表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/59

第6話 愚か者は愚か者の自覚が無いからこそ愚か者だ

「あーあ。炎上してるよ」


 進は4月の下旬、休憩中にスマホでSNSを見ていた。フォローしている人のまともな発言が切り取られ、炎上していた。




「どうした小僧? 炎上してしまったのか?」


 ススムが後ろから画面をのぞき込みつつ声をかける。




「うわっ!! あ、いえ。フォローしていた人です。俺じゃありません」


「そうかよかった。小僧、よく聞け。


 真の愚か者というのは「自分が愚か者だなんて一瞬たりとも思わない」ものだ。それゆえに愚か者で救いようがないんだ。


 例えば以前炎上した事例だが「女房を質に入れてでも欲しい」と言ったら


「人間は質屋では買い取ってくれません。間違ってます」とか


「女性差別です。許されない表現です」とか


「時代にそぐわないので不快です」などと言い返されて炎上してしまったそうだ」


 ススムはまるで嘔吐物(おうとぶつ)でも見ているかのような目で語りだす。




「そもそも「質屋は人間を引き取ってくれない」なんて当たり前のことだ。


 だがそれほど「あり得ない金策」をしてでも欲しい。っていうところに言葉の面白さがあるんだが、愚か者にそんなこと言っても


「あなたはあなたにとって当たり前のことを知らない人を馬鹿にするのですか? そんなの差別で許されない事ですよ」などとほざく。


 自分が気にいらない存在はすべて潰さないと納得がいかないというのが真の愚か者だ。


 昔から「バカにつける薬はない」と言われてきたが、それは本当の事だ。


 書かれていることをしっかりと読まずに、書かれてもいないことを勝手に読んで異次元のゆがみを起こしてヒステリックに攻撃してくる。


 だから愚か者は愚か者で救いようが無いんだ」


 ススムはハァーアを最大限に深いため息をつく。相当嫌なのだろう。




「その証拠に昔、ZOZOTOWNでツケ払いというのが話題になった。


 こいつは服の購入代金の支払いを2ヶ月後にまで先送りできるサービスだったが、支払えない者が続出したそうだ。


 よく考えてみろ。先月もカネが貯まらず、先々月も貯まらなかった。その前も、そのまた前もそうだ。


 それなのになぜ2ヶ月後には何の努力もせずに突然カネがあると思えるんだ? おかしな話じゃないか。


 しかもだ、サービスを利用した当の本人は「お金が無くても服が買える!」と支払いの義務が頭からすっぽり抜け落ちて、欲望のままに限度額まで買いあさったそうだ。


 そんなサービスを考え付く側も狂ってるし、それに踊らされて買いまくる奴も狂ってる。


 狂人が狂人相手に商売をするようなものだ。アホらしい」


 ススムの口は人間のサガなのか、批判になると普段よりもキレが良い……気がする。




「これだけじゃないぞ、実際に今現在日本で起こってることとしてアルコール類のCMで『グビッグビッ』っていう飲む音が


 不愉快でアルコール依存症の人を傷つけるから消せ。なんていうバカな意見を受け入れて業界が自主規制する始末だ。


 飲み会に出ない、飲み会の無い会社に転職する、酒を飲む友人や親とは縁を切る。


 そのほかありとあらゆる対処をしても、どうしても強制的にアル中にならざるを得なかった。


 ……というのなら仕方ないと思うがそうではないだろ?


 本当の愚か者は「自分は被害者だ」と声高に叫び、「自分が加害者」になるかもしれない、というのをカケラ一つたりとも思わんものだ。


 だからこそ愚か者は愚か者で救いようが無いんだ」


 普段より切れ味の鋭いススムの口は止まらない。




「愚か者にならないためには勉強しろと言うが実際は違うぞ? 勉強しようが本を読もうが愚か者は愚か者でしかない。


 いくら勉強しても「勉強ができるだけの愚か者」にしかなれないし、本を読んでも「本を読んだだけの愚か者」にしかなれん。


 愚か者は「社会的に正しい物、正しくない物は自分の判断で決められる。自分の常識は世界の常識でありグローバルスタンダードだ」


 と真剣に思い込み、それどころか「自分が気に入らない表現をすべて潰さないと生きていけない」とまで思っている。


 そのために有用な知識をバカで愚かな使い方でしか使えない。だから救いようがないほどの愚か者なんだ。


 その証拠に「童話の白雪姫のキスシーンは準強制わいせつだ」などとバカげたことを言う大学教授がいる。


 オレが「もうろく」したわけじゃないぞ。この現実の世界で実際に起こった出来事だ。こいつこそ「勉強ができるだけの愚か者」の典型例だ」


「では自分は愚か者だと気づければ愚か者ではなくなるんですか?」


 進はススムにそう言うが……。




「自分が愚か者ではないのか? と気づける奴は実は元から愚か者ではない。ごく普通の人並みな人間だ。


 普通の人間は愚か者を見て「あいつバカだなー、でももしかしたら俺も同じことをやってるかも……」と踏みとどまれる。


 だが愚か者は愚か者を見て「あいつバカだなー。俺はあんな奴とは全然違うぞ」と思うものなのだ。


 相手を愚か者とみる一方で自分が全く同じ愚か者だとは一切疑わない。愚か者を見て彼は自分の鏡写しだとはカケラ一つ思わない。


 だからこそ愚か者は愚か者で救いようが無いんだ。小僧、覚えておくんだな。


 じゃあオレは午後のプログラムだからな」


 ススムはその場を後にした。




【次回予告】


ススムから出された課題に取り組む進。不安に思いながらも月末前日を迎えた。果たして結果は……?


第7話 「感情の奴隷になるな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話を読んで、ユダヤ笑話集の中のある一話を連想しました。 <――以下、引用――>  ある男が、ラビ(ユダヤ教の聖職者)に尋ねた。 男「ラビ、私は愚か者なのでしょうか?」 ラビ「自らの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