16話 藤野 玄人、トーナメントしました。①
翌日。
「女神様、今日もお見守りください」
お祈りしないと女神様に怒られるので、忘れずにお祈りしておく。
そういえば、杖。まだ見てなかったな。
俺はそう思って《情報視認α》をはつどうする。
『アーク・グリアー・エスピリット
ランク:S
《スキル》
【自動発動】
《魔力回復:中》
《魔力増強》
《水魔法強化》
《氷魔法強化》
【任意発動】
《形質変化》
《アイスヴァルエ》』
「え、つよつよだな」
試合中にどんな使い方をするかも考えないとな。
「よし、行くか……!」
ちなみに、服は指定のものを着ていて、長袖長ズボン。通気性の良いものだ。
俺は玄関を出て校舎に向かっていく。今日は、トーナメントの日だからだ。
俺は今、学校の敷地内の寮に住んでるから、校舎まですぐに着く。
「……お、こっちか」
エントランスの前に看板があり、そこにトーナメント会場の方向が記されていた。
「あー緊張するなあ」
俺が会場へ向かっていると、後ろから、そんな声が聞こえてきた。でも、緊張している人の声じゃない。俺は気になって、振り向いた。
「よっ、玄人」
そこにいたのは、ジャックだった。
「おはよう、ジャック。なんでここにいるんだ?」
ジャックはもう学校の生徒だったはずだ。
「あれ、言ってなかったっけか?在校生も出れて、好成績を残すと、点がつくんだ。そうすると、テストの点が悪くても安心だろ?」
なるほど。在校生も出れるのか。
「というかさ、テストで悪い点を取らないっていう選択肢はないのか?」
「無理ね」
ジャックがいるのとは別の方向から返事が来た。即答だった。
「おはよう、玄人」
「おはよう、キャルロット。ジャックはそんなに頭が弱いのか?」
「自慢じゃねえが、順位は下から数えた方が早えぞ」
胸を張って言われた。自慢してるつもりなんだな。
「そうだな、自慢じゃない」
「そうね」
「ぐっ」
「で、キャルロットもトーナメントに出るのか?」
「出ないわよ。私、成績はいいの」
「なるほどな」
「って、急がなくていいの?玄人。始まっちゃうわよ?」
ほんとだ。
「じゃあ、行こうぜ!玄人」
「おう」
「二人とも頑張ってねー」
キャルロットに見