28話 藤野 玄人、トーナメントしました。⑩家に上げました。
『Aブロック決勝戦を行います。藤野 玄人選手、ヘイゼル=クランツ選手は入場してください』
よし、行くか。
「Aブロック決勝」
目の前には、ヘイゼル。【暴化】は昨日よりも強く付与されているだろう。こっちを睨みつけている。いや、決勝ではあるし、これが普通か?
「藤野 玄人対ヘイゼル=クランツ……始めっ!」
早速、さっきディアブルに教えてもらった《レフォースΔ》、使ってみるか。
「《レフォースΔ》!」
お?全然魔力を使ってないみたいだ。これなら、何重にしても大丈夫かな。
「《レフォースΔ》《レフォースΔ》!」
とりあえず、三重。……っと、ヘイゼルが突っ込んできた。
「《冷蔵庫》!《形質変化》!」
俺は杖を剣に変化させ、カウンターを狙う。
「ふっ!」
ヘイゼルの袈裟斬りに対して、俺は居合斬りの構えを取り、剣を振るう。
「グぁぁぁ!」
剣と剣がぶつかった瞬間、ヘイゼルは飛んでいった。
「…………んんん?」
ちょっとよくわからないなあ。
『えーっと……藤野選手は何をしたのでしょうか?』
俺にもわからん。
『うむ、《レフォースΔ》を三重にもしたんだ、《レフォース》すら使っていないヘイゼル選手を飛ばすのも、簡単だろう』
『な、なるほど…………?』
ヘイゼルが立ち上がる。
「ぅぅぅ……《レフぉース》《れフォーす》……ぅう」
くるか?
「うぁっ!」
再び、ヘイゼルがまっすぐに突っ込んでくる。
「はあっ!」
俺もまた、突っ込んでいく。
真上からの斬り下げ。俺はそれに対して、少しかがみ、角度をつけて横薙ぎする。
「うっぁぁぁぁ」
あ、また飛んでった。
そこからは一方的だったが、どうしてもクビに剣を添えるところまではいかなかった。
「もう一個使えばいけるか?《レフォースΔ》」
もう決めようと思い、グッと踏み込む。
すると、ヘイゼルはガクッと膝をついた。
「はぁ……あぁ……」
かなり息が切れている。もう限界だったんだろう。
「えー……ヘイゼル=クランツ、戦闘不能!勝者、藤野 玄人!」
なんか、あっさり終わってしまった。
「うんうん!おつかれ、フジノ君!流石だね!」
「あ、ああ。ありがとう、ディアブル」
「ねえねえ、僕たちが戦うのは明日なんだよね!」
「ああ。今日はもう試合もないから、帰っていいって」
「うんうん!そっか!じゃあ、明日、楽しみにしてるね!うん!バイバイ!」
それだけ言うと、ディアブルは去っていった。
「……俺も帰るか」
そう思って、廊下を歩いていくと、前の方から、ジャックとキャルロットが歩いてくるのが見えた。
「おつかれーぃ!」
「おう」
ジャックとハイタッチ。
「お疲れ様!お茶飲む!」
「ああ、ありがとう」
キャルロットからお茶を貰う。
「やっぱり玄人は強いわね!」
「そうか?ありがと」
「てかお前、《レフォースΔ》なんていった使えるようになったんだよ!」
ジャックが背中をバンバン、と叩いてくる。
「い、痛い痛い……決勝前にディアブルが教えてくれた」
そう告げると、二人は立ち止まってしまった。
「どうした?」
「おいキャル。薄々気づいてたんだけどさ、玄人って、ヤバイやつか?」
「そうだと思うけど、教えるのが上手だったっていう可能性は?あのディアブルっていうひと、すっごい強かったじゃない?」
なんか二人が話してるな。
「おーい二人ともー!行かないのかー?」
「あ、ごめんごめん!今行くぜ!」
「ふー」
寮に帰ってきた。今日はキツかったの、一戦目だけだったなぁ。ヘイゼルとの試合は、すぐに終わったし。
「……暇だ」
日本にいた頃は、暇になったらゲームしたり本読んたりしたけど、こっちにはなさそうだもんな。ほんと、何しようか。
クエスト受けても、明日に響くだろうし……
「そうだ、ジャックの部屋に行ってみようかな」
そういえば、まだジャックの部屋に入ったことなかったよな。
「えーっと……ジャックの部屋ってどこだ?」
そもそも、俺ってジャック部屋知ってたっけ?
「……知らないな」
……うおー!暇だ!
と、ベッドの上でゴロゴロしていると、コンコン、とノックの音が聞こえた。
「はーい?」
誰だろうな、と思いながらドアを開けようとした。
そこで、日本にいた時、お母さんに言われたことをふと思い出した。なんか、まずどちら様か聞いてからドアを開けるんだって。そうすると、セールスとかだった時にドアを開けずに回避できるから、とか。
俺はそれに倣う。
「どちら様ですかー?」
「キャルロットでーす!」
なんだ、キャルロットか。
「おー、どうし……どうした?」
キャルロットの後ろには男子と女子が二人ずついた。
「私、この子達と一緒に試合見てたんだけど、玄人がすごいねーって話になって、『私、玄人と友達よー』って言ったら、みんなが玄人のこと知りたいって。それでいきなり来ちゃったけど、大丈夫?」
「あ、えっと、大丈夫だけど……とりあえず上がって?」
「「「「「おじゃましまーす」」」」」
「えっと……藤野 玄人です、よろしく」
こういう時に、最初に何をしたらいいか分からなかったので、自己紹介をしておく。
でも、四人は黙ったままだった。
……俺、なんか間違えたか?
「どーしたの?自己紹介したら?」
キャルロットがとなりの女の子を促す。
「は、はい!えっと……シュナ=メイクンです。よ、よろしくお願いします!」
ショートカットで、少し、背は小さい感じかな?座ってるから、あんまりわかんないけど。
「次は僕から。ゲイン=シャルクです。よろしく」
あ、メガネクイッだ。それも、中指で!本場のは違う……
「つつ、次は俺だな?く、クルガ=アルトです!よろしくお願いしますっ、兄貴!」
「え、まって?兄貴?」
「はい!兄貴!」
「……兄貴は、やめてもらえると嬉しいかなーって」
「じゃあ、なんて呼びましょう!?」
「うん、ふつうに玄人で。後、敬語もいらない」
「……よ、よろしくな!玄人」
「よろしく」
勢いのあるやつだ。
「最後、あたし?ミル=エンズだよ!よろしく!」
「よろしく。で、四人はどうしたの?」
「あ、それは私から説明するわね。えっと、男子二人は玄人の強さに興味もったみたい。シュナは、玄人のスキルを見てみたいって。ミルは、友達になりたいって」
「じゃあ、順番でいいかな?スキル見せるのが一番簡単そうだし、シュナさん最初でいい?」
「は、はい!よろしくお願いします!藤野君!」
なんか女子に藤野君って呼ばれるの久しぶりだなー。
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