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幼少期編 1話 初めての反抗期で家を飛び出したんだが?



アドベンド王国領地〜辺境の地〜


僕はシオン、ただのシオン。


普通なら家名などがつくのだが、僕は赤ん坊の頃に拾われた捨て子だから名前しかない。


そんな僕を拾い、育ててくれているのがクルトという老人だ。

街のはずれで捨てられていた僕を拾ってくれたのだそうだ。


クルトの見た目は、中肉中背に優しい顔つき、そして綺麗に整えた白い顎髭と口髭、てっぺんだけ綺麗にハゲた頭が特徴的だ。

性格はとても優しく、怒ることなど滅多にないような、穏やかな人である。

クルトは元冒険者であり、現在は辺境の地にてログハウスを建て、孤独な隠居生活をしている。

そして6年前、僕を拾ってきた日から、1人で僕の面倒を見てくれている。

男手ひとつだが、何不自由なく育ててくれているのだ。

僕は、そんなクルトを本当の親のように思っていた。


「なんじゃシオン。まだ寝ておらんのかったのか。」


二階の寝室で寝れずにいる僕を、クルトが見に来た。


「うん。クルトじい、また冒険の話してくれる?」


クルトは、僕が眠れないとき、よく冒険者時代の話をしてくれていた。


「またかい?...仕方がないのぉ。」


そう言いながら、満更でもないクルトは、自慢げに語り始める。


「あれはワシが仲間と巨人の国へ行った時の話じゃ...」


僕はクルトが話す冒険の話が大好きで、同じ話も多かったが、何度聞いても胸が躍った。

そしていつしか、自分も冒険者になって、クルトのような冒険をしたいと思うようになっていく。


僕は、クルトの話を一言も聞き逃さないよう、必死に聞き入るが、突如やってくる睡魔には勝てない。

こうして僕は眠り、夢の中で大冒険をするのだった。


「むにゃむにゃ...くらえ〜、やったぁ倒したぞ〜...」


「...今日も元気に寝言を言っておるのぉ。」


クルトは、寝言を言う僕を優しい目で見つめる。


「シオンも明日で6歳か、子供の成長と言うのは早いものじゃ。」


感慨深そうに、ポツリと呟くクルト。


「明日からは、シオンにも魔法が使えるよう、稽古をつけてやるとするかの。」


少しだけ微笑み、クルトはめくれた毛布を僕にかけ直す。


「おやすみ。シオンや。」


そう言って、僕を起こさないようにそっと立ち、ドアを閉めながら、こう呟いた。


「お前には、世界を救うという使命がある。強くなるんじゃぞ。」


そう、僕は物心ついた頃から、「世界を救える者になれ。」と言われながら育てられていた。


翌日になり、この日は朝から快晴だった。


「おはよう!クルトじい!」


僕は、昨日ぐっすり眠れたおかげで朝早くに目が覚めた。


「おはよう。今日は早起きじゃな。」


若干眠そうな顔つきで返事を返すクルト。

元気が有り余る僕は、眠そうなクルトなどお構いなしに問いかける。


「うん!ねぇねぇ!クルトじい!今日は何の日か覚えてる!?」


「ふむ。なんじゃったかの?年寄りは覚えが悪くてすまんのぉ。」


意地悪な顔で、すっとぼけるクルト。


「ええぇ!?8月16日だよ!?本当に覚えてないの!?」


僕は頬を膨らませながら、再度クルトに問いかける。


「ほほ、冗談じゃよ。シオンや、6歳の誕生日おめでとう。」


覚えていてくれたことに、僕は喜びの感情が溢れ出てしまう。


「うん!!えへへ!覚えてたんだね!」


「当然じゃよ。6歳になった記念と言ってはなんじゃが、今日からシオンにも魔法が使えるよう、稽古をつけようかと思う。」


「ほ、本当!?僕もクルトじいみたいにカッコいい雷が出せるようになるの!?」


「雷かどうかは個人によるが、かっこいい魔法なら使えるじゃろう。なんせ大魔術師と呼ばれるこのワシが直々に教えるのじゃからな!」


「ホント!?僕も大魔術師になりたい!」


僕は目を輝かせ、今にも飛び跳ねそうなほど喜ぶ。

クルトはそんな僕を見て、笑いながら答える。


「ほほ。じゃが、道のりは険しいぞ?」


僕は期待に胸を膨らませて大きく頷いた。


「うん!僕もクルトじいみたいなカッコイイ大魔術師になるんだ!」


