第15話 鬼に喧嘩を売るんじゃありません
そんなこんなで、ついに街に行く事になった。
外で顔をまじまじと見られたらやばいので、灰色のフード付きマントを
全員被る。ミアは、角があると悪魔族であるとバレてしまい、
余計な争いを生むのでと角を取り外し──
ってか、その角取り外し式なのかよ。
「それでは魔王様ご一行ツアー、只今出発致します! 」
先陣を切るのはソフィアだ。彼女も彼女で、城下町などにもあまり出た事が無く、
そういった所に夢を抱いているのだとか。
「ついに私も冒険者に……!」と目をキラキラさせている。
街に行くだけで冒険者になれるのなら誰もが冒険者だが、それを言うのは野暮だった。
ご機嫌なソフィアとは対極的に、ミアは朝からとんでもなく静かだった。
まるで声を失ってしまったかのように何も喋らない。朝ごはんもろくに喉を通って
いないのではないか、と思った。
「ミア、無理しなくてもいいんだからな? 別に最悪、俺だけでも行くのは平気なんだから」
「…………いやだ。一緒にいないと、さびしい」
そう言いつつもぎゅっと俺の腕をつかみながら、目を閉じて微かに震えるミア。
足取りもフラフラだ。
しょうがない。俺はしゃがんで半ば強引にミアを背中に乗せ、そして立ち上がる。
「!?」
「走るぞ!!」
ミアをおぶったまま、ソフィアがついて来れるような速度で走り出す。
魔王城の敷地をあっという間に抜け、外に出て森に入る。森は薄暗いとは言え、
道がちゃんとある分走りやすい。そのまま走り、走り、そして───
「森を抜けたぞ!! ここが──外の世界だ、ミア!」
「ミア、見てください! これがあなたの城から見ていた草原ですよ!」
俺とソフィアは二人してミアに声をかける。
俺の背中で丸まり、目をつむったままだった彼女は、ゆっくり、ゆっくりと目を開く。
「──これが、外の世界」
熱に浮かされたような声がした後、背中が軽くなった。
ミアがおぶわれた状態から脱し、地に足を着けたらしい。
振り返れば、そこには目に入るもの全てを、目に焼き付けようとしている姿があった。
「こんなにも大地が広がっているなんて! 凄いのだ! 二人とも、我についてこい!
気の向くまま、風の吹くままに走るぞ! やっほー!! 」
と、思う間もなくミアは草原の向こう側へと駆け出していた!
「ま、待って! ミア、おいてかないでください! 」
しかしミアは止まらない。止まらないままに、草原の、
森に近い所にあった不自然な柵を乗り越え──
「っておい! そういう柵は乗り越えちゃだめだ──」
「む! こんな所にオーガがいるぞ! 久しいのう、魔物を見るのも! 」
柵の先のほうで鬼族である魔物、オーガと接触を果たすミアを見て俺も慌てて駆け出した。
「なんだ……? 子供がこんなとこにいるんじゃない。
ここは俺様の縄張りなんだよ。スライム狩りの邪魔をするな。殺すぞ」
「何を言うか! ここ、ミスト領は元々我の土地であるぞ!
でもまぁ、我は今機嫌がよいからな! 許してやらん事もない! 」
「いや、お前に許す許されるも無いんだがな。散った散った。
……待て、そっちにいるのは人間だな」
オーガは柵を越えてしまい、ミアに追いついたソフィアを見て舌なめずりをした。
オーガは確か、割と意思疎通が図れる魔物だ。肌の色がやや赤かったり、頭に角が生えている事を除けば
わりと人間のような見た目をしている。ただし言葉が通じるからと言って、決して友好的である、とは言い難い。
勿論人間と暮らすオーガもいるが、こんな所で一人、暮らしているオーガは──
「ちょうどいい、久々に人間でも狩って腹の足しにするか」
こうやって人間を襲おうとしたりするのである!!!
