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第5話 半世紀のステイホームと家出

ミアに逆プロポーズされて、三日が経った。

そう、三日が経ってしまったのだ。帰りたくない俺は、帰る時間をずるずると延ばし……結局、こうである。

しかし、その間わかった事がいくつかある。


まず、ミアは何故この城から出られないのか。

それは、最初に俺がこの城に入ってきた時に通り抜けてきた結界に問題があるらしい。

あの結界は、人間は通すものの魔族や魔物は通さない結界である、というのだ。

じゃあ今まで人間はなんでこの城に来なかったのかというと、そもそもこのミスト領には人間が少ないのと、

並みの人間ではこの魔王城の周囲に立ち込める霧を突破できない、というのもあるらしい。

加えて、門も本来ならば合言葉を知らないとびくともしないらしく、門以外は城よりも高い壁で囲まれているのでまず入る事は

不可能らしい。壁を乗り越えればそれはそれで強力な電流が走る……と、全く持って入らせてくれる要素が無い。

なんの為の城だよ、と突っ込みたかった。


「まぁ、この城は……我を幽閉するためにこうなってしまったからな。400年前、それこそ我が100歳ちょっととかまでは

普通の城だったのだ。普通の城だったうちに、外の世界を見ておくべきであったな……」


あと、わかってはいたけどミアと俺との歳の差が凄い。話してる限りミアは、精神年齢的には14歳、どうかすればそれ以下で

止まってるような気がしなくもないけど、それでも500年以上は生きている。

しかし、500年引きこもりってギネスが取れるレベルである。この世界、ギネス無いけど。

外の世界の知識だけはあるのに、実体験がないというのもかわいそうだよなぁ……。


「結界さえなければ、我も外に出られるのだが……我の力をもってしても、あれは破れない。

そうこうしているうちに、考えた事があるのだ。このままでも、いいかな、って。だって今はユイがいてくれるし。城の中で暮らしてても何も困らないしな。もし外に出れるとしても我は外に出ない。一生ここで暮らすのだ」


広間でお茶を飲みながら、しんみりとした表情でミアはそういう。

俺はそれもいいな、とは思いつつ……いや、だめじゃないか? 引きこもりの思考回路だ、それ。

なのでダメ元で一つ、ある提案をミアにしてみた。


「よし結界壊そうか」


「人の話を聞いておったか? このままでいいのだぞ? 外に出れるとしても我は出ないからな?」


ミアがぽかん、とした顔をしたままユイの頭をぺち、と叩く。全く痛くはないが仕返しをした。頭を押さえて痛がっているが、

ミアはわりとこういう時ノリでオーバーリアクションを取るので気にしないことにする。


「いや、このままでもいいって、確実にだめだと思うんだよ。ひきこもり治らないと思うんだよ」


「そ、外は危険がいっぱいだぞ? 我がいれば生活には困らないはずだから、外に出るのはやめてくれないか?」


「……まぁ、結界を壊すのは後々やるとしても、なんにせよ王に俺は辞表を出さないといけないからなぁ。

すんなりやめさせて貰えるかはわかんないけど、さすがに連絡もなく3日も城空けてるのはやばいんだよ」


そういって、俺はここに来てからすっかり忘れていた──正確に言えば、わざと意識しないようにしていた『魔通石』を

城にあった箱から取り出した。魔通石はスマホのような薄い板状の黒い石で、使い方は基本的に携帯と同じだ。

文章を送る事も出来るし、離れた場所で会話もできる。文章が送られてくればこの石は仄かに温かくなるし、

誰かが話そうと試みるとこの石は音を立て、光りだす。

それが嫌だったので、箱に入れて音も光もわからないようにしていたのだが──


「ん? 普段なら絶対連絡の一つや二つ、王から来てるはずなんだけど……ないな、どうしたんだ」


まさか、無断欠勤している事に業を煮やした王が俺を見限ったのであろうか。

つまり、端的に言えばクビである。まぁ、元々辞めようとは思っていたけれども。


「何かあったのか……? やっぱ、一回はもどらないとダメだな。いくらブラック企業スレスレとは言え、今まで世話にはなってたし。引き留められてもとっととここに戻ろう」


と、呟くとミアはてくてくと歩いて来て、裾を掴んでくる。


「うう……お主も……我を置いて行ってしまうのか? 」


「そんなにかからないよ、すぐ戻ってくるから。な? 」


涙目になってしまったミアにそう言って、俺は王城に行く支度をする。すると、ミアは彼女の引き出しまで行ってごそごそと中を漁った後、少し古そうな片手剣と紫色の何かを取り出してきた。

それは、シンプルなデザインのペンダントだった。緑色の宝石がひし形になっている。


「これは?」


「これはお守りだ。何かあれば、これを持って祈れ。すぐに我が力を貸す。強大な敵に負けそうな時、魔王の威光が欲しい時、我と会えなくて寂しい時に使うのだ」


寂しさが紛れるんだろうか、これ。

ミアは俺を屈ませて、ペンダントを首にかけてくれた。そして、ペンダントを触りながら、


「必ず、帰ってくるのだぞ」


と、言った。


俺はペンダントを服の内側にしまいこみ、剣を装備して扉に手をかけた。


「いってきます」


「ああ、いってらっしゃい。気を付けていくのだぞ! 絶対帰ってくるのだ! 」


高く、鈴を転がしたような声で、笑顔でミアは見送ってくれた。

手を振る彼女に自然と自分も手を振りながら、


──見送ってくれる人がいるって、いいなぁ。


なんて、そんな事を考えた。



※※※※※※※※※※※※




さて、城を出て数時間、サイデス城の城下町近くまで来たわけだが。


「はぁ……この門くぐりたくない……なんならミアの城の門よりもここの門通るほうが辛いわ……」


この城下町、アライズは魔物の脅威から街を守るために、高い壁がそびえたっている。

なので、門を通る以外にこの街に入る方法はない。常人であれば、の話だが。


「いよっと!!」


門から少し離れた場所で、脚に力を込めて思いっきりジャンプする。

50メートルはあるであろう壁を、何事もないかのように越え、そのまま誰にも気づかれないように

人のいなそうな裏通りに降りる。落下の衝撃は膝を使って受け流した。昔じゃ絶対即死していただろうな、

って事をなんとはなしに考えながら、王城まで人に会わないようにひた走る。


「きゃっ!!」


「おっと! ご、ごめん、大丈夫か?」


人に会わないように気を付けながら走っていたはずなのに、つい曲がり角で自分と同じように走ってきた

フード姿の人とぶつかってしまった。声から察するに、どうやら女の子のようだ。


「ごめんな、怪我とかはないか? 」


「だ、大丈夫です……あ、あれ……? 」


ぶつかってきた少女は、俺の声を聴いて不思議そうな声を出し、そして俺の顔を見て驚く。

しかし、顔を見た瞬間驚いたのは自分も同じだった。


フードの下の流れるような金髪。ルビーのような紅い瞳。柔和な顔立ち。

この顔を、俺は知っている。そう、この顔はサイデス城にいる時、たまに見かけた──


「……王女様、ですか? 」


サイデスの一人娘にして、ラグリアの王女であるソフィアが目の前で

小動物のように震えて俺を見つめていた。

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