「ほほ、それは今から楽しみじゃのぉ!頑張るんじゃぞ!」


無邪気な僕を見て、クルトは微笑んだ。


「うん!でも僕、髪型は真似たくないよ!」


「なんじゃと!?シオン!」


本当のこと言ったら怒られた。


クルトの本名はクルト・ルーサライトといい、昔は紫電の奏者と呼ばれるSランカーの魔法使いだったそうだ。


ちなみにSランク冒険者といえば、最高ランクの冒険者である。

冒険者ランクは下からD→C→B→A→Sとなっており、Sランクはその中でもランキングが存在する。


全盛期のクルトはSランク3位という実績を持っていた為、自然と二つ名が付けられていたのだ。

その頃は血気盛んで、色んな人物につっかかっては雷属性の大魔法を放っていたらしい。


今となっては、そんな頃があったとはとても思えないほど、おとなしくなっている。

歳をとり、性格も頭のてっぺんも、丸くなったのだろう。


そんなクルトは子供の頃から魔術に関心を持ち、独学で魔術を磨いてきた。

幼い頃から才能に満ち溢れており、やろうと思ったことは大抵できてしまう人間だったため、魔術も飛び抜けており、成長の速さも素晴らしいものだったそうな。


然るべきして、クルトはすぐにSランク冒険者となり、その中でも3位にまで登り詰めた。

引退後は何人かの弟子を取り、屈強な冒険者を育て上げている。


そうしたクルトの経験上、個人の差はあるが魔力総量は魔術を扱い出した年によって増えるそうだ。

かと言って、言葉もわからない赤子に魔法を教えられる訳も無し。

さらに言えば、魔法は誤った使い方をすると危険なため、6歳辺りから覚えさせるのが最適なのだそうだ。


朝食を食べた後、僕たちは庭に出て稽古が始めた。


稽古を始めてすぐ、クルトは僕に問う。


「ではシオンや、まず魔力を感じたことはあるかの?」


「うーん...僕の中に流れてるモヤモヤした何か...みたいな?」


「ふむ。まぁそんなものかの。シオンや、手を貸しなさい。」


そう言ってクルトは僕の手をとると、手に力を込める。


その瞬間クルトの手から力の流れのようなものが流れ込んできた。


「わっ!?すごい!これが魔力なの!?」


「そうじゃ。まずは自分の中の魔力を認知し、操れるようになりなさい。」


「うん!わかったよ!魔力ってすごいね!」


僕は初めて感じた魔力に感動し、魔力がもっと欲しいと思った。

その瞬間、僕は送るのをやめたクルトの手から、魔力を勢いよく吸収した。


「!?」


驚いて手を弾くクルト。


「わっ!?ク、クルトじい...?」


「...今、ワシの魔力を吸ったのか...?」


クルトは困惑しながら僕に問う。


「え...?僕、魔力をもっと知りたくて、欲しいと思ったら...」


初めて見る困惑したクルトに、僕は戸惑いながら答える。


クルトは少し考えたあと、何かを覚悟したような表情をして続ける。


「う、うむ。シオンは魔力を吸い取る事が出来る用じゃの。じゃが普通はありえん事じゃ。」


「そ、そうなの?」


「ああ、魔力を吸収する術を持つ魔物は存在するが、人間で吸収できた例はこれまで存在していない。シオン、その力はあまり人前では使わないようにしなさい。」


険しい顔をしてクルトは言った。


「う、うん。わかったよ。でもここでは使ってもいいの?」


「うむ。ワシの前だけでは許可しよう。」


「わかった!」


「よし。それでいい。続けるぞ!」


「うん!」


僕は気持ちを切り替え、クルトの話を聞く。


「まずは自分の属性を知らなければならん。この水晶を見なさい。」


クルトは、そう言いながら鞄に手を入れ、中から大人の握り拳程の大きさの水晶玉を取り出す。


「これをワシが持って魔力を注ぐと...ホレ、紫色に輝いたじゃろう?」


クルトの手のひらで、水晶玉が紫色の光を放って輝いた。


「わぁ!すごい!僕もやってみたい!」


「うむ。やってみなさい。この水晶玉が光る色によって自分の魔力の属性がわかるんじゃ。今は紫色に光っておるから、ワシは雷属性という訳じゃ。通常、人は1つの属性しか使えないのが基本じゃが、たまに特異な体質を持つ者もおる。魔物も同じじゃ。ホレ、シオンもやってみなさい。」


