第13話 はじめの一歩
なんというか、さっきの部屋のせいでどっと疲れが出てしまった。
階段を上り、入ってきた扉をしっかりと閉めておく。もう入ることもないだろう。
ミアは扉を出ると、こちらに向かってぺこりと頭を下げてきた。
「……申し訳ないのだ」
「いや、俺の方こそ」
お互い目も合わせず、なんとなく気まずくなって違う方へと離れた。
どうせ夕食の時にまた会う事になるのだが、さすがにこのままいるのは
精神衛生上、あまりよろしくなかった。
少し歩いて、バルコニーがある部屋へと向かい、外を見る。
太陽が少し傾き始めており、綺麗な夕焼けが霧の合間から見えた。
「バッカやろー!!!!」
バルコニーから外に向かって叫んだ。
なんだよ、もう! めっちゃいい雰囲気だったのに! なんなんだよあの部屋は!
あーもう、ヘタレな自分も嫌だしいくら仕方なかったとはいえああなった自分が嫌だ!
ミアに、嫌われた……とまではいかなくても、めっちゃ引かれてそうだ。
ぐったりと、何故かバルコニーにおいてある椅子にもたれかかる。
木造りの割に意外と座り心地が良く、俺はそこでぼんやりと黄昏を眺めているうちに、
疲れからか睡魔が襲ってきてしまい、そのまま眠ってしまった。
※※※※※※※※
「ん……?」
気が付くと、目の前が真っ暗だった。どうやら、ずっと眠っていて今起きたらしい。
魔通石を取り出し、時刻を確認した。今は深夜12時。夕食の時間すらとうに過ぎていた。
「二人とも起こしてくれなかったのか……悲しいなぁ」
まぁ、この城は広すぎるしこんな部屋までたどり着けなくてもしかたないだろう。
と、立ち上がるとふわり、と何かが自分の膝から落ちるのを見た。
青色のブランケットと、一枚の白い紙が落ちてきた。
「ん? なんだこれ……『風邪をひくといけないので、毛布をかけておきました。
夕食は食堂に保存してあるようです。あとで、食べてくださいね。ミアが少し沈んでました』」
喋り方的に、ブランケットをおいてくれたのはソフィアらしい。
優しい子だ。王族とか貴族にはこの世界に来てからろくなイメージは無かったが、
あの子は純粋にいい子だと思う。ちゃんとした結婚相手を探してほしい。
「起きるか」
よいしょっ、と椅子から立ち上がり、ブランケットとメモを持って食堂へ向かう。
テーブルの上に、美味しそうなビーフシチューが置いてあった。そして──
「あ、ソフィア……寝てるのか」
金髪を垂らし、テーブルの上に突っ伏してくぅ、くぅ、と寝息を立てているソフィア。
ミアとはまた違った可愛さを持っていると思うのだが、本人はあまりそれを自覚してなさそうだ。
そっと、俺がかけて貰ったブランケットをかけてあげる。
ビーフシチューは、明日食べよう。そうしよう。
食堂からこっそりと出る。
眠れないので、玉座の間を抜けて外に出た。
来た時も思ったが、結構庭が広い。特に何も花壇に植えられていなかったりするのが
悲しいが。それにしても、数百年も過去からこの城はあったのに、
全く劣化してないというのが驚きである。
「勇者様?」
暫く、それこそ30分ほどぼーっと月を眺めてると、突然声をかけられた。
振り返ると、そこには月に照らされながら、城の扉から出てくるソフィアがいた。
「ああ、ソフィアか。どうしたんだ」
「いえ、眠れなかったので食堂で勇者様を待っていたはずが、いつの間にか寝てしまい……
さきほど起きたので、少し夜風にでもあたろうかな、と」
ソフィアはすたすたと歩いてきて、俺の隣に座り込んだ。
つられて、俺も芝生に座り込む。そのまま、数分間二人で月を見ていた。
「勇者様、今日はミアと二人きりで何をやってらしたのですか?」
横で紅い瞳を妖しく輝かせながら、ソフィアはそんな事を──
「え、俺とミアが二人きりでいるってなんでわかって……」
「ふふふ、お忘れかもしれませんが、私も王女ですよ? 王家は自分が『仲間』だと
思っている人の状況を把握できる特別な能力があるんですよ? 何をしてたかまでは、
わからないですが」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、こちらを見ているソフィア。
お、王族はこんなに恐ろしい力を持っているのか……
何をしてたかまでわかられてたら、大変な事になる所だった。
「まぁ、何をしてたかは想像にお任せするよ。あ、関係ないけどもブランケット
ありがとな」
「いえいえ。こちらも関係ない話をするのですが、少しいいですか?
