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第20話 昔話と酔いどれ魔王

 酒場にはリーシャさん以外には誰もおらず、閑散としていた。

 リーシャさんは相も変わらずぐぅぐぅと眠っている。エクイテスが彼女をゆすって起こすと、

 眠たげに「ご注文は~?」と言った。


「取り合えずこいつらにビアーだ! 未成年もいるっぽいけど気にしないでくれ!」


「未成年はお酒はダメだって何回言ったらわかるの~、サイダーでもだしとくわよ、3人分」


「我は未成年では無いぞ! 」


 ミアが声を張り上げる。そういえばこの子500歳越えてたな。

 暫くすると、皆の下にお酒とサイダーがふるまわれる。エクイテスが一気飲みして、「おかわり!!」

 と、元気よく言った。


「いやぁ、これで長きに渡るギィとの対決も決着がつくかもしれねぇな!」


「ギィってのはそんなに長い事この街を苦しめてきたのか?」


「あぁ」


 エクイテスが少しだけ真面目な顔になる。と、酒場の雰囲気が少し変わった。

 リーシャさんは寝ぼけ眼を開き、エクイテスを見る。オウガは、自分の持っているグラスを強く

 握っているのがわかった。


「まぁ、俺らは奴と個人的な因縁もあるんだけどな。ちょっと長くなるが、おっさんの昔話でも聞いてけ」


 そう言うと、エクイテスは酒を片手に自分と、リーシャさんとオウガ達とギィの間にある因縁を語りだした。



 ※※※※※※※※


「俺は元々王の下に仕えてたんだ。あふれ出る魔物を斬っては斬り倒してきた。

 それなりに名が広まるほどには活躍したけどよ……ある日、ギィ討伐を命じられてな」


「その討伐に、魔物だけどエクイテスの強さに感服した私とオウガが着いてったのよね~」


 リーシャさんがエクイテスの話に相の手を入れる。ってかリーシャさん魔物だったのか。


「後……王が当時気に入っていた『異世界』とやらから来た勇者、ナナミがいたよな」


 オウガがそう言った途端、エクイテスのリーシャの顔が暗くなる。

 数秒間沈黙があった後、やがてエクイテスが口を開いた。


「そう、だな。それで、その四人で戦いに行ったんだけどよ……奴は予想以上の強さでな。

 俺らじゃあ歯が立たなかった。唯一太刀打ちしていたのがナナミだけで、それで……

『ここは私に任せて』って言葉で、俺達は……」


 そのまま黙ってぐいっと残った酒を飲み干すエクイテス。その後の展開は容易に想像できた。

 きっと、その話が本当なら俺と恐らく同郷である「ナナミ」という人物は、一人でしんがりを務め、

 亡くなってしまったのだろう。


「あれ以来、俺は人間と住まなくなった。またしても人間に救われるなんて事が無いように。

 でも、お前を誘ったって事は心の底では誰かに期待してたのかもしれない。いや……」


 オウガがグラスをテーブルに置き、俺の方に向かい合いじっと目を見てきた。


「俺は、人間に殺されるか、人間を庇って死にたいんだ。あの日の罪を裁いてほしくて」


 目をそらし、手を組んで何かに祈るようなポーズをオウガが取った。

 隣にいるソフィアが、おずおずと背中をさすってあげていた。


 なるほそ。オウガが人間に殺されたかった理由も、そして俺をすぐ信用してくれたのも……俺に対してエクイテスが

 少し期待しているように見えるのもわかった。


 きっと、俺はナナミって人に似ているんだろう。

 まぁ確かに同郷ならば黒髪で黒い瞳は似ているかもしれないが。


「俺はなぁ、お前に、少しナナミを重ねてたかもしれん。その強さも、見た目も、瞳もなんだか似てるんだ。

 でも、俺は決めている。今度こそ、誰かに後ろを任せるなんて事はしねぇ」


 なるほど。

 リーシャさんもこくり、と頷いた。きっと同じような思いなのだろう。

 でも。


「いや、戦う前からそんなネガティブでどうするんだ。確かに一回敗けちゃって、怖いってのは

 あるかもしれないけど……俺はその、ナナミって人じゃないし。代わりになれるかってのもわかんないけど

 それでも精一杯やる。それに、俺の代わりに誰か犠牲になんてなってほしくない。だから」


 自分の思いを喋り、椅子から立ち上がる。

 震えるような声が腹の底から湧き上がるのを感じた。


「だから、エクイテスも、オウガも、リーシャさんも。

 命を投げ捨てようなんて考えないでくれ。三人とも、そういう目をしてる、から」


 なんとなくだが、この世界に来て一年で自分には人の目を見る癖がついていた。

 そして目を見ると相手の考えが多少なりともわかるようにはなった。もしかしたらスキルのおかげかも

 しれないが。


 この三人は、自分の命などどうでもいいって目をしていた。

 ギィを倒せるなら、なんでもすると。そういう悲壮な決意が感じられた。


 でも、俺は。この中の誰にも死んでほしくなんかない。


 と、突如横腹にミアが抱き着いてきた。

 見ると顔が赤い。しまった!ミアはお酒を飲むと普段以上にデレが強くなるの忘れてた!


「大丈夫なのだ! 我とユイがいればお主等は死ぬことなどありえん!

 ユイもだ! お主の事は我が絶対、ぜーったい死なせぬからな! だから安心するのだ! 」


 ミアがお腹に顔をうずめながら喋ってきた。くすぐったい!

 というか、良い事言ってるはずなのにこの体勢のせいで台無しだ。


「ミア、ちょっと離れよ! 酔うのが早いよ!」


「酔ってなどおらぬ! 酔うと顔が赤くなるのだろう!? まだなってないはず! 」


「充分赤いからね!! 」


 俺とミアがもみあっていると、リーシャさんがくすくすと笑った。

 それにつられソフィアも笑い、エクイテスも「仲いいなぁお前ら!」と笑い、

 しまいにはオウガも仕方ないな、という顔で吹き出していた。

 なんだか恥ずかしい。


 ともあれ、ミアのおかげで雰囲気が変わったのも事実なのであった。

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