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第3話 人間関係にもソーシャルディスタンスを

「待たせたのだ! 我特性のドラゴンステーキと、秘蔵の龍酒だぞ! 

 とくと堪能するがよい!」


 俺が食堂について少しすると、ミアはエプロンをかけたまま俺の目の前に

 肉汁溢れるステーキが乗っている皿と、籠に入っているパンと酒の入った樽を

 持ってきた。


「なぁ、ミアって400年もここから出てないのになんでこんな新鮮な食料が城にあるの?」


「まぁ、我想像すれば大抵のものはなんでも作れちゃう天才だからな!

 生き物は作れないが、生き物の肉とかそういうのだったらぱっと出せるぞ!」


 なんだそのチート能力。俺も戦いじゃなくて、生活に役立つスキルが欲しかった。


 さて、敵地で出された食事は本来毒などを警戒するべきだが、俺は毒素完全中和

 というスキルがある。

 まぁミアなら今更俺を殺そうとも思わないだろう。なので気にせず頂く事とする。


「取り合えずいただきます。……えっ、美味しすぎるんだが」


 口にいれた瞬間ステーキはとろけ、口中に旨味があふれ出す。

 こんな肉質でこのドラゴンは生きていけるのだろうか。

 正直俺がこの肉の素材のドラゴン目の前にしたらあぶってそのまま食べたくなる

 くらいには美味しい。


「ふふん、そのドラゴンの肉は超上質だぞ! まぁ、我は調理も天才だからな! 

 美味しいのは当然だ! ……でも、美味しいって言って貰えてよかったぁ」


 食べる姿をニコニコと観察される。その頭を俺はつい撫でてしまった。


「ふひゃぁっ!! ……な、何をするのだ! そういうことはまだ早いと思う!」


「いや、そういう事って。つい撫でちゃった俺も悪いけど。ってか俺まだ未成年だ。

 酒は飲めないよ」


 この世界の成人する年齢は日本と同じで20歳。

 俺は成人するのに2年足りないのである。


「む、むぅ……未成年なのか、仕方ないのう。未成年が酒を飲めないのは数百年前

 から変わってないのだな……」


 少し残念そうにしながら樽から酒を出し、それをグラスについで飲みだすミア。

 一気に飲んだ後、ぷはー、と美味しそうな息を吐く。


「ふふ、いつかお主が成人したらこの酒を飲ませてやろう。我と一緒にな~」


 口を拭い、パンを少しかじり、また龍酒と呼んでいるものを飲むミア。

 どうやら見た目と匂い的にワインに近いようだが、材料は何なのだろうか。


「なぁ、龍酒ってなにから出来てるの?」


「竜が踏みつぶした巨大葡萄に、少し龍の血を混ぜたものだ!」


「実質ワインじゃん」


 幸せそうなミアを見ながら、和んでいる自分に気が付いた。

 こんな風に過ごせるのならば、ここに就職するのも悪くないかもしれない。

 そんな事を考えながら、残りのステーキを食すのであった。



 ※※※※※※※※


「うへへ~、ユイ~、お主も飲むのだ~おいしいぞ~」


 俺が食事を終えるころには、既にミアは出来上がっていた。

 いや、弱すぎだろ魔王! それとも龍酒ってのが強いのだろうか。


「ミア、なんというか、近い! 出会って数時間の相手との距離感じゃない!!」


 酔っぱらったミアは俺に抱き着いており、放そうとしても梃でも動かない様子だ。

 全く、魔王に好かれてしまうなんて、俺は一体何をしたんだろう。

 勿論嬉しくないわけじゃないが、こうまでも美少女に近づかれると、

 俺はそろそろ爆発してしまうかもしれない。


「む? もう我らは親友だぞ! 出会ってからの時間は関係ない!」


「関係あると思う! 一応俺だって男子だぞ!!」


 ミアはそれでも俺を放さない。あまりにもふにゃふにゃなので、

 もうそのまま抱き上げて立ち上がってしまう。


「取り合えず、風呂に入りたいんだけど」


「お風呂~? 浴場はな~、あっちだぞ~」


 言われるがままに浴場のほうに向かう俺。と、抱えられたままのミア。

 脱衣場らしきところにつく。それでもミアは放してくれない。いや、

 お風呂に入りたいんだが。


「あの、ミアさん? 放してください?」


「一緒に入る! 友達とお風呂入るのが夢だった!」


「女の子と男が一緒に入って言いわけないだろうが! 外にでてなさい!!」


 思いっきり力を込めて脱衣場の外にミアを置いておき、そのままカギを閉める。

 そりゃ、美少女と一緒に風呂とか夢かもしれないが、ちょっと自分には刺激が強すぎる。

 それに酔ってるのにそういうことをするのもどうか、と思われた。

 なんとも恥ずかしくなりながら、服を脱ぎ籠に入れた。


 浴場に入る。中はとても広かった。俺は体を念入りに洗い、浴槽に浸かる。


「ふう……」


 こんなに色々とあった一日は久しぶりな気がする。

 魔王と戦って……ないな。魔王にほだされて、もてなされて、抱き着かれて。

 こんなの、王の所に帰ったらもう味わえない。

 あれ?俺って帰らなくても良くない? このままここにいてよくない?

 でも、国を敵に回すのはなぁ……


 そんな事を考えているうちに少し眠気がしてきたので、これは危ないと風呂を上がった。

 脱衣所に行くと、いつの間にか新しそうなシャツと白くて動きやすそうな服が

 用意されていた。

 きっとミアが用意してくれたのだろう。なんて気が利く魔王なんだろうか、と

 感動した──が、さっき脱衣所には鍵をかけたのを

 思い出した。つまり、鍵は開けられていたのである。


「流石魔王……魔王である事関係ないか」


 呟きながら脱衣所を出ると、そこには顔を手で押さえ、うずくまっているミアがいた。

 わずかに見える顔色は真っ赤に染まっていた。


「……なにしてんの」


「酔っていた先ほどまでの自分を猛省しているのだ……」


 なるほど。

 ミアは、「申し訳ない……」と言って、うずくまったままだった。

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