7話 話の雲行きが怪しいんだが?
家に帰ったあと、食料を調理しながら今日の出来事をクルトに告げる。
「そうか...黒髪の時点でもしやとは思っておったが、やはり転移者じゃったか。それに先見眼か、魔眼といえば過去に魔人のラキーシャという案内役が千里眼を持っていた以来、見ておらんかったわい。」
「あ!あの昔話に出てきた千里眼も、魔眼の一種なのか!」
「そうじゃ。まぁそれは兎も角。サツキよ、先ずは我々を信用して、辛い過去を打ち明けてくれてありがとう。」
クルトは、深々とサツキに頭を下げた。
「そして申し訳ない、わしがしっかりと見張っていなかったせいで近くに盗賊が入ってきている事に気付かなかった。すまなかった。」
そして再び僕らに頭を下げる。
「そんな!頭をあげてください!」
「そうだよ!眩しいよ!」
「なんじゃと!?シオン!」
暖炉の光が頭に反射して、本当に眩しかったから言ったのに怒られた。
「兎に角、明日はわしが周辺を見回って、盗賊を見つけ次第縛り上げる。それでしばらく盗賊は近付かんじゃろう。」
「はい。ありがとうございます。ですが、気をつけてください。盗賊とは、どんな非情な手でも使ってきますから。」
「ああ、肝に銘じておるよ。わしも幾度となく盗賊とは闘っておるからな。」
そこで僕は、聞かずにはいられなかった事をクルトに聞いてしまった。
「...クルトじいも、人を殺したことがあるの...?」
「...ああ。わしの時代は戦争もあったからの。殺さなくてはならない時があった。というのが事実じゃ。」
僕は少しショックだったが、受け入れなければならない事実だと思った。
「そっか...僕、今まで人を殺すことは絶対にしてはいけないことだと思ってて、人を殺した人はみんな悪だと思ってたけど、仕方がない場面もあるんだね...」
「...そうじゃな。できることなら、こんな幼い間に知って欲しくはなかったが。残念ながらそう言う事もあるのが今の世じゃ。」
「冒険者になるには、そう言う覚悟も必要なんだね。そうならない事を祈るけど!」
「そうじゃなぁ、さて!飯ができたぞ!冷めないうちに美味しく頂こうじゃないか!」
今日の晩ご飯は、狼の肉と野菜を煮込んだポトフだ。
とても優しい味だった。
気がついたら、僕の目から涙が溢れ出ており、涙が頬を伝っていた。
横を見ると、サツキも泣いていた。
クルトは、そんな僕らを優しい顔で見守ってくれていた。
その日の晩は、いつも通り根源魔力の消費を済ませたが、いつもより深い眠りに落ちた気がした。
翌日。
クルトが森を飛び回り、僕達はいつも通り日課をこなして1日が終わった。
その日の晩、クルトは僕らを集めて話をする。
「今日一日、この付近の森を飛び回って探索してきたが、盗賊らしき輩は1人も確認できなかった。しばらくは毎日、森を見回りする事にする。」
「そうですか...うまく姿を隠しているんでしょうか?どちらにせよ、安心はできませんね。」
「うん、狼まで手懐けるくらいだから、しばらくはこの辺りにいたと思うんだけど...」
拭えない不安感があるが、取り敢えず今は盗賊がいない事に一先ず安心した。
「そう言えば、捜索のついでで街へ買い物に行った時にレグスと会ったが、3ヶ月後にこちらに顔を出すそうだ。その時に驚いてもらえるように、2人ともこの調子で頑張らねばな!」
「そうなんですね!シオン!頑張ろうね!」
「うん!成長した僕たちを見てもらわなきゃ!」
僕達は改めて今日から頑張る事を決意して、今日は早めに就寝した。
昨日から全て、盗聴されている事に誰も気がつかないまま...
静かに、そして確実に盗賊達の策略は進行する。
しかし翌日から、僕らの不安は杞憂だったと思わざるを得ないくらいに、何も起きない日々が続いた。
その間に僕達は、いろんな魔物を狩ったり、サツキから剣を学んだり、サツキはクルトに魔法の特訓を受けたりしていた。
そしてそろそろ3ヶ月が経とうかとしていたある日、事件は起きる。
その日はいつも通り2人で山に食糧調達をしに来ている時だった。
「ハァ...ハァ...あのウサギすばしっこいね〜っ!」
「ふぅ。そうね!アイツ、一瞬見えた目が紫っぽかったから多分魔物よ!」
僕たちは、やたらと素早いウサギの魔物を追いかけていた。
その魔物の正体は、ジュエルラビットと呼ばれるレアな魔物だった。
大きさはウサギにしては大きく、毛並みは美しい白色。
名前の由来は宝石がついている訳ではなく、それくらいの価値があるほどレアで、美味な肉を持っている。という理由で付けられた名前だ。
僕達はジュエルラビットを見つけてから、かれこれ2時間は追いかけ回している。
いつも食料調達で獲物を探すエリアからはだいぶ離れてしまっていた。
だが目の前の宝石が諦めきれず、つい森の離れまで追いかけてしまったのだ。
しばらく追いかけていると、少し開けた土地に出た。
しつこい僕たちについに諦めたのか、ジュエルラビットがそこで止まっている。
「チャンスね!出でよ!風の障壁!」
サツキはすかさずジュエルラビットの周りに風の障壁を張り、逃げ場を無くす。
「すごい!捕まえた!近くに寄ってみよう!」
僕達はやっとの思いで捕獲したジュエルラビットを早く近くで見たくて、風の檻に駆け寄った。
近づいてみてはじめて、僕はジュエルラビットの違和感に気づく。
「...死骸?」
既にジュエルラビットは死んでいたのだ。
しかも今殺されたばかりではなく、数日前に殺されたかのように所々が腐食している。
「サツキ!罠かもしれない!...サツキ?」
僕はサツキに警戒を促そうとして振り返ったがサツキが居ない。
僕は急いで周囲を見回す。
すると後ろの木の上から声が聞こえた。
「やぁ。ごきげんよう。気分はいかが?」