38話 藤野 玄人、ちょーっと、怒りました。③
「き、貴様……その程度だと?ふ、ふはは……いいだろう、そこまで言うのなら、私の使役する最強のモンスターを召喚してやろう!」
いや、別に必要ないんですが。レベル120の召喚士が使役する最強ってほんとに強そうだもんな。
「おい!何勝手な事しようとしてやがる!」
シャーブが召喚士の男に言うが、彼は無視して『召喚』した。
「はああああああああ!出でよっ!『インフェルノウルフ』っ!」
彼がそう言うと、地面に半径3メートルほどの魔法陣が現れた。
って、インフェルノウルフ!?名前からしてめっちゃ強そうじゃん!
俺は警戒して杖を盾に変化させる。すると、ちょうど変化し終わったタイミングで、森の方から爆発音が聞こえた。
「なっ、なんだ!?」
「ふ、はははははははは、聞こえたか?あれはインフェルノウルフが放った音だ」
男がそういった瞬間、魔法陣から狼が現れた。
赤い体毛、その鋭い眼は、真っ赤に燃えている。四肢は、いかにも筋肉がついている、といった様子だ。これが、インフェルノウルフか。
「ウルォォォォォォォォォォ!!!」
インフェルノウルフが咆哮すると、肌が溶けるような熱風に襲われた。
「つっ!」
「ふははははははははは!どうだ!?これが私のモンスターだ!さあ、二匹とも!あいつを地獄に落とせ!」
二匹?……そうだった!ジェネラル・ゴブリンもいたんだった!
そう思い、俺は辺りを見渡した。
「「あれ?」」
俺と召喚士は同時に疑問の声を上げる。それもそうだろう。今場内には、俺と召喚士、牢の中の二人––––校長とディアブルだ––––それに加えて離れている観客しかいない。
「ん?あ、ああ……」
俺は納得した。そりゃ、あんな熱風を当てられたらみんな逃げ出すだろう。
「は?」
だがそれは違ったようで、召喚士は地面を見て、困惑の声をあげた。それにつられて、俺も地面を見る。すると、そこにあったのは、溶けた肉片だった。
「ふ、ふははははははは!まあいいだろう!これだけ強大な力を持っているのなら、他の雑魚など必要ない!」
それを聞いて、俺は無意識につっこんでしまった。
「いや、シャーブはもう溶けたみたいだし、俺が殺される必要もないだろ」
「何をいっている!私を侮辱しただろう!?」
なるほど、あいつの中で、さっきの俺の言葉は侮辱になるのか。
「さあ、やってしまえインフェルノウルフ!」
彼がそう指示すると、インフェルノウルフは一歩ずつ前へ前へと踏み出してくる。そして、その度に当てられる熱量が増していく。
その間、俺は動かないでいた。いや、動かそうとしても意に反して動いてくれなかった。俺には《好奇心》のスキルがあるから、恐怖状態にはならない。なら、なぜ動かないのだろうか。もっと根本的な部分の、スキルより深くの心の問題だろうか。
そう思考を巡らせていると、インフェルノウルフは既に2メートルほど前まで歩んできていた。
そして、再び足を踏み出す。その足が地面に着くと––––世界が暗転して、一面赤の空間になった。
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