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蒼春の庭  作者: きときと
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1.めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな(1)

”特別とは何だろうか。

 他のものとは異なる唯一的なもの。

 一般的なものなどとは違いその存在は代えがたく、他とは一線を画すもの。


 あえて言おう。特別とはまさに自分のこ...”


「...きて.....ーくん」


”待て、今いいところだ。もう少しまっ”


「起きてってば、たーくん。授業終わったよ?」


ここで太一は目を覚ましたのであった。


この場所は自分が通っている県立高校の二年の教室。それも窓際の後方三番目というなかなかに良い

場所。

昼過ぎには暖かな日差しが差し込み、食後の満腹感と相まって良い睡眠へといざなってくれる、そんな

ところである。

今日も例にもれず持参した弁当をぺろりと平らげた後、地理なんていうつまらない科目はよそ目に最高な睡眠をしていたのであった、ついさっきまでは。


「そんなに寝てばっかりいたら夜に眠れなくなっちゃうよ」


そういって横ではにかんでいるのは太一を起こした張本人の楓である。

勉強、運動神経、見た目のすべてが平凡な太一とは対照的に、楓はそのハツラツとした見た目からクラスの皆に好かれる元気印な女子であった。

女子にしては高身長で少し日焼けしたスラっとした体格が健康的な印象を与える。横に座っているときに

ショートボブの髪から時々のぞかせる横顔は綺麗という言葉を連想させた。


「なーに、まだ寝ぼけてるの? おーい、たーくん」

「大丈夫、別に最初っから寝てない」


そんな冗談を言いつつ周りを確認する。いそいそと部活や帰宅などへむけ各々準備をするクラスメートたち、

下校時の諸注意を伝える担任教師。確かに授業は終わっているようだ。

寝ぼけた頭を徐々に動かしながら今日の放課後の予定を思い出そうとする。


「私は図書委員があるけど、たーくんはどうするの。今日も図書館来る?」

「そうだな、用事もないし」


担任の連絡事項を聞き流しながら筆箱やノートをカバンに放り込みつつ、友達と近くのパンケーキの店に

ついて話し始めた楓を少し待ち二人で図書館へと向かうのであった。



「昨日テレビに出てた芸人さんがすごい面白っかったの。たーくんが好きな感じだったから今度見てみて!」


「そういえばこの間たーくんにあげた狐のぬいぐるみ大切にしてくれてる? あのしっぽのモフモフがね~」


図書館へと向かう間も楓はあれやこれやと話を振ってくる。よくこんなに話が続くものだと感心しつつ

少し気怠い感じで一言二言返事をする。

ちなみに狐のぬいぐるみは楓が春休みに京都に家族旅行で行った時のお土産らしい。京都のお土産と

いえば八つ橋じゃんと内心思いつつ、お揃いなんだよと笑顔で差し出されたそれを渋々受け取ったので

あった。

そんな他愛もない話をしているとしばらくして図書館についた。教室からは少し遠い距離にあるのだが

ゆっくり歩いていても五分ほどで着くことができた。



着いてすぐ楓は図書委員としての仕事にとりかかった。自分はというと大してやることもない。テスト期間は

相当先だし、読みたい本もこれと言ってなかった。

帰り道が同じという理由で楓を待つわけだが、図書館が閉まる十七時半までは暇を持て余すこととなって

しまった。

さて、どうしたものかと訳もなく歩き出そうとしたその時、傍らにいた女生徒が返却スペースに置いた本が目に留まった。その本は"新版 百人一首"というタイトルであった。

今どきの女子高生が読む本かと小首をかしげつつ、小学生の時にかるたとしての百人一首を学校で

させられたことをふんわりと思い出し、少し興味を持った太一はその本を手に取り席に着いた。


学校に置かれているにしては少し分厚くしっかりとしたその本には百人一首の概要と百首の歌、そして

それぞれの説明が書かれているようだった。

百人一首といってもいろんな種類があることやすべて違う歌人の歌であることなど、初めて知る内容に

感心しつつパラパラと本をめくった。

どれも難しい内容であったり記憶にないものばかりでほとんどのページは流し読みという感じであったが、あるページでふと手が止まった。そこには"57番 紫式部"と書かれていた。


「紫式部っていうと、確か源氏物語の」


見知った名前が出てきたことで少し気をひかれ、その歌について読もうとした。そのとき急に太一は

ものすごい眠気にかられた。

急なことに動揺しながらも、そのまま眠気に誘われ机に倒れこむように眠りについてしまうのであった.....。




目を覚ました時、目の前には見知った天井があった。そう、ここは紛れもなく自分の部屋だ。時計は朝の7時を指し示しカーテンの隙間からこぼれた日差しが部屋へと差し込んでいた。

頭に軽い痛みを感じつつ、太一はなにがあったかを思い出そうとした。


「確か図書館にいて。なんで自分の部屋にいるんだ」


昨日図書館で寝てしまってからの記憶がないのが変だと思いつつリビングへ降りて水でも飲もうかと

ベッドから起き上がった。

その時、自室に何か違和感を感じた。何が違和感を感じさせているかわからない、ただ漠然とした不安が

太一を襲うのであった。


「きっと昨日から疲れてたんだ。変なタイミングで楓が起こしたから。」


口に出したかはわからないが、ぼやけた頭でそんなことを考えつつ、まだこの後に何が起こるか

知るよしのない太一はゆっくりと部屋のドアを開けるのであった。

ここ最近、オムライスが異常に美味い

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