39話 藤野 玄人、戦いますよ。①
俺は最初にその世界を見て、ああ、インフェルノウルフが一面焼け野原にしてしまったのか、そう思った。
しかし、見るとどこまでも続いている全く別の空間だった。
「ふむ……汝が、藤野 玄人か」
「うぇっ?」
インフェルノウルフがいきなり俺に話しかけてきたため、驚いて変な声が出てしまった。
「ふ、愉快な声を出すものだな」
む、なぜか笑われてしまった。
「お、おい、インフェルノウルフ!何をしている!さっさとそいつを殺せ!これは命令だ!」
フードを被った召喚士の男が怒声を飛ばす。それを、インフェルノウルフは一蹴した。
「うるさい」
そして、そこからさらに追撃するようにもう一言。
「いいか、貴様ごときに私を従えると思うなよ。貴様がどうしてもと言うからわざわざ召喚されてやっているのだ」
「ぐっ……」
その言葉に、召喚士は黙ってしまった。
「それともあれか?貴様が私に泣きついてきたときの話でもするか?」
そう言って、インフェルノウルフは話し始めた。
「いやぁ……あれは愉快だったなぁ……こいつは、
私が森で寝ているところにたかが熊一匹で挑んできおってな。3秒でミンチにしてやったら、ひんひん泣きながら……なんだったか。『頼むから、命は取らないでくれー』だったか?その上、私を召喚したいだのと……」
「や、やめろ!やめるんだ!」
本当に楽しそうに話すインフェルノウルフを、フードの下は真っ赤であろう召喚士が止めに入った。
……モンスターが話せることも、殺すって言葉を連発してるのにこんなに和気あいあいしてることも、突っ込まないからな。
……っていうか、森で戦ったのか。なら、俺がこっちにきたばっかりのときの、あの爪痕も、彼の召喚したモンスターがつけたものなんだろうな。あれ?でも、3秒でミンチ……
「二つ聞いてもいいですか?」
俺は警戒をとかず、尋ねる。
「ああ、いいぞ。あと、タメでいい」
モンスターが『タメ』って言葉使うんだな。
俺は、インフェルノウルフの力量を知るために、こんな質問をした。
「わかった。お前がそっちの召喚士と戦った時に使役していた熊。そいつは、3秒でミンチにしたって今言ってたな。でも、俺が前に森に行った時に、木に爪痕が付いていたんだ。それは、その熊がつけたんだよな?お前、ちょっと盛ったか?」
「そんなわけないだろう。あれは一発だったな。実を言うと、1秒かかっていない」
そうか。なら、あの爪痕は、誰がつけたんだろうな。って、今考えるのはそれじゃない。
「二つ目だ。お前は俺と敵対するのか?」
俺がそう聞くと、インフェルノウルフが口を開く前に、召喚士が言った。そして、それに被せるようにインフェルノウルフは言う。
「当たりま「しない」」
それを聞いた召喚士は、「はぁっ!?」と声をあげた。
「な、何を言っている!は、早く焼き殺せ!」
インフェルノウルフは「はぁ……」とため息をついた。
「いやだ」
「く、くっそ……」
召喚士はその場に座り、俯いてしまった。
「そうか。なら、ここから出してくれ。牢に閉じ込められている二人を助けたい」
「ダメだ」
敵対しないと言ったのに、ダメとはなぜだろうか。
「というか、彼ら、いや、会場全員は別の空間に入ってもらっている」
「全員が?なんでだ?」
「もうじきわかるさ……おっと、噂をすれば」
「うおっ!」「おおっ!?」
空間にヒビが入った。
「お出ましだ。構えろ」
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