8話 すごい煽られるんだが?
汚いですが、挿絵つけてみました。。
「やぁ。ごきげんよう。気分はいかが?」
しゃがれた低い声だ。
木の上辺りから声が聞こえる。
僕が急いで木の上に視線を移すと、そこには黒尽くめで、フードを被った男が木の枝に座っていた。
男は、顔に気持ちの悪い仮面を付けており、口元以外の素顔が見えない。
「...誰ですか?サツキはどこ!?」
僕は即座に尋ねる。
「...ハァ。人に名前を尋ねる前に、先ずは自分から名乗れよ。」
「僕はシオン!それでサツキはどこなんですか!?」
男は、あっけらかんとした態度で答える。
「ま、お前の名前知ってたんだけど。あと、お前の大好きなサツキちゃんはここだよ。」
男はそう言って足元の枝の影に手を突っ込んだ。
あり得ないが、男の手が木の枝をすり抜ける。
そして男が手を引き抜くと、そこには襟を掴まれて意識を失っているサツキが現れた。
「サツキっ!?あなたがやったんですね!?早くサツキを返して下さい!!」
怒りで声が震えるが、僕は声張って怒鳴る。
「ハハ、弱者ってのは愚かだなぁ?地べたでキャンキャンと吠える事しか出来やしない。」
「弱者?僕が弱いかは、戦ってみないと分からないぞ!それより早く返して!」
男は木の上で両手を広げ、呆れたような表情で嘆く。
「ワガママなガキだなぁ、仕方ない。うるさいから返してやるよ。ホラ。」
そう言って、男は木の上からサツキを突き落とした。
「なにをっ!?」
僕は急いでサツキの落下地点へと駆け寄るが、間に合わない。
「くっ!サツキ!!」
サツキが地面に落ちたと思ったその瞬間。
影に溶けるようにサツキが沈んで消えた。
「なっ!?消えた!?」
「フハハ!バカか?返す訳が無いだろ?弱者ってのは頭も弱いのか?フハハハ!」
すかさず僕を煽りたてる男。
「あなた...いい加減にして下さい!怒りますよ!?」
今にも斬りかかりそうなのを抑えて、僕は怒鳴る。
「ハァ?怒る?怒るねぇ?いいぞ?怒れ怒れ!弱者が怒ったところで何も変わらんさ!フハハ!」
その言葉に完全にキレた僕は、男のいる木へ飛び、幹を蹴って男に接近し、剣を振った。
「ハハッ!意味がないんだよーーっ!?」
ザクッ!!
男は剣が当たらないと思っていたのか、完全に油断していた。
おかげで僕の剣は、男の腕に直撃した。
「〜っ!!クソガキ!テメェ!」
その瞬間、男は僕を後ろから蹴り飛ばした。
地面に強く身体を打ち付ける僕。
「...〜〜っ!!!!」
痛い。体全身が打ち付けられて激痛が走る。
それでもサツキを取り返すためになんとか立ち上がる。
「フハハ。驚いたな、まさかこの俺が傷を負うことになるとは。」
男は腕の傷を押さえているが、血が滴っている。
「本来なら、俺の固有魔法で剣ごと影に溶け込むハズなんだが、なぜ剣を当てられた?テメェ何者だ?」
冷静に答えてはいるが、確実にキレているのがわかった。
ちなみに、男が言う固有魔法とは、個々が持つ特殊な魔法の事である。
この男の場合は、影に影響する魔法であり、クルトの場合は飛行魔法というように、様々な種類があり、それは遺伝で似たような能力になる事が多い。
転移者の場合も、転移してきた時点、もしくは暫く時間をおいて、何らかの能力を獲得する。
サツキの先見眼も、固有魔法の一つというわけだ。
「教えませんよ。頭の賢い、強者のあなたならわかるんでしょう?」
「〜っ!...なかなか言いやがるぜ。何らかの固有魔法ってところか?まぁいい。今回の目標は既に達している。お前を殺すのは無しにしておいてやる。」
「僕は戦っても構いませんよ!さぁ!降りてきてサツキを返して下さい!!」
「フハハ。だから、返す訳がないだろ。仕方がないから頭の弱い弱者に教えてやるよ。こういう場面で弱者にできることは一つ。逃げて強者に助けを乞う事のみだ。」
口元をニヤけさせながら男は続ける。
「明日、レグスが雷オヤジの家に着くだろう、昨日の時点でレグスが馬車の予約を完了しているのは確認している。その時にレグスにこう伝えろ。『明日、1人でこの紙に記載した場所に来い。来なければ貴様の愛弟子の命は無い。』とな。わかったらとっととお家に帰れ。」
男はそう言って僕の目の前に地図らしきものを投げつける。
「さてと、帰っておいで。影蜘蛛。」
男が呟くと、再び木の影からサツキが現れ、そしてサツキの服の中から、小さな蜘蛛が這い出てきた。
「なっ!?蜘蛛!?」
突然サツキから蜘蛛が出てきたことに、僕は驚く。
「あぁ、こいつで数ヶ月間、お前らの動きは筒抜けだったんだよ。そして計画は最終段階まで進んだ。だからもう用済みなのさ。」
ずっと盗聴されていたことを知り、僕はスッと全身から血の毛が引くのを感じた。
「俺が、お前に頭が弱いと言った理由がわかったか?さて、影蜘蛛の回収も済んだ。では、また会う日まで、ご機嫌よう。」
そう言って男は影に溶けるようにして消えた。
「待て!!」
僕は叫ぶが、男が二度と出てくることは無かった。
僕は悔しくて、唇が切れそうなくらいに噛みしめる。
「くっ...何もできなかった!悔しいけど今はアイツのいう通りだ!はやくクルトじいに伝えなきゃ!」
僕は既に身体の痛みが引いてきていたので、全速力で家に帰った。
「ただいま!クルトじい!大変だ!」
全速力で帰ったが、僕が家に着くまでに2時間もかかってしまった。
しかしまだ昼の3時、本来ならまだ家に帰っていない時間帯だ。
僕は急いでクルトを呼ぶ。
「もう帰ったのか?どうしたのじゃ?」
「クルトじい...サツキが!!」
僕はクルトに事の顛末を話した。
「何っ!?今朝わしが街に行った時に、レグスは急用で、明日はこちらに来れないと言っておったぞ!?」
「えぇっ!?そうなの!?」
「まずいな、このままではサツキが殺されてしまう。仕方ない、わしが今からサツキを助け出す。」
「待って!僕もサツキを助けに行きたい!」
「ダメじゃ。もしお前にも何かあったら元も子もない。じゃから連れては行けない。」
「嫌だ!それにクルトじいの側が一番安全じゃないの!?心配だと思うなら一緒に連れて行ってよ!」
「...うぅむ。確かにそうじゃな。家に1人でいる間に盗賊に襲われる可能性もある。わかった。サツキを救出しに行くぞ。」
そうして、僕はクルトじいに抱えられながら、地図に記された地点へと、空を飛んで向かった。
事態は、僕らが想像している以上に深刻だということを知らずに。