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寂しい世界

作者: U・N・オーエン

昨日、僕の世界はガラガラと音をたてて崩れ落ちた。残ったのは、ハリボテの世界の、醜い残骸だけだった。

僕は、いつも通りに歩いていた。毎日毎日、飽きもしないで学校に向かって歩く。

その無意味さに目をつぶり、今日を終えるためだけに歩いていた。

登校するとき、少し大きな横断歩道がある。車の通りが少ないためか、信号機は設置されていない。

僕は、その横断歩道の前で車が通り過ぎるのを待っていた。その時、1人の小さな男の子が、車に跳ねられた。

僕は、後ろからその子が走っていていることに気づいていた。跳ねられた時も、その直前も、僕はその子のことを見ていた。両手は空いていたし、リュックもそんなに重くはなかった。

なのに、動けなかった。走ってくる男の子に「危ないよ」と声をかけることも、道路に飛びてたその子を止めることも、跳ねられたその子に駆け寄ることも、救急車を呼ぶことも、何も出来なかった。

別に、怖くて足がすくんだわけじゃない。震えて、手が動かせかなったわけでもない。ただ、なぜか動けなかった。動く気になれなかった。

僕は自分のことを、それなりに優しいやつだと思っていた。よくある漫画の主人公のように、車に跳ねられそうになった子供を助けだせるものだと思っていた。

けど、できなかった。そんなの、少し考えればわかることなのかもしれない。他人のために命を捨てるなんて、出来るわけないんだって。

そんな簡単なことに、今まで僕は気づかなかった。気づきたくなかった。

そして昨日、僕は知ってしまった。

その日、目の前に広がる世界は美しいものでは無くなった。僕には、たまらな寂しく思えた。

今、僕の目の前に広がっているのは、寂しい世界だ。自己満足の延長でしか他人のために動けない、そんな寂しい生き物が支配する世界だ。

「思いやり」を語りながら迷子の子供を無視する教師。被災地支援に行きながら、徘徊老人を無視するボランティア。子供を殺す両親に、両親殺す中年に。

全ての人間がそんな奴らだ、なんて言うわけではないけど、誰もが共通して持っている部分でもある。人間なんて、寂しい生き物だ。

そんなことを考えていると、1人の少女を見かけた。その少女は、1匹の猫を抱きかかえていた。その猫は、小刻みに震えていた。首輪は着いていなかった。何かの病気だろうか、目は赤く充血し、お世辞にも可愛いとは言えない見た目だった。

でも、その少女は猫をしっかりと抱いて走っている。

その少女が、たまらなく綺麗に思えた。

なんて美しいんだ、と思った。僕には彼女が輝いて見えた。

確かに人間は醜い一面を持っている。だけど、綺麗な一面もある。そんなことを、とても強く実感させられた。

昨日崩れた僕の世界が、少しだけ直ったような気がした。

人は、自己満足の延長でしか他人を思いやることが出来ない。その考えは、変わらない。

でも、この寂しい世界で生きていく覚悟が、少しだけ出来たような気がした。


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