僕はワクワクしながらその水晶玉を握る。

そして僕の中に流れる魔力を注ぐ。


「...あれ?光らないよ?」


いくら魔力を注いでも、水晶は全く反応を見せない。

本来なら、火・水・土・風・雷・光・闇属性それぞれに応じた、赤・青・黄・緑・紫・白・黒色の光を発する。

稀に2色以上混ざった混合属性が存在するが、その場合も2色が混じって光を発する。

この世界には魔力のない生物など存在しない為、光らないということはまずあり得ないのだ。


「む?いま魔力を送っておるのか?」


またもや困惑するクルトと僕。


「送ってるよ!なんで?」


「わ、わからん...今まで多くの弟子を見てきたが、こんなことは1度もなかった...」


「えぇ!?じゃあ僕、魔法使えないの?」


泣きそうになりながら僕は言う。


「そ、そんなはずは...!シオンや、手を貸してみなさい。」


クルトはそう言って、再び僕の手をとる。


「ワシの手に直接、さっき水晶玉に送った魔力を送ってみなさい。」


「う、うん。わかったよ。送るね?」


僕は、先程水晶玉に送っていた魔力をクルトに流す。


「む?これは、ワシの魔力...?どういう事じゃ...ワシの魔力が増大していく...!?」


「ま、まだ!?ちょっとしんどくなってきたよ!?」


驚いたような顔をして、謝るクルト。


「す、すまない!...うむ。シオン、やり方を変えよう。」


そう言ってクルトはしゃがみこみ、地面に何かを描き出した。


「う、うん。クルトじい?なにしてるの?」


不思議に思った僕は尋ねる。


「これはじゃな、魔法陣と呼ばれるものじゃ。魔法陣さえあれば、適正や詠唱がなくとも、魔力を送れば魔法が発動する。そういう術式じゃ。ほれ、シオン。ここにさっきの魔力を流してみなさい。」


「ほんと!?これがあれば誰でも魔法を使えるの!?」


「...ああ、そうじゃ。火の初級魔法が出る魔法陣を描いた。通常であればここから炎が出る。じゃがシオン、もしかするとお前には...まぁよい。やってみなさい。」


「う、うん。お願い!ほのおさん!でてきて!」


そう願いながら魔力を込める。


「......」


「......そんな、まさかとは思ったが...本当に使えないのか...?」


魔法陣は光すら出さず、何も変わらないままだった。


「...僕、魔法使えないの?」


泣きそうになりながら、僕はクルトに尋ねる。


「使えるさ。」その言葉を期待した僕だったが、クルトはそんな僕の期待とは程遠い言葉を、絶望の表情で言った。


「この世界の生物は全て、魔力を持って産まれてくる。そしてその魔力には型が存在し、それにより属性が別れる。こんなことはありえないんじゃが...シオンの場合、型が存在せず、それどころか魔力としても認識されていない...」


「...えっ?」


信じたくない発言に、僕はその場に固まる。


「シオン...。シオンには、魔法が使えんかも知れん...。」


追い討ちをかけるように、クルトの口から放たれた無慈悲な言葉に、僕は耐えられず叫んだ。


「そんな...、僕には強くなる使命があるんでしょ!?なんとかならないの!?」


「そうじゃ...。じゃが、ワシも初めての経験じゃ。正直、現時点では魔法が使えると断言はできない。」


「そ、そんな...」


期待していただけに、その絶望感は大きく、僕は言葉に詰まってしまった。


「じゃがシオン、魔法が無くても冒険者になる事はできるぞ!」


クルトが咄嗟に慰めてくれるが、今の僕は素直に聞くことができなかった。


「...魔法も使えないのに、最強になんてなれないよ!!」


僕は絶望のあまり叫び、庭を飛び出した。


「待て!待つのじゃシオン!!」


クルトの呼び掛けにも応えず、僕は森へと走り続けた。


「...魔力ですら無い。じゃがワシの魔力が増大したのも確かなのじゃ...魔力に通ずる何かなのは間違いないのじゃろうが...」


1人になったクルトはそう呟いて、考え込む。


「ワシは...どうすればよいのじゃ...」


そうしてクルトは、しばらく1人で悩み続けた。


ザワザワ...


どのくらい時間が経ったのだろうか。

クルトはふと外が騒がしいことに気がついた。


「...なんじゃ...?」


森がざわめいている。

空を見ると、森の奥から沢山の鳥が逃げるように飛んで来ている。


「森で魔物でも暴れておるのか...?」


不思議に思うクルトだったが、ここで重要なことに気がついた。


「鳥が逃げてきた方向...まさか!?」


鳥たちが逃げてきた方向は、随分前にシオンが走っていった方向である。


「ワシとしたことが!!あの時直ぐにシオンを追いかけておれば!!!」


クルトは急いでシオンを探しに森へ入るのだった。


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