第18話 剣と刀、思いと想い
ちょっと真面目なハイファンっぽくなってきた
エクイテスを連れ戻し、店主を起こして勘定を払わせた。
「いやー、リーシャ、すまん! すっかり忘れてたぜ!」
エクイテスは笑うと、店主──リーシャ、と呼ばれた、眠たげな目をした
20代半ばに見える女性に硬貨を手渡した。
「これで忘れるの何回目なの~? いい加減、ちゃんと、
今までのツケとか払って……よね……ぐぅ」
「寝た!!!」
話しているうちにだんだんとウトウトし始め、またしてもカウンターに突っ伏してしまった。
寝ている間に泥棒とか入ったりしないのだろうか。心配である……。
「まぁ、リーシャは夜に本気出すタイプだからな。例え寝てる間に金とか盗まれても
こいつなら夜に取り返しに行くから、平気だぜ、いこう」
エクイテスはそういって、リーシャの頭を雑に撫でた後また扉から出ていった。
行先はこの酒場を出て更に奥の方にある、今は使われなくなった闘技場だ。
遮蔽物もなく、十分な広さがあるから存分に戦う事が出来るとの事。
しかしいきなり戦う事になるとは。
酔っていそうとはいえ、あのエクイテスという男はぱっと見かなり強そうに見える。
期待に応えられるほど、俺は力を見せつける事が出来るのだろうか。
「ユイ、我は応援しておるからな。それに、あれだ、敗けたとしてもその時は我が戦って仇を討ってみせよう」
なんか俺よりもカッコいい事を言っているミアに少し元気づけられた。
そうだな、戦う前から負ける事を考える馬鹿がいるかって偉い人も言ってたしな。
決闘なんてあまりやった事は無いけど、ここでミアにカッコ悪い所は見せたくない。
そんな事を考えている内に、闘技場の目の前に来ていた。
「さて、ついたぞ。ここからはお前の正念場だ。力を見せつけろよ」
オウガがそう言って、背中を軽く押してくれた。
なんだろう、初対面から一時間程度でめっちゃ兄貴感出されてる気がする。
……そういえば、オウガは俺と戦った時には一瞬で負けを認めていたけど、さっきエクイテスが言ってた
「人間に殺されたがっている」って言うのは本当なんだろうか。だとしたら、あれは完全に手加減されていたって
事になる。そんな事、一人で考えていても仕方ないのだけど。この試合が終わったら、エクイテスにでも聞いてみるか。
「おうおう、ちゃんと来たな、坊主!」
エクイテスが、既に闘技場の真ん中で腕を組んで突っ立っていた。こうして見ていると、彼には何かオーラのようなものがあった。強者が放つ、独特のオーラだ。特に普段から意識するものではないが、ミアにも、ゴウカにも似たような何かを感じていた事を思い出す。
俺の、少し苦手で、一歩引いてしまうオーラだ。
「さてと、この試合では特にルールはない。審判はオウガに務めて貰う。あいつが止めるまでは
腕がおれようが顔が潰れようが終わらんからな。本気で来い! 」
エクイテスは叫ぶと、この国では珍しい、日本刀によく似た形状の武器を鞘から
取り出し、居合の構えを取った。
俺も剣を構える。前に持ってた市販の剣はゴウカと戦った時に吹っ飛ばされてそのまま
おいてきてしまった。だから、ミアの城にあった剣をずっと使っているのだが、少し自分には
重いように今になって感じた。でも、弱音を吐いても仕方ない。
駆け出し、右手に持った剣でエクイテスの刀を狙う。武器を弾き飛ばす。
それが第一目標だ──
「甘い!!」
右足で踏み込み、まさに剣を振ろうとしたその瞬間に、自分の剣は弾き飛ばされ、
地面へと突き刺さった音がする。何が起こったのかわからない。が──
「お前、本気でやってない……いや、本気の出し方を知らないのか?
今、武器と武器を交えた瞬間、お前の本質が垣間見えたぞ」
吹き飛ばされた武器がどこにあるかもわからないまま、俺はそのまま説教を食らっていた。
本気の出し方を知らない、だと?
「お前は人間、もしくは人間の姿に近い奴にはちょっと手加減したり、容赦をかけようと
している奴なんだろう。無意識かもしらんが、その思いの鎖がお前を縛り付けている!
