5話 猪だと思ったら魔物なんだが?
思ったより多くの皆様に見て頂けていることに、大変驚いております。。
僕らが食料調達をしている間、クルトは家で野菜を取るらしい。
山の中を歩く途中、僕は強さの秘訣を知りたくて、サツキに尋ねた。
「ねぇサツキさん。どうやったらそんなに強くなれるんですか?」
「...サツキでいいわよ。」
「...え?」
思ってもいなかった返事に少し驚く僕。
「っ!だから!呼び捨てで良いって言ってんの!あと敬語もいらない!むず痒いのよ!」
理解が遅かったからか、また怒られた。
「ご、ごめん!わかった!じゃあサツキで!それで、どうすればいいの?」
謝りつつ、改めて秘訣を尋ねる。
「...アンタは、素直すぎるのよ。だから前も言ったけど、目を見れば行動が読める。」
またダメ出しを受けて少し凹む僕。
「あとはまだまだ無駄な動きが多い事ね、私が獣を狩る間、少し私の動きを見て真似てみたらいいわ。」
「うん!わかった!ありがとう!それにしてもサツキは凄いね!本当に先生みたいだ!」
「ハァ!?凄くないから!アンタ、その急に褒め出すの何とかならないの!?」
素直に褒めたらまた怒られた。
「ご、ごめん。でも本当に凄いから...」
凹む僕をみて、少し慌てるサツキ。
「あっ、そっ、そんなつもりじゃないから!泣いたりしないわよね!?男の子なんだし!」
「う、うん!泣かないよ!!」
「よ、よかったぁ...」
僕は、サツキの思わぬ優しさに触れて、少し嬉しくなった。
「...えへへ...」
「...何よ?」
「えと、サツキは、本当は優しい子なんだなぁって思って!」
また無意識に褒めちぎる僕。
「ーっ!?アンタ学習能力ない訳!?何回同じこと言わせるのよ!!」
サツキはまた耳まで赤くして怒る。
「ご、ごめん!つい...!」
「もうっ!知らない!」
そう言ってサツキは、僕の前を足早に歩いていくのだった。
そんなこんなで歩いていると、僕は動物の足跡を見つけた。
「あっ!みてこれ!たぶん猪の足跡だよ!」
「ふぅん、アンタ。よく猪だってわかるわね。」
「いつも見てるからね〜。」
そうして僕たちは足跡を辿る。
しばらく歩いていると、今度はフンが落ちていた。
「みて!まだ新しいうんちがあるよ!」
「げっ!汚い!」
慌ててフンから離れようと飛び跳ねるサツキ。
「っ!?あぶない!」
後ろに尖った木の枝があるのに気付いた僕は、咄嗟にサツキの手を握って引き寄せる。
「きゃっ!?アンタ何勝手に手を握ってんのよ!!」
バシっ!!
真っ赤になったサツキに僕は頭を叩かれた。
「痛いっ!!ごめん!後ろに刺さりそうだったから!仕方なく!」
「えっ?」
そこでようやく冷静になって、後ろを見るサツキ。
そこには朽ちて折れた太い枝の先が、サツキの方を向いていた。
サツキは、もし手を引かれてなかったらと想像してゾッとする。
「あ、ありがと...助かったわ...死因が動物のフンとか洒落になんないわ...」
「うん!サツキが無事で良かったよ!」
そういうとサツキの顔色が少し良くなった。
「とりあえず、新しいうんちがあるってことはまだ近くに猪が居るって事だよ!ちょっと騒いじゃったから、もしかしたら逃げたかもだけど...」
「ご、ごめんなさい...」
自分のせいで逃げたかもしれないと思い、サツキは謝る。
「いや!いいよいいよ!すぐ追いつくさ!」
「ふふっ、そうね!さっさと捕まえちゃいましょ!」
そして僕らはまた足跡を追う。
すると前方が開けた、少し広い場所に出た。
そしてそこには、追い求めていた猪がいた。
「...大きいね。」
「大きいわね。」
やっと見つけた猪は、この山の主かと思う程に立派な大猪だった。
猪から派生した魔物、ジャイアントボアだ。
2人は気づいてないが、魔物かどうかは紫の目で判断できる。
シオンは今まで、クルトから動物の狩り方しか教わっていなかったため、魔物の判別法を知らなかった。
ちなみにジャイアントボアは、本来ならDランク冒険者が数名で討伐にあたる対象である。
「よし、作戦はこう、僕が反対側にこっそり回って猪をびっくりさせる。それで逃げてきた猪をサツキがやっつけて!」
「なるほどね!まっかせなさい!」
作戦を共有し、僕は反対側の茂みまで遠回りして移動する。
念には念をだ。
僕は、反対の茂みからひょっこりと顔を出し、サツキに手で合図を送る。
(いくよ!)
(こっちはokよ!)
ちゃんと合図は伝わった様だ。
(よし!3!2!1!)
「がお〜〜〜っ!!!」
僕は茂みから勢いよく叫びながら飛び出す。
ピギィっ!?
