まで、ジャミの味方につくと言うのですか」


「俺はジャミの味方ではありません、正義の味方です。

 ……さぁ、勇者の名を振りかざした悪党よ、今ここで俺の剣に散るがいい!!

 王女様は返して貰うぞ!!」


 ガッと音がしたかと思うと、次の瞬間にはもう

 目の前に大剣の刃が迫ってきていた。

 俺は慌てて剣を抜き、なんとかそれを食い止める。

 膂力はあちらの方がやや上らしく、止めたはいいものの少しずつ押され始める。


「や、やめろ! 俺も王女様も、何もしてないぞ!!」


「とぼけるな!  団長が申していたぞ!

『勇者は魔王の側へ寝返り、更には王女様をもたぶらかしてこの国を自分の手中に

 治める事を企てている』とな! 我らの王の命を奪った罪は重い!

 ここで断罪してくれる!!」


 ゴウカはその整った顔を歪めながら、自ら炎を纏い、それを剣に伝わらせる。

 大剣が燃え上がり、俺は後ろに下がる事を容赦なくされる。


 彼は強い。戦っても敗けはしないかもしれないが、時間はかかるし

 自分も傷を負う可能性が高い。そうなれば俺も王女も捕まり、バッドエンドだ。


「でも、戦うしかない──!」


 自分の剣を構えなおし、ゴウカに向かって駆け出し、一太刀加えようとする。

 上手い事、斬撃はコートを裂き、彼の肉体に傷をつける。しかし止まらない。

 お返しに、燃え盛る大剣で脳天を割られそうになったので、アクティブスキル、

『神盾』を使い、バリアを張って攻撃を弾く。弾かれたと気づいた瞬間、

 ゴウカは俺と距離を取り、また大剣を構えなおした。彼の下に、魔力が

 集中していく。どうやら彼の持つ「必殺技」が来るようだ。


 どうすればいい。相殺する事は可能だ。でも、そんな力と力のぶつけ合いでは、

 周囲に被害が出る。それは、避けたい。

 彼を倒し、なおかつ被害を出さない為には圧倒的な力で先に彼を止めるしかない。



「そうだ、このペンダント……!」


 これを持って祈れば、ミアが力を貸してくれる筈。俺は手にペンダントを握りしめ、

 あの魔王の顔を思い出して必死に祈った。


 力を貸してくれ、ミア。




 すると、握りしめた手の中から微かに緑色の光が漏れだして辺りを包み込み──







 ──何も起こりませんでした。



「えっ!?あれっ? おい!!」


「ただの目眩ましか、小賢しい!! お前など斬り捨ててくれる!!

『オメガブレイク』!!!!!」



 異常なまでに膨れ上がった魔力と、剣に纏わせた炎を持ってゴウカが襲い掛かってきた。

 あれは、喰らったら恐らく俺でもただでは済まない。自分一人だけ逃げる事は出来るが、

 それでは後ろの王女が死んでしまう。



 正念場だ、何のための力だ。ここで死ぬわけにも、王女を死なせるわけにもいかない。

 見せつけろ、勇者の力を──!!!



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