──オウガの事も、見逃してるしな」
それを聞かされて、何かが心に刺さった。
人間、もしくは人型に手加減している。それは、自分自身でもどうしようもない弱点だと
実は知っていた。人間相手の仕事では、極力殺さない立ち回りをしたし、どうしても殺さねば
ならない時は仕事が終わった後、何日も寝込むほどに体調が悪くなったりした。
それは、元々俺が人を殺す環境に居なかったからなのだろうか。
ミアをちらりと見る。心配そうに、おろおろとした表情でこちらを見ていた。
あぁ、そういえば。ミアと戦った時も、「戦わないでどうにかならないか」なんて
戯言を吐いた気がする。結果的に、丸く収まったからいいものの、ミアが本当に
極悪非道の魔王だったら、俺はあそこで死んでいたんじゃないだろうか。
「それにな、お前相手が強いとみると委縮するだろ! それも実力を出せてない事に
繋がっている! と、言うのが俺の意見だ。どうだ? 」
何も、間違っていなかった。
俺は臆病で、弱い。勿論女神から強い能力はもらってる。でも、それで
恐怖なんかが無くなるかって、そんな事はない。俺の力は貰い物で、自分で身に着けた
力じゃない。一年間、自分にそう聞かせてきた。力の万能感に酔いしれる事も、
力を信じすぎる事も無かったが、同時にそれは自分を信じられない事へも繋がっていった
気がする。
「エクイテスさんは、なんでそこまで」
「俺は武器を交えると相手の事がわかるスキル『心眼一閃』を持ってるからな。
まぁ、それに頼らなくてもお前が本気じゃなかった事はわかったが」
そう言うと、エクイテスは刀を肩にかつぎ、ずかずかと俺のところまで歩いてきた。
そして、俺の首に刀を当てる。遠くでソフィアが「ひゃっ!」と言った声が聞こえた。
「言っとくが、ギィは人間と見た目は大差ない。見た目はな。加えて、
俺一人じゃ分が悪いくらいには強いぞ。全盛期のオウガ、あとはリーシャが揃って
なお幼体だったあいつに痛み分けだったんだからな。だから、俺はオウガが連れてきたお前、
そしてあそこにいる白髪の嬢ちゃんと金髪の嬢ちゃんに期待してんだ。見ればわかる。
白髪の嬢ちゃんは恐ろしく強い。俺なんか余裕でしのぐかもしれねぇ。
金髪の嬢ちゃんは純粋な戦闘力はあんま無いと思うが、特殊な力があるんだろうな」
刀を首に当てながら、ミアとソフィアの方を見て言ったその言葉に、俺は
驚く。真の強者は人を見ただけで強さを見抜くというが、ここまで正確にわかるものなの
だろうか。いや、ミアの実力とかは俺もまだあんまわかってないけど。
「でもな、実力が一番未知数なのはお前なんだ。そこまで強くなさそうに見えて、
実は白髪の嬢ちゃん以上にとんでもない強さなんじゃないかって、俺は感じた。
だから、武器を交えて確かめさせて貰った。ユイ、お前は……実力の百分の一すらも
出してないな。それで満足なのか? ──護りたいものも、護れねーぞ」
最後の一言が、やけに重く聞こえ、胸にのしかかってきた。
きっとそれは、エクイテスの実感を伴った言葉なんだろうなと感じる。
今の俺にとって護りたいもの。
それはミアやソフィアであるし、この今生きてる時間そのものである。
ミアが笑って暮らせて、ソフィアが安心して生きていられて。
そして、俺がこうして誰かに必要とされているこの時を。
護りたい。失いたくはない。
なら、力をちゃんと使うしかない。
「……ははっ! いい目をするようになったじゃねーか。おっさんの説教は
効いたか? 」
「ええ、とっても。……もう一度、ご指導よろしくお願いします!!」
決意の一言を叫ぶと、エクイテスは心底嬉しそうな顔をしながら刀を俺の
首からどけ、最初の位置に戻った。
「その意気だ。大丈夫だ、お前が手加減しなくても俺はそう簡単には死なねぇ。
──命を賭けて、かかって来い!!」
次回、ユイちゃんが超覚醒します。




