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第4話 結婚、それは永久就職

 なんども謝るミアを許し、俺は寝室へと向かった。


「お泊り会と言えば枕投げだが、我々もいい歳だ、そんな事はしない。

 なんて言うとおもったか勇者ユイよ!!」


 先ほども寝室を案内された時に見たのだが、やはりベッドの大きさが

 今まで見たものとけた違いな事に感動している俺に、ミアはとんでもない勢いで

 枕をぶん投げてきた。俺はそれを指で受け止め、更なる勢いをつけてミアに返す。

 するとミアの周りにスッと薄いバリアが張られ、枕がぶつかる。

 これじゃ枕投げとして成立しないじゃないか。


「ミア、もう一つベッド出してくれない?」


 俺がそういうと、ミアは首をぶんぶんと横に振った。

 作ってくれないらしい。なんでだ。


「いや、作ってくれないと一つのベッドで二人で寝る事になるぞ。ミアはいやだろ」


「嫌では無いぞ。……というか、今までずっとずっと独りで眠るの寂しかったから、

 隣にいてほしいのだ」


 またそういう可愛い事を言う。こんなのあっという間に惚れてしまう。

 しかし、相手は魔王、俺は一応勇者だ。

 友達になるのだってどうかと思われるのに、ましてや恋人なんて。

 しかも、こんな美少女と俺じゃ吊りあわない。

 まぁ、今夜だけだし隣で寝るくらいいいか……もし、俺の欲望が止まらなくても

 ミアは強いんだろうし何とかなるだろう。


「じゃあ眠れるまで何か話すか。何が良いかな、外の世界の事とかなら

 多少は教えられたりするけど」


 そういうと、ミアは横で隣になりながらふふん、とどや顔を浮かべた。


「我はアカシックレコードという物を持っておってな、知らない事は何でも

 その本で調べられる。だから、そんなに色々教えて貰わなくても平気なのだ!」


「でも、そもそも調べるための用語とか知らなかったら調べられないでしょ? 

 そうだな、例えば魔通石とかわかる? 

 ここ数十年で出来たらしい、離れたところでも話せる石だけど」


「な、なんだそれは……」


 目を丸くして俺の話を聞いているミア。どうも、数百年という間ここにいたミアに

 現代の事を色々教えねばならないようだ。

 話していくとどうも彼女の知識には偏りがあり、魔法に関する知識などは深いのだが、

 あまりそれ以外の事は知らないようだった。一年しかこの世界にいない俺の方が

 わかってる事も多かった。

 色々と話したり、逆にミアの話などを聞いているうちに夜はすっかり明けてしまった。




 ※※※※※※※※




「どうしても、帰らないと駄目なのか?」


 いつまでも、名残惜しそうに俺を見つめてくる

 ミア。日も昇り、そろそろ帰ろうか、と支度を始めた俺はその手を止める。


 帰らないで、このままミアと仲良く楽しく過ごすって言う選択肢もあるのだろう。

 だが、それはこの領地がある国──俺を雇う王、

『サイデス』が治める「ラグリア」で、指名手配され抹殺対象、

 パブリックエネミーになると言うことである。それは怖い。怖いのだが。


 女の子を一人、ここに置いていく事とどちらが悪いことだろうか。

 そもそもこの魔王、ミアは彼女の言葉を信じるのならば何も悪いことはしていない。

 それは実際、昨日の俺に対する態度からもそうと言えた。


 今までの、決して幸せとは限らなかったが安定した生活を取るか、

 危ない橋を渡ることになるがミアと幸せに暮らすか。たった一日、

 関わっただけなのに随分と俺も情が移ってしまった。



「……そうだな、世界を救えって言われてきたけど、それも疲れたし。

 よし、勇者やめよう。それでここで暮らそう」


「うぇえ!? い、いや、やめてここにいてくれるのは嬉しいのだが、

 勇者ってそんな簡単に辞めていいものなのか!?」


 本当はダメな気がするけど、職業選択の自由ってものがこの世にはあるはずだ。

 この世界で適用されるかはわからないが。


「なぁお主、それならば、本当にそれでいいのならば、やはり我の部下

 ……いや……その……えっと、だな」


 そんな事を考えていると、ミアが口をもごもごとさせ、赤い顔をしながら押し黙る。

 手を後ろで組み、何かを言いかけはするのだがやめてしまう、を何度か繰り返していた。

 だが、数回そうした後に、意を決したように俺に目を合わせてきた。

 その顔は、可愛いと思っていた彼女を、「美しい」と見とれてしまうくらいに、

 凛とした表情だった。





「我と、結婚してくれないか。お主と、一緒に幸せになりたいのだ」





 それは、今まで聞いてきたどんな言葉よりも俺の心を揺らした、

 衝撃的な言葉だった。






 結婚。

 俺が、魔王と。ミアと。






 一瞬でさまざまな思考が飛躍し黙る俺に、ミアは慌てて手を振った。


「あ! ま、まぁ、まだ結婚は早いかもしれないから、まずはお付き合い……

 いや!そもそも改めて友達から初めてみるのもよいぞ!!……だめ、かの?」


 そこまで言い終わるとミアは耳まで赤くなったまま、「浮かれてしまった……すまぬ」

 と、小声で謝ってきた。


 ──俺は考えた。人生で一番ってくらい考えた。



 駄目だなんて、とんでもない。

 答えは、決まっているじゃないか。




 勇気を振り絞って言ったのであろう彼女に、

 男の俺から言ってあげられる事はただひとつだ。




「と、取り敢えず友達からよろしくな!」



 はい。

 見事にへたれました。

 ここで結婚しよう!なんて言う勇気は俺にはなかった。何やってるんだ、俺……



 でも、俺の言葉を聞いた途端にミアはふわっと、今まで見てきたどの笑顔よりも

 良い笑顔を見せてくれた。

 まるで、周りに花畑が広がったようだった。


「よろしくだぞ! ユイ!!」






 ──こうして俺は、反社会勢力と見なされる切っ掛けを作った代わりに、

 魔王の下に永久就職する一歩を踏み出したのであった。

 ここから、俺とミアの困難な、でも幸せな生活は始まったのである。

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