「ま、待て! その子に手を出すな!!」
ミアの後ろにまで追いついたソフィアにオーガが襲い掛かろうとしたところに
割って入る。すると、斧を持ったオーガの手がぴたりと止まった。
「……お前はなんだ。お前も人間だな? 先にお前から殺ってもいいんだぞ」
「後でいいならいくらでも戦うさ。いや、それよりもな、勝手に人の縄張りに入った俺達も悪かったから、
先に謝っておきたい。すまない!」
「……変な人間だな。俺に殺されそうになって謝るなんてな。
ただまぁ、腹の虫は収まらんから戦ってはもらうぞ」
オーガは斧を構え、こちらの動きを伺うかのように視線を這わせた後、距離を取った。
俺も剣を抜き、戦闘の姿勢に入る。
「ユイ! どうして謝ってるのだ!」
「400年城に籠ってたミアはわかんないかもしれないけどな! ここら辺の魔物は
きちんとお互いに縄張りを決めてそこでひっそり暮らしてるんだ! 知らずに踏み込みました、じゃ
すまないんだ!」
「そ、そういう事は先に言うべきだと思うのだ!」
「言う前に飛び出しちゃったでしょ!!」
ここで言い争っていても埒が明かない。とりあえずは、このオーガと戦い彼を何とか鎮めなくては。
じりじりと、オーガはこちらににじり寄ってくる。
次の瞬間、オーガは脚に力を込め、あらん限りの速度でこちらに飛び掛かってくる。
「かち割れろ!」
「『制裁』!!」
斧を振りかぶり、言葉通りに俺の頭をかち割ってこようとするオーガに
アクティブスキルである、『制裁』で反撃する。
『制裁』は剣を持っている時に使える技で、使用すると無数の剣が天から降り注ぎ、
敵を穿つというシンプルな技だ。だが、シンプルなだけに効果は大きい。
「ぐがっ! くそっ……抜けねぇ! 」
剣は手足を貫き、そのまま地面に突き刺さってオーガを拘束する。
なんとか抜け出そうとオーガはもがいていたが、もがけばもがくほど
自分の肉をえぐられるのと、体力が無くなってきたのが重なったのか
やがてオーガはぐったりとなった。
「ちくしょう……弱わいな、俺は。……負けたよ」
「い、意外と潔いんだな。やけにあっさり終わったけど……」
「正面からぶつかり合って実力がわかんねーほど餓鬼じゃない。
俺の最適解は、ここでお前らを見過ごす事だったのに……俺はそれをしなかった。
ここで死ぬのも、自業自得だ」
そんな事をいうオーガが少し、可哀想になったので俺は『制裁』を解除して、
オーガを解放した後に、回復魔法をかけてあげた。
「……? 殺さねーのか? 俺は魔物だぞ?」
「殺す理由が無い奴は殺さない。それに知らなかったとはいえ、
最初にやらかしたのはこっちだし。もしお前が実は裏で人殺してようが、
それはもう魔物としてそういう生活をしなきゃならなかったんだろうから
そこは俺は目を瞑る。ただ、この二人に手を出したら許さないけどな」
「……」
オーガはそれを聞いて、黙りこくってしまった。
と、先ほどまで後ろで震えていたソフィアが、オーガを恐る恐るじっと眺める。
数秒後、ソフィアは少しだけ安心した顔をこちらに見せてくれた。
「大丈夫です。このオーガは、人間を殺した事はありません」
優しい声で言うソフィアに、オーガは少し怒ったような顔で反論する。
「な、なんでそんな事がわかんだよ。俺だってたくさん殺してるかもしれねーじゃねーか」
「私のパッシブスキルに『慧眼』という物があるんです。
それは、人や魔物、物事の本質を見抜く力で──
その慧眼が、このオーガは人を殺していないって、そういってます」
そんな便利なスキルがあるのか。
その『慧眼』を信じるならば、オーガは人を殺したこともない。
なら、やはりここで殺す必要もないよな。
「……ふん。殺した事なんか、ねーよ。俺が殺してきたのは魔物だけだ」
そう言って、オーガはそこらへんにあった岩に腰を降ろす。
そしてため息をついて、こう言った。
「良ければ俺の話を聞いてくれねーか。時間があればでいいからさ」
その言葉を聞いて、三人で顔を見合わせた。
先ほどまでは敵対していた魔物だ。いつ襲ってくるか、わからない。
しかし、ここでその願いを無下にするわけにもいかないだろう。
三人で、オーガに向かって頷く。オーガは、草原のとある方向
──俺とミアと、ソフィアが目指している街の方を見ながら話し始めた。
「なぁ、お前ら。腕に自信がありそうだから頼むが、あの街──
ネブリーナを、守ってくれねーか」
総合ポイントが100ポイント突破しました!
皆さまありがとうございます!よろしければこれからも
応援よろしくお願い致します!感想もまってるよ!




