7話 藤野 玄人、クエストしました。③
準備を全て終わらせた俺たち3人は、早速ゴブリンの出る場所へ向かっている。
そこは、以前俺が転生した森のようだ。
もちろん、今回は前回のようにもめないよう、通行許可証を持ってきている。
「ほら、あそこの森だ。で、どうするよ?」
「どうするってなんだ?ジャック」
「いや、1人ずつ別々で倒すのか、3人で倒すのか」
ああ、そういうことか。
「1人ずつの方が効率がいいんじゃないかしら」
「そうだな。ただ、一度に二体出てきたらどうするんだ?」
2人は不思議な顔をして、
「「倒すでしょ」」
と、真顔で返してきた。
「ま、大丈夫でしょ、そんなに離れるわけじゃないんだし、声を上げればすぐに合流できるわよ」
それもそうか。
「よーし、じゃあ、何体倒せるか勝負だ!」
子供かな?
「いいわね!私、絶対負けないわよ!」
キャルロット、お前もか。
俺は今1人で森を歩いている。だが、ゴブリンが全く出る気配がない。
「どうしようか」
俺がぬぼーっと突っ立っていると、
ガサッ。ガサッ。
来たっ、モンスターだ!
「ん?」
だが、俺は茂みから僅かに見えた黒いツノを見て首をかしげる。
そしてそいつは、すぐに何処かに行ってしまった。でも、そのモンスターは追いかけない方がいいとおれの直感が言っていたので、追いかけずに終わった。
そして、今度は進む方向を変えてみようと、ゴブリン探しを続けた。
5分後。
ガサガサと、茂みの中を動く音が聞こえ、俺は辺りを警戒する。…と。
「グギャッ!」
やっと来た。ゴブリンだ。こいつは、アイスゴブリンか。
「スキル《情報視認α》!」
『アイスゴブリン Lv5
《スキル》
《身体強化》
《水魔法:初級》
《氷魔法:初級》』
マジかよ。前より強いじゃねえか。
俺は即座に戦闘態勢に入る。
「スキル《冷蔵庫》っ!」
俺は《冷蔵庫》を発現し、冷凍庫から精霊槍を取り出す。
「グギャギャッ!」
アイスゴブリンが鳴いたその瞬間、身体が光り、こちらに突進してきた。
「くっ!」
俺はなんとかそれを避け、精霊槍を前に構える。
「ふっ!」
俺はそのまま突っ込んでいき、《冷蔵庫》を発現、小さい氷を掴んでアイスゴブリンに投げる。
「ギャッ!」
アイスゴブリンは氷を殴って粉砕する。俺はその隙に、精霊槍で横薙ぎする。
「グギャアッ!」
俺が精霊槍で薙ぐと、ヴン、と音がした。
アイスゴブリンの腹が切れたのは言うまでもない。そして、直後。アイスゴブリンの胸板あたりに一筋の霜が降りた。
ただ、なんの効力もない、ただの霜だった。
「ギャッ!」
当然、アイスゴブリンは霜を気にせずに攻撃してくる。
やはり、速い。速いが、分かっていれば対処はできる。
「ふっ!」
俺は真っ直ぐに精霊槍を突き出す。果たしてこれは対処と言えるのだろうか。
だが、意外にも精霊槍はアイスゴブリンに突き刺さった。
「グ…」
アイスゴブリンは粒になって消えていった。
『アイスゴブリンを倒しました。
レベルが3から4に上がりました』
ふむ、ソウルブックで確認してみるか。
藤野 玄人
Lv4
HP 40
攻撃 31
防御 26
魔法力 36
魔力 48
精神力 60
やっぱり、下三つが伸びてるな。将来的には、魔法使いになる感じかな。
さて、もっと探そう。試してみたいことがある。
ガサガサ、と音がする方を見る。ファイアゴブリンだ。
「グギャッ!」
「スキル《冷蔵庫》」
俺は精霊槍をかまえる。すると、ファイアゴブリンは火魔法を使ってきた。
「くっ」
火は厄介だ。精霊槍の氷が溶けてしまうかもしれない。
俺は適度に距離を保ちつつ、隙を狙っていく。
(…ここだ!)
「ふっ!」
俺は一気に近づき…感覚を思い出す。それは、最初に精霊槍を使った時の、力が抜けていく感覚だ。それを、抜けていくのではなく、意図的に、かつ、場所を選んで抜いていく。
俺は精霊槍の横薙ぎにタイミングを合わせ…
「ハァ゛ッ!」
力を精霊槍に向けて抜かしていく。つまり、注ぎ込むのだ。
「ギャッ」
結果、俺はかなり体力のような、魔力のようなものが奪われた。だが、それと同時に、ファイアゴブリンは、切られたところから氷に侵食されていった。
そして、そのまま粒になって消えていった。
(やっぱりか…)
俺が考えていたのは、こうだ。
さっきアイスゴブリンを薙いだとき、霜が降りていた。以前アイスゴブリンを相手にした時は、そんなことは起こらなかった。
相手自体は、変わっていない。それに、前よりもレベルが高くなっていたから、アイスゴブリンが要因で前よりも効くとは考えられないだろう。
となると、変わったのは俺だ。おそらく、この指輪のおかげだろう。確か親父さんは、魔力を強化してくれるといっていたな。それのおかげだろう。
ということは、だ。俺が強くなれば、指輪が無くても精霊槍の能力を引き出せるし、そこから指輪をつければさらに強くなるってことか。
その時が楽しみだなあ。
『ファイアゴブリンを倒しました。
ファイアゴブリンが『スアヌの指輪』をドロップしました』
ん?スアヌの指輪って親父さんからもらったのと一緒じゃないか?
俺は地面に落ちている二つの指輪を拾い、《情報視認α》で確認する。
[スアヌの指輪]
ランク:E
《スキル》
【自動発動】
《魔力強化:小》
《魔法力強化:小》
親父さんのはどうだろうか。人からもらったものを見るのはなんだか罪悪感があるが、仕方ない。
俺はそうわりきって、指輪を見る。
[スアヌの指輪]
ランク:B
《スキル》
【自動発動】
《魔力強化:中》
《魔法力強化:中》
やっぱり親父さんのは違ったな。
ま、三つともつけとくか。ゴブリンからドロップしたのも、ないよりはいいと思うし。
「ふー」
かなり魔力を使ってしまったし、精霊槍で回復しきるまで待つとするか。
少し休んだらまた探索だ。2人には負けたくないしな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、「キャルロット、お前もか」のところは、「ブルータス、お前もか」が元です。