6話 藤野 玄人、クエストしました。②
今、キャルロットとジャックがこのクエストでもないあのクエストでもないと言って、わちゃわちゃしている。
「ほら、これなんかどう?」「いやこっちは…」
これじゃあ、いつまでたってもクエスト行けないんじゃないか?
「2人とも、俺にいい案がある」
「なによ?」「マジか?」
俺のとっておきだ。
「まず、俺が重ならないように机に紙を並べる。その次に、2人が目を瞑って、適当に紙を取るんだ。そのとったクエストのどっちかを受ける」
「それ、危険なクエストだったらどうすんのよ…」
「有言実行だ、もちろんいく!」
「おいおいキャル!やる前から負けたようなこと言ってんのか?」
「べ、別に危険なクエスト引いたら負けとかそんなのないでしょ!」
「まあまあ、それじゃあ並べるから2人は目を瞑っていてくれ」
そう言って、俺は机に紙を並べていく。…え、マジで危険なクエストあったんだが。……気にしたら負けかな。
「よーしいいぞー。んじゃ、目を瞑ったまま、紙に手を置いてくれ」
キャルロットが手を置いたところには、ゴブリン討伐の紙。たまに町の近くに来て、苦情が少し出ているらしい。
そして、ジャックの手の下には…危険なクエスト。
来ましたっ、フラグ回収っ!
なんだよ、ドラゴン討伐って。おつむがおかしいのでは?…よし、あの作戦だ。
「まだ目開けるなよ?俺が紙を抜くから」
俺はゴブリン討伐のクエストと、ドラゴン討伐のクエストを抜き取り…そのドラゴン討伐クエストとスライム討伐クエストを入れ替えるっ!
完璧だ。
「目開けていいぞー」
紙を見た瞬間、キャルロットは嬉しそうな表情。
ジャックは少し残念そうな表情。
「じゃ、決めようか。どっちがいい?」
「私はゴブリンがいいわ。スライムはぬるぬるしてて気持ち悪いだけだし」
「俺もゴブリンがいいな。そっちのが殴り甲斐がある」
満場一致でゴブリンだ。
「じゃあ受注しようか」
「それじゃあ、出発ね!」
きたー!初クエスト!
「おいおい、まずは腹ごしらえが先だろ?あと、2人ともなんだ、装備を持ってこい装備を。即死するぞ?」
「「あっ…装備…」」
「これ美味しいわね!」
今俺たちがいるのは、ラーメン屋…みたいな所だ。
ジャック曰く、「ここで食べていくのが冒険者の常識だぜ!」ということらしい。まあ、俺たち以外に今客はいないけど。
「あんたら、冒険者だろ?これからクエスト行ってくんのか?」
大将っぽい人がカウンターの向こうから話しかけてきた。
「はい、これからゴブリン討伐にむかうんです」
「そうか、じゃあ、これ持ってきな!」
「なんですか?これ」
「お守りだよ、初めてうち来た冒険者にあげてんのさ。ほら、そっちの嬢ちゃんにも」
「わ、ありがとうございます!」
ここの大将は冒険者思いのいい人なんだな。
「それじゃ、また来るわ」
「おう、今度は1ヶ月以内に来いよ!」
そんなにも来てなかったのか。
「なあジャック、お前、ここに来るの久しぶりだったのか?」
「まあな。ここんとこ遠征が忙しくて」
「遠征?」
「俺、今冒険者と王国軍隊員を兼業してんだ」
それってすごい忙しそうだな。
「ま、俺の事はいいから行こうぜ!次は武器屋だ!」
「よお親父!」
「久しぶりだな、ジャック!ようやく帰ってきおったか!」
「ここはジャックの家なのか?」
「おうとも!俺の親父は鍛冶屋なんだぜ!」
「君らはジャックの友達かな?迷惑をたくさんかけていると思うが、許してやってくれな」
「親父、俺そんなに迷惑かけるやつじゃねえぞ?」
「本当か?嘘か?嘘だな、ガッハッハ!」
「自己完結してんじゃねえ!」
2人は、あーだこーだと言い合っている。仲がいいな。
「ねえ玄人、これはいつまで続くのかしらね」
「ほんとにな…なあジャック、武器を買いに来たんじゃないのか?」
「そうだった!親父、こいつらに合うやつを見繕ってくれ!」
「わかった、ちょっと待っとけ」
すると、親父さんは眼鏡をかけて戻ってきた。
それから、俺たち2人をじぃっと見つめて、
「よし、決まった!奥に来い」
俺たち3人は親父さんについていく。
そこには、盾から杖まで、多くの武器があった。
「お前さんに合うのは…こいつだな!」
親父さんは、水色の石がハマった指輪を持ってきた。
「この石はスアヌといってな、魔力を強化してくれるんだ。お前さんにぴったりだろ?」
なぜ俺が魔力をたくさん使うのがわかったんだろう。
そんな俺の様子を察したのか、ジャックが
「あの眼鏡で、中身が見えるんだとよ。ま、俺がかけても何にも変わんなかったけどな」
なるほど、親父さん専用ですごい効果を発揮する、みたいなもんか。
「次は、お嬢さんだな。えーと…こいつだ!」
それは、十字のペンダントだった。
「こいつは真ん中にミラレイグっつー石がはめ込んであってな、別名『癒しの奇跡』って名前なんだ。見たところ、あんた回復魔法が得意っぽいからな。それに、似合うと思うぜ」
「あ、ありがとうございます!」
「で、親父、いくら取るんだ?」
そうだ、お金なんて持ってないぞ?
「いや、いいぜ?なんてったって、お前の友達だからな!」
いいんだろうか。
「気にしなくてもいいからよ。ほら、持ってけ!」
「ありがとな、親父!じゃあそろそろ行こうぜ!」
「ああ。親父さんありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
俺に続いてキャルロットがお礼を言った。
「いいってことよ!それじゃ、頑張ってこいよ!」
こうして、俺の初クエスト、つまりは初陣がスタートした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
遅くなりました。今日も昨日に引き続き、推敲出来ていません。おかしなところがあれば教えていただければ幸いです。




