第14話 とびだせ魔王の森
そう、初めの一歩となったのであった──なんて、そんな上手い話があるわけもなく。
ひきこもり精神が身についた彼女を外に出すのには大変な労力がかかったのである。
「むー! むー!!」
「や、やめろぉ!! こら、ズボンを降ろそうとするな!!!」
あの結界を破ってから更に一週間が過ぎ去ってしまった。
現在、城の庭では俺とミアの一大決戦(8回目)が繰り広げられていた。
ルールは簡単。
結界を破ったというのに外にまだ出ていこうとしないミアVS外に出て行って、
ここから30分程度歩いた先にある街に行き、そこで情報収集などしたい俺の
一騎打ちである。ちなみにソフィアは審判だ。
扉を出たところからスタートし、敷地内から一歩でも俺が出られれば勝ち、
昼の12時まで俺が引き止められていたらミアの勝ちなのだが──
「は、離せ!! こんな所で『怪力』スキル使ってどうすんだ!!」
「お主こそ昨日は『跳躍』スキルを使っていたではないか! それに我の怪力は元々だ!
スキルではないぞ!!」
恐ろしい事を言いながら、足に纏わりつきなんとかして俺を引き留めようとしているミア。
負けじと力をこめ、あらん限りの集中力と根性と気合とかで外に出ようとするが、全く動く
気配がない。こんなのとまともに戦わなくてよかった、と内心で安堵しつつ、体は
外出を求めていた。
「ふたりとも、がんばってくださーい」
「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!!!」」
ソフィアのやる気のない声援が聞こえる中、二人しておたけびを上げるが──
「はぁ……はぁ……うごかない」
「あ、諦めるのだ、我は外には出ないし、お主達も外には出さぬ! ここで一生暮らすのだ!」
ら、埒が明かない!!
でも、ここで勝って次に進まないとどうしようもない!
別に外に出て、今すぐ王を殺したとかいうジャミに復讐したいわけでもない。
そもそも俺自身復讐する動機ないし。いつか戦う時が来たらその時はその時で考えるし。
それでも外に出たいと考えるのは、単純にミアに外の世界を見せたいのと
この国の現在を知る為、街に行って情報収集をしたいからだ。
後、あわよくば仲間も見つけたいし新たな職も見つけたい。つまり
やりたい事がたくさんあるのである。
「あの、なんでミアはそんなに外に出たがらないのですか?
確かに私達は外で見つかれば色々とまずい立場ではありますが、それを差し引いても……」
そう、ソフィアがミアに近寄って聞くとミアは目をぎゅっとつぶりながら、
「だって、ここから出ていった者は、皆帰って来なくなったのだ……
お主達にもそうなって欲しくない、と思うのはそんなにおかしな事なのか?
そうなのか? 」
……そんな事言われたら、何も言い返せなくなってしまう。
未だにミアの過去を全て聞いた訳では無い。が、話を聞く限りではどうも
昔に仲間や配下に裏切られ、そのままずっと孤独を強いられてきていたようだ。
だからこそ、孤独を破った俺やソフィアと、離れたくはないのだろう。
しかし、しかしだ。それでも、俺やソフィアはミアほど寿命は永くない。
ならばその前に、一人でも多くの友達、知り合いを作ってあげたいのだ。もしかしたら、
その中には寿命の永い種族もいるかもしれない。この理由は今考えたのだが。
俺はしゃがんで、ミアと目線を合わせてみる。
どうすれば、いいのだろうか。力ずくではなく、ミアを外に連れ出す方法。
外は怖いものだけではない、と伝えるにはどうすれば。
「……やめだ、今日は外にはでない。ソフィアもご苦労様。ありがとな」
思いつかない。
踵を返し、城の扉に手をかけて先に中に入っていった。
後ろは振り返らない。ミアがどんな表情をしているかなんて、わからなかった。
俺が、どうしてあげればいいかなんて考えるのはきっとおこがましいんじゃないだろうか、と。
そんな事を考えてしまうのであった。
そんな事を考えながらぼんやりとし、ソフィアが来てからあてがわれた、自分が普段寝ている部屋に
いるとコンコン、とノックをされた。振り返ると、ミアがそーっと、少し申し訳なさそうな顔で
入ってきた。
「どしたの」
「……どうしても、外に出ていこうと思うのか? 」
「……ミアが、そこまで嫌がるんだったらいいんだ。少なくとも、今は」
少なくとも、慰めるつもりで言ったのだがミアの表情はますます申し訳なさそうなものになった。
部屋に入ってきて、隣に座って、頭を下げてきた。
「……ここまで、意地を張ってきてなんだが、ユイが我を外に出したい理由なんかは、ソフィアから
ちゃんと聞いてきた。だ、だから……」
そこまでで一息吸って、又息を吐いて、また吸ってから、
「我を、外に連れて行ってほしい。外が怖くて仕方ない我を……護ってほしいのだ」
そこまで悲壮な決意を目に宿しなら言われるとこっちも申し訳なくなってくる。
でも、それでもだ。これは、大きな一歩になるんじゃないだろうか。
「よし、じゃあ明日は街に行くからな。取り合えず顔を隠せるフードとかを用意しとかないとね。
ミア。────偉いよ」
ぽんぽん、と少しだけ頭を撫でてあげて褒めると、ミアはちょっとだけ泣きそうな顔で笑った。
「明日から、頑張るのだ」
「それ頑張らないフラグだから気をつけような!?」




