第12話 おうちデートは遊びじゃないんだよ
「いいかミア、おうちデートは遊びじゃない。やるからには本気だからな」
なんだかんだ自分も恥ずかしくなり、ノリと勢いで意味不明な事を言ってしまった。
だが、俺の気迫に押されたのかミアは凄い勢いでコクコクとうなずく。
「それで、具体的に何をするのだ? 」
「具体的に、か。うん、具体的にはな。そう、具体的になにをするかというとだな」
さもわかっている体で話を進めようとしたが、こちらは彼女いない歴=年齢。何をすればいいのかちっとも
わかっていなかった。日本にいたなら一緒にDVD観るとかゲームするとか、そういう事も出来たのだが。
「特にユイに案が無いなら、我がお主をおすすめの所に連れて行ってやるぞ?
実はお主にも、ソフィアにも見せてない秘密の部屋があるのだ」
そう言うと自然に俺の手をぎゅっ、と握って引っ張る。
手がものすごく柔らかい。いや、そういう事じゃなくて、なんで自然にこの子は手がつなげるんだ!!
わりとすぐ照れるくせに……!
「む? 顔が赤いぞ、ユイ。……ははーん。手を握るのが恥ずかしいのか?
安心せい、誰も見てないのだ」
違う、そういう事じゃないんだよ!
誰も見てなくてもなんか恥ずかしかったりする事ってあるんだよ。ぐぅ、いつもの仕返しか、これ!
羞恥心とふわふわの手の感触でダメにされながら、数分後大きな扉の前についた。
その扉は、この城にしてはややファンシーな装飾がされており、紫を基調としたデザインの城内とは違い、
全体的に薄いピンク色をしていた。
「これはのう、我も一度も入った事の無い部屋なのだ。なんせこの部屋を造った者が残した手記によると、
『男女二人が揃った時でないと入ることが出来ない』らしいのだ」
なんだそのアホみたいな設定された部屋。
これはあれか、「エッチしないと出られない部屋」的なアレなのだろうか。
この世界にもそんなこと考えるぶっ飛んだ思想の持ち主がいたなんて。しかも数百年前に。
いや、さすがにそんな凄まじい部屋じゃないよな? そんな過激なのお茶の間で放送できないぞ?
「ほらほら、ここの手形に手を当てるのだ! 」
見れば、確かにそこには謎の手形があった。
俺は右手を、ミアは左手を手形の部分に重ねる。すると、ギギギ……と音がして
扉が開いた。地下に続く階段になっているようだ。
階段を一段一段降りていくと、下のほうにも更に扉があるのを発見した。
「お邪魔しまー……すっごいどピンク!? なにこれ!?」
部屋はそれはそれは一面、真っピンクであった。
部屋の中央にはフカフカそうなベッドが一つだけ。それ以外は、特に何もなし。
作画的にもかなり低カロリーな部屋だった。色以外。
あまりの部屋の色彩の強さに、目をぱちぱちさせていると後ろでバタン! と音が鳴り響いた。
「た、大変なのだ! 入ってきた部屋の扉が閉まっているのだ! 出られない!!」
「嘘だろ、そんなベタな展開があるわけ……開かないねぇ」
あまりにベタすぎる展開が来たせいで、一周回ってテンションが低くなってしまった。
と、扉を開けようと苦戦する俺とミアの頭に、一枚の紙がひらり、と舞い落ちてきた。
そこには、俺も読めるようになったこの世界の文字でこう書いてあった。
『この部屋では、えっちな事をしないと出られないヨ!』
「ふざけんな!!」
あんまりにもあんまりな展開に、俺は頭を抱えて叫んだ。
おうちデートをするはずだったのに、どうしてここまですっ飛んできたのだろうか。
踏むべき行程を全て吹っ飛ばしてしまった気がする。
※※※※※※※※
それから15分後。
俺とミアは、ベッドに座りながら、どちらからどちらへ近づく、という事もなく、
お互い一定の距離を保っていた。どこか、なんとも言えず気まずい空気を出しながら。
「……まさか、俺がぶん殴ってもミアが魔法撃っても開かないなんてな、この扉。壁も壊れないし」
「恐らく世界の理がここだけ歪んでいるのだ。はぁ……超技術をこんな無駄遣いするとは……」
ミアがため息をつく。そう、先ほどまで俺とミアはこの部屋から脱出しようと協力していたのだ。
別にお互い、相手とそういうことをするのが嫌だったから出ようとしたわけでは無い。
ただ、二人とも「今はまだその時ではない」という結論に至っただけである。
流石に経験なしで、いきなりこの状況はなかなか厳しいものがある。
……でも、ここから永久に出られなかったらどうするんだ?
