第10話 元勇者、指名手配されてました
ミアとソフィアは数十分、風呂に入っていた。
俺はその間、ずっともやもやしっぱなしだった。
覗きたいとかそういう事でもやもやしてたんじゃなく、純粋にあの二人が仲良くなれるか
気になっていたからだ。
そんな心配も、おしゃべりしながら脱衣所から出てくる二人を見て杞憂に終わったことがわかった。
「ユイ! 友達が二人になったぞ! 嬉しい!!」
どうやらちゃんと友達になれたようだ。あまりにも幸せそうだったので思わずミアの
頭をわしゃわしゃと撫でてしまった。
「う~、いきなり魔王の頭を撫でるとは、お主も大物になったものよ。
……もっとやってほしい」
満足げに目を閉じたミアの頭を更に撫でてやると、ミアは「にゃー!」と笑顔で言って俺から
離れ、広間に向かっていった。
「勇者様、ミアと貴方は付き合っておられるのですか? 」
「んー、まぁ、まだ付き合ってはいないかな。ってかミアの事呼び捨てで呼ぶようになったんだ」
「はい。彼女に許可をもらいましたので」
そういう彼女は、さっきよりもずっと表情が柔らかくなっていた。
よかった、緊張とか、その他もろもろは解けたみたいだ。
その勢いで、俺も呼び捨てでいいよって言いたかったが流石に相手は王女様。
そこまで馴れ馴れしくは出来ない。敬語じゃない時点で十分に馴れ馴れしいけど。
「良かったら、ミアの事、色々教えてほしいです。
私がここに来るまでの事とか──貴方との関係性とか」
ソフィアは少しませた笑みをこちらに向けてきた。
そうか、そういうのが気になるお年頃だよな。
よし、色々話してあげよう。期待に応えられるような事はまだしてないけど。
「うーん、そうだな。取り合えず、一緒に寝た仲ではあるよ」
「い、一緒に!? そういうのは、す、好き合ってる者同士でする事なのでは!?」
顔を手に当てて驚くソフィア。耳まで赤くなっているのが見て取れるほど、興奮しているようだ。
いやまぁ、嘘は言ってないよね。本当に一緒に寝た事はあるもの。隣で。
「うん、まぁ、ソフィアがそう思うんならそうなんじゃないかな。
俺はただ、一緒に何回か寝ただけだからね。ミアと」
「!?!?!?」
それを聞くと、ソフィアはかなり恥ずかしがっていた。
王女だというのに、随分この子は耳年増だな……。
その後ソフィアの誤解はミアによって解かれたものの、俺は一日中
口をきいてもらえなくなってしまった。
※※※※※※※※
「そういえば、ミア、今日あった事だけどさ」
夕食の時に、俺はミアに今日あったことを話した。
サイデス騎士団の副団長と戦った事、今ラグリアがどうなっているか、そしてペンダントから
謎の少女が出てきたこと。
ミアは最初の二つの件は静かに聞いていたが、最後のペンダントの話をした時、
ガタン!と音を立てて机に手をついた。
「ね、猫耳で名前はクロノス……! しまった! あのペンダントに封じておいたのを忘れていた!!
すまぬ、ユイ、お主は悪くない、悪くないのが……クロノスを解放してしまった、か」
話によると、クロノスというのは大昔からミアのライバルらしい。強敵と書いて「とも」と呼ぶかのような
言い方をあの少女はしていた気がするが、ミアからすると本当に苦手な相手で、あのペンダントに封じて引き出しの中に
しまっておいたらその事をすっかり忘れてしまっていたのだとか。
「まぁ、しばらくは心配しなくてもいい。うむ……」
そういって、ミアは少し暗い顔をして俯いてしまった。
なにはともあれ、王女がミアの城に来た記念すべき一日はこうして終わったのだった。
※※※※※※※※※※※※
サイデス城から数キロは離れた森の中。
風の音以外ほとんど何も聞こえないはずのこの森だが、今日はどこからか、うめき声が聞こえていた。
「うぐ……ご……」
「──あぁ、飛ばされた方から察するにここら辺だとは思っていたが──
無事だったか、ゴウカ」
「だん……ちょう……」
森の中に、ブロンドの髪を後ろでまとめ、鎧を装備した若い女性が入ってきた。
女性は森の中の茂みに踏みいって、潰れていた何かに手を当てる。
「ヒール! ……ふぅ、これで治ったはずだ。
しかしそれにしてもお前は不思議な肉体をしているのだな。機械の肉体の癖に、回復魔法で生き返るとは」
女性は手をぱんぱん、と払って潰れていた何か──否、燃えるような髪を持つ男、ゴウカの
手を引いて起こす。美しい顔もしっかりと復元されていたが、その表情はあまりにも暗かった。
「ありがとうございます、リン団長。……王女様を、あの男に奪われてしまいました」
「知っている。しかし、君でも止められない相手、か。やはり勇者、我々から仕事をかっさらっていただけはあるな」
リン団長、と呼ばれた女性はどこか遠くを見つめる。
その目には何が映っているのかゴウカにはわからなかったが、
ある決意が灯っているのだけはわかった。
「あんな可憐な王女を攫って手籠めにしようとは、勇者め……とんだ変態だな。
代わってほし……いや、王女をなんとしても連れ帰らなければ。ジャミ派の集まりに、見つけられる前に」
「ん、んん?」
どこかおかしい事を聞いたような気がするが、聞き違いだと思いゴウカはスルーした。
王女を連れ戻さねばならない。それも、ジャミ派の奴等に見つかる前に。
それは絶対条件なのである。
ジャミ派──つまり、現王代理派は、前王サイデスを殺した犯人として王女と勇者ユイを
挙げていた。なので現在、国中で二人は指名手配をされており、捕まれば王国に引き渡される。
そうなれば処刑は確実だ。勇者はともかく、王女はなんとしても救わねばならない。
あの王女様が、人を殺すわけがない。それが、リン団長とゴウカの総意だった。
だからこそ、王女が逃げ出した時に保護しようとしたのだ。それなのに。
「負けるなんて……かっこわりい……俺は何のために、騎士になったんだよ……」
「まぁ、次からは鎧を着ろ。いくらお前の取り柄が機動力や一瞬の火力でも、
相手から攻撃を喰らったらどうしようもない。まぁ、今回は鎧をつけてても変わらん気もするが」
リンは髪をかき上げながら、森の出口へ歩いていく。
そして、後ろを振り返って
「落ち込んでる暇なんかないぞ。あの二人の行方を追うぞ、ゴウカ。
……そして王女様に私と王女様の婚約を認めてもらうんだ」
「わかりました、行きましょう。……って、え? なんか言いましたか? 」
「王女様に私と王女様との婚約を認めてもらうんだ」
「ええ……」
つい団長に引いてしまうゴウカだったが、リンはそれをものともせずに歩いて行った。
ゴウカは、今まで抱いていた尊敬の念が少しだけ失われていくのを感じながら、その
背中についていった。




