19話 藤野 玄人、トーナメントしました。④
〜ジャック=ラティリー視点〜
「よし、じゃーいってくるわ」
「おう、頑張れ」
おーし、頑張るか。玄人と当たるまでは負けらんねえしな。
俺はそんなことを考えながら、場内へ歩いていく。
「第21試合目、ジャック=ラティリー対ヘイゼル=クランツの試合を始めます」
ヘイゼル=クランツ。こいつは俺と同じで王国軍所属だ。
「よっ、ヘイゼル」
「やあ、ジャック」
それだけ、言う。すると、ヘイゼルの目の色が変わった、気がした。
「……なるほどな」
「では……第21試合目、始めっ!」
「《レフォースα》《レフォースα》《レフォースα》」
俺はすぐに三重がけして、後ろに飛び退く。その理由は単純明快。ヘイゼルがおかしいくらいに強いから。一度距離を取ることによって、攻撃を視認してカウンターが……
「あっぶ……ねぇ」
なんとか、剣を避けることができた。でも、それだけ。カウンターとか言ってられないくらいに速い。
俺はすぐにレンク・エヴィを抜く。
「スキル《剣聖》」
これは、攻撃するためじゃない。見て、避けるためだ。
「そのスキルか。……なら」
ヘイゼルはもう一本、剣を抜いた。おそらく、手数で攻めてくるんだろう。
「ふっ」
ヘイゼルが地面を蹴ったその瞬間、俺は脚が竦むほどの殺意を感じ、本能的にその場所から飛び退く。
これは……まずいっ!
俺はまたも本能的に感じた。1秒たりとも目を離してはいけない。他の音を聞いてはいけない。それをした瞬間、斬り捨てられる、と。
「はあっ!」
ヘイゼルの剣が俺の頭めがけて振り下ろされた。
迫り来る剣が、二振り。それに対して、俺の持っている剣は、一振り。どう防いでも、一撃はもらうだろう。ーーじゃ、防がなきゃいいんじゃねえ?
「そうと決まれば……突撃だあ!」
ヘイゼルの頭に向けて、刺突する。すると、ヘイゼルは避けるように頭を右にずらして、二振りの剣は俺の剣を挟むようにして交差した。それによって俺の剣は左にずれ、肩を刺す。
その直後、衝撃。
「ぐはっ」
俺は、腹を蹴られてふっ飛んだ。
回転している中で、上手く腕を伸ばして地面につき、ヘイゼルの方をむいて、なんとか倒れずに姿勢を保つ。
そしてその時には、目の前に剣。俺は上体をそらし、回避して、横薙ぎにされた剣を叩き、飛ばす。すると、もう一振りの剣が俺の左肩辺りから鮮血を飛ばす。
「ぐっ」
ヘイゼルは、振った剣の勢いをそのままに、上から斬りつけてくる。俺は後ろに飛び、それを避ける。
そして、対面。俺とヘイゼルの視線がぶつかる。
先手必勝だな。
「俺流ッ、瞬っ……撃!」
ヘイゼルが目の前まで近づく。そして、俺は真横に飛ばされた。俺はそのまま4分の1回転し、ヘイゼルの方を……
「ほあっ」
横薙ぎが繰り出された。
俺は回転した時に上にいってしまった右手を下向きにし、その攻撃を受ける。
だが、手を逆さにしては上手く防御できるはずもなく。
「がぁっ」
腹を斬られてしまう。幸い、傷は浅い。
俺はまた、後ろに飛び退く。
『ジャック選手、先程一度刺突した以外、攻撃出来ていませんね』
『ああ。二人の技量の差が大きいんだろうな。多少なら、瞬発力や発想でカバーできる。だが、ここまでだとそれも厳しいだろう』
『なるほど。ちなみに、ジャック選手はレベル28、ヘイゼル選手はレベルは33です』
レベル差は5か……。
そう考えていると、またも攻撃される。それを避けて、また攻撃されて……ずっと繰り返した。
俺にはわかったことがある。ヘイゼルは、俺に明確な殺意を持っている。さっき本能だけで悟ったが、もうここまでくればバカな俺でもわかるさ。
このままだと、体力が尽きて、斬られるかもしんねえな……やって、みるか。
「スキル《剣聖》《剣聖》《剣聖》っ!」
やっべえ。魔力が無くなってきたな。一気に行くか。
さぁ。
「本番はこっからだぜ?ヘイゼル」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
遅れました。