ミアがいれば餓死はしないし、多分生活にも困らない程度の魔法は持ってるはず。
それでお互い、心の準備が出来るまで待つ……いやいや、どれだけ気長なんだ。
そもそもソフィアを一人にするわけにもいかない。なんとかして脱出方法を考えなくては。
と、腕をつんつん、とされる感覚があったのでミアの方を見る。
ミアはうつむいたまま、少しためらった後に意を決したようにこちらの目を見てきた。
綺麗だな、と今更ながら思ってしまう。
「どうしても、であれば……我はお主と、そういう事をするのもいやじゃない……ぞ」
そこまで言った後、恥ずかしくなったのかふいっ、と顔をそむけてしまった。
いやいやいや、待ってくれ。
ここでミアからOKサインなんて貰ったら、俺は耐えられないよ!?
俺は長男だけどそんなの関係なく耐えられるかこんなの!!
いや、駄目だ、冷静になれ。ここでそういうことしたら、もう後には戻れない。
魔王と俺で子供が出来るかはともかく、責任取るためにミアと結婚しなければならない。
────あれっ、別に良くない?
そもそも結婚してくれって頼まれたのを俺がヘタレて友達から始めようって言ったわけだし。
つまり、この展開に流されても良いって事か?
いいんだよな? ミアも恥ずかしそうにしてるけどいつの間にか俺の手握ってじっとこっち見てるし、
いいんだよな?
よし。
大人になります。
※※※※※※※※
とはいっても、そんな急にできるわけがない。
まずはスキンシップを取る事から始める。頭をそっと撫でてあげると、ミアは満足げな顔をした。
撫でて、撫でて、そのままゆっくり背中に手を回す。鼓動が、はっきりと手に伝わってきた。
めちゃくちゃ速い。緊張しているんだろう。俺もだけど。
そのまま背中をさする。もう、今感じている鼓動がミアの物なのか自分の物なのか、
分からなくなってきてしまった。
「き、キスしていいよ……?」
ミアは王様っぽい喋り方も忘れてしまったのだろうか。普通の女の子みたいな口調でそんなことを言われると
心臓が破裂してしまいそうになる。
ミアの唇は、程よく赤くて、それでいて潤いがあり、柔らかそうで
──ああああ、考えてられるか、恥ずかしい!!
ってか目を瞑られると本当にもう、やばいんだよ!
キスしたらこのまま襲っちゃいそうで!
目を瞑っても可愛いの反則だろ! ええい、もう────!!
『バタンッ!!!!!!!!!!!!』
「「!?!?!?!?!?!?!?!?」」
突如、大きな音がして二人とも飛び上がってしまった。
音のした方をみると、入ってきた扉が煙をあげて、外れていた。
あまりにも急な出来事で、そのまま数秒固まってしまった。
ミアも先ほどまで閉じていた目を開き、ポカーンとしていた。
すると、またしても一枚の紙がひらり、と落ちてきて床に落ちた。
『えっちすぎましタ……もう出ていいヨ!!』
「基準がわかんねぇ!! ウブかこの部屋の製作者!!!」
俺の渾身の絶叫だけが、虚しく部屋にこだました。