私、勇者様とも少し打ち解けてきたことですし、お名前で呼んでも、よろしいでしょうか。
このまえ、いつまでも勇者様と呼んでいるのは貴方も寂しかろう、とミアが言っていたので」
おお、中々良い事を言ってくれるじゃないか、ミア。
でも、いつの間にかそんな事を話していたのか。すっかり仲良くなったんだな。
「名前で呼ぶのは大歓迎だよ。……ってか、ミアと俺について何話してたか詳しく」
「詳しく、ですか? そうですね、例えば、ユイ様の事はとてもカッコいいと評しておりましたよ。
一見女性みたいな顔もしているけど、ふと見せる表情が良いのだとか。……あれっ、これ秘密でした」
口が軽いにもほどがあるが、グッジョブだソフィア。
裏でそんな事言われてるのって、凄く嬉しいと思ってしまう。
ちょっとちょろい気もするけど、別に喜ぶくらいいいよな。
「あとは……そうですね。外に出るのは怖いけど、いつか……
いつか、ユイが。きっときっかけを作ってくれる。実は心の底でユイが結界を壊すのを待っている……
とか言ってましたね。嫌がってるのも本心なのでしょうけど」
「え……そうだったんだ」
ふと、ミアの顔を思い浮かべる。
笑顔も、恥ずかしがる顔も、怒った顔も困惑した顔も、そして俺にプロポーズしてきた時の
あの凛とした、美しい表情も。沢山の表情を見てきた。
そんなミアの表情の中で、実はたった一つだけ、あまり見たくない顔があった。
──窓の外を眺めている時に、ふと見せる事がある諦めの表情だ。
彼女は、外に出たことがない、と話すときも、同じような表情をする。
彼女にとって、外の世界とは自分の踏みいる事の出来ない世界で。
ずっと手が届かない、そんな世界だったのだろう。
彼女自身、気が付いているかわからないのだが、窓の外を見るたび
憂うような、あの顔をするのはきっと、そんな理由だ。
「わかった。結界、壊してやるよ」
ミアが本当に嫌だったのなら、この城の周囲を取り囲む、魔物や魔族を拒絶する結界を
壊すなんて事はするつもりは無かった。でも、心の底で望んでいるのだと知った今。
ほっとける、訳が無い。
肩を軽く回し、結界の前まで立つ。淡く光る、薄い透明な膜だ。これを、壊せばいいんだな。
「ソフィア、危ないかもしれないから離れてて」
「はい!」
ソフィアがさっ、と後ろに下がったのを確認すると、俺は深呼吸をする。
さぁ、果たして俺がぶん殴ってこの結界は破れるのか。
神様、折角俺をこの世界に転生させたんだ。
この力をどう使おうが自由だよな。だったら。
好きな女の子を、救うために使わせてもらうからな。
思いっきり拳を振りかぶり、結界を勢いをつけてぶん殴る。
バギッ!! と音がして、結界にひびが入った。
そのひびが、凄まじい勢いで拡散していき──
──パリィン、と大きな音を響かせて、結界は消滅した。
結界の欠片のようなものが宙に舞い散り、やがて消滅していく。壮観だ。
「お、おい! ユイ、何を……」
扉がバタン、と開いてミアが外にパタパタ、と走って出てきた。
その目は大きく見開かれていた。そのまま、ぺたん、と地べたに座り込む。
「──なんてことを、してくれたのだ」
言い方とは裏腹に、どこか困ったような、でもとびきり嬉しい事がよくわかる。
そんな、笑顔を見せてくれていた。
ああ、やっぱりミアには笑顔が似合う。
そしてこの日は、ミアが引きこもりを脱却し、これから無数の人間たちと出会う
初めの一歩となったのであった。
ついに一区切りのポイントまで来ました!
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