20話 藤野 玄人、トーナメントしました。⑤
スキル《剣聖》を三重にかけた俺は、ヘイゼルに向かって地面を蹴る。そして次の瞬間、目の前にヘイゼル。
「ざぁっ!」
俺は横薙ぎを繰り出す。
「ふっ」
それ対して、袈裟斬り。
多分ヘイゼルの剣は、俺の剣とぶつかった瞬間に斬れ、それによって魔力がまたごっそり持ってかれる。となると、その影響がくる前に決めねえとな。
ガキンッ!……二振りの剣は、止まった。
「は……?くっそ、斬れねえのか……おらあっ!」
鍔迫り合いから、俺は思いっきり押して勢いをつける。だが、ヘイゼルは動かなかった。
「俺より力つええのかよ……らあっ!」
俺は全力で剣を振り抜く。
その瞬間、剣と剣が離れ、剣に体重をかけていた俺は、一気に姿勢を崩された。
「うおっ」
そして、上から剣が迫り来る。
「瞬撃ッ!」
俺は瞬撃の動きを利用してヘイゼルの奥へ飛び、剣を避ける。そこから、背中めがけ剣を振る。
「くらえっ!」
ヘイゼルは空中で回転し、俺の攻撃を避ける。今、空中にいるヘイゼルはおそらく無防備。
なら、チャンスはここしかねえ!
「スキルッ《インフィ・エヴィ・ファザム》!」
俺の周りに無限と思えるほどの剣が現れる。
「かませっ!」
命令すると、剣はヘイゼルへ向かって飛んでいく。
「なっ……」
だが、その全てをヘイゼルは悠然と斬り捨て、叩き落とす。
「……いけ」
「なんだって?」
ヘイゼルが何か呟いた。そして、その瞬間。
「えっ……くっそ……!」
全ての剣は、なぜだか俺めがけて飛んできた。それを避け、叩き落とす。だが、ヘイゼルのように全て処理できない。
なんでだ?俺、《剣聖》三重がけしてんだぞ?
……剣聖?
そこで俺は気づいた。このまま剣に対して剣で対抗しては、いずれ《剣聖》によって魔力が尽きる。いや、もう尽きかけているだろう。
「でもよお……っ!くっ!どうしろっていうんだ!」
俺は三回に一度程攻撃をくらってしまう。一応、避けようとはしているから、傷が深い、ということはない。
「マジで……ふっ!…どうすんだよ!……」
こうも手数が多いと、圧倒的にこっちが不利だ。まずは、これをどうにかしなければ……そうだ。
「やっぱ、目には目を、歯には歯を、だなっ!《インフィ・エヴィ・ファザム》!」
再び、俺の周りに多くの剣が現れる。
「頼むぜ!」
俺は剣にそう命令する。すると、剣は一対一で戦い始めた。その中で、自然と道が開いていく。その先に、ヘイゼル。
「みっけた!……容赦しねえぞ!俺流ッ、瞬撃!」
俺はヘイゼルとの距離を一気に詰める。そして、通り過ぎる。そうして、何度もそれを繰り返すことでヘイゼルの視界から外れることができるだろう。
ーーここだっ!
俺は、完全に背後を取った。そこで、さらに加速する。
「オラアアァァァッ!」
全力で、思いっきり、剣を振り抜く。
チェックメイトだ。目の前が、赤く染まる。
ま、背中を切られても、回復薬みたいな人いるし即死しないから大丈夫だろう。失格にはならないはずだ。
俺は目を閉じる。勝利宣言を待つ。
だが、いつまで待っても声が聞こえてこない。俺は少し怖くなって、目を開ける。
「……は?」
やられていたのは、俺の方だった。
腹の右辺りに、ヘイゼルの剣が刺さっている。
「ぐはあっ」
口から、血。そのまま、体から力が抜けていく。
「嘘だ、ろ……」
ヘイゼルは、俺から剣を抜き……大きく振りかぶる。そして、振り下ろされた。
やっぱり……殺す、つもりだったのか……あの、殺気は……
俺はまた、目をつぶった。でも、さっきとは違う。これは、負けだ。
「……終わりだ」
ああ、死ぬんだな……
「待ちたまえ。ヘイゼル、もう勝負はついた」
そこにいたのは、実況解説をしていた……校長、だったか?
「邪魔だ」
「おーおー、私に向かって邪魔とは……」
直後、閃光。
そこで、俺の意識は途絶えた。
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