ジャイアントボアは驚いて、作戦通りサツキの方へ走り出す。
そこでサツキが茂みから飛び出し、剣を構えた。
サツキに気づいたジャイアントボアは、その瞬間に軌道を横に変えて走り出した。
「逃げてるわよ!?」
「追いかけて仕留めて!」
サツキは急いで駆け出す。
「出でよ!風の障壁!!」
そう叫んだ瞬間、ジャイアントボアの前に半透明の壁が現れる。
サツキの風魔法が発動したのだ。
更に、走りながら魔法を唱えるサツキ。
「エンチャントウインド!ソード!」
今度はサツキの持っている剣に風が纏わり付き、風属性の効果を持つ剣になった。
そしてサツキが追いついたと思った、その時だった。
ジャイアントボアが急に進行方向をサツキに変え、突進したのだ。
(やばい!この一瞬だと避けられない!)
僕がそう思った瞬間。
サツキは、まるで突進されるのが見えていたかのように紙一重で避け、ジャイアントボアの首を切り払った。
風属性の斬撃により、天高く舞うジャイアントボアの首。
華麗に血飛沫を避けながら、サツキは剣を納刀し、こちらを振り向いた。
「シオン〜!猪の首、取ったどぉ〜っ!」
謎の掛け声と共に、飛び跳ねるサツキ。
心底ホッとした僕は、その場で座り込む。
「よ、よかったぁ〜...突進されたかと思ったよ!」
「ふふっ!バカねぇ!私が猪如きにやられる訳無いじゃない!」
こうして無事にジャイアントボアの狩りに成功して、その場で僕が血抜きして持って帰る。
とは言え全てを持って帰る事はできないので、4分の1程切り出して、皮を雪車代わりにして引っ張った。
余った部分を置いておくと、魔物が集まってしまうので、穴を掘って土に埋めた。
そして帰り道、僕はどうしても気になった事をサツキに聞いてみた。
「さっき猪を倒す寸前、突進されるのがわかってたみたいな動きだったけど、どうしてわかったの?」
「えっと...それは...あははは...」
サツキは少し、誤魔化すようにしてしばらく考え込む。
「うーん。まぁシオンになら言ってもいっか。ほんとは秘密なんだけどね。」
そう言ってサツキは、僕の耳元に口を近づける。
「...実はね、私は特殊な魔眼を持ってるの。」
特殊な魔眼。それを聞いた瞬間にピンと来た。
やはりサツキこそが、予言に出てきた少女なのだと。
「...や、やっぱり!?」
「ん?やっぱりって事はシオン、もしかして気づいてたの?」
予言は口外禁止のため、なんとなく予想がついていた事を悟られない様、僕はなんとか誤魔化す。
「い、いや!えと、目!サツキの目が綺麗だなぁって思ってて!!」
「ハァ!?何よ突然!意味わかんないっ!!」
サツキは顔を真っ赤にして怒る。
「ご、ごめん!でも魔眼...?は聞いたことがないんだ!教えてくれる?」
「はぁ、仕方ないわね。魔眼っていうのは特殊な能力を持った眼のことよ。単に魔眼と言っても色んな種類があるけどね。私の場合は先見眼といって、少し先の未来が見えてるの。」
「...えっ!?何それすごい!?だから猪の動きが見えてたのか!!」
僕は、それを聞いて驚きつつ、納得する。
「そういう事。絶対逃したくなかったから、追いかけ出したときに魔眼を発動させてたのよ。」
「なるほど...ってことは!もしかして僕との模擬戦でも使ってた!?」
「ううん。ふふっ!アンタは分かり易すぎて魔眼を使うまでもなかったわ!」
「そ、そうですか...」
地味にかなりのショックを受ける僕。
(それにしても、サツキの眼を受け継ぐって、どういう意味なんだろう?)
少しの疑問を抱えながら、僕たちはクルトの家へと帰るのだった。
そうして僕らはクルトの家に着いて、ジャイアントボアのステーキを焼く。
「ほほほ!まさかこの大きさで4分の1とは驚いたわい!サツキは凄いんじゃのぉ!」
驚きながらも上機嫌になり、サツキを褒めるクルト。
「わっ、私は凄くなんかありません!大猪を見つけられたのも全てシオンのおかげですし!私なんて最後に良いとこ取りをしただけで...」
「ううん!サツキは凄かったんだよ!風魔法を使いまくるし!猪の突進を避けつつ倒しちゃうんだもん!カッコ良かったなぁ〜!」
「なっ!?シオンまたっ!!このぉ〜!ちんちくりんめ〜!」
サツキは真っ赤になりながら、僕の頬をつねる。
「わぁぁ!!いひゃいいひゃい!!サツキやめてぇ!ごめんってば!」
「ほほほほ!!この1日でやけに仲良くなりおったのぉ?初めはどうなることかと思ったが!安心したわい!」
僕らの様子を見て、クルトは心底嬉しそうに笑った。
「さて、早く食べないと肉が冷めてしまうぞ?」
「そ、そうね!」
「うん!」
「「「いただきます!」」」
僕らは、期待しながらステーキを食べた。
「...硬いのぉ。」
「...うん。」
「...硬いわね。」
このステーキ、めちゃくちゃ硬い。
「...大きさを聞いたときに、もしやと思ったんじゃが...こやつはジャイアントボアじゃったんじゃないか?紫の目で魔物と判断できるんじゃが...」
「...そう言われれば紫だったわね...」
「...うん...そっか、魔物だったんだね...」
「...シオンには、魔物の判別方法までは教えていなかったな...ともあれ、流石にこのままじゃ食えん。細かく切って炒め直すかのぉ。」
「そうだね。」
「そうしましょう。」
そうして結局ステーキを諦め、野菜炒めを作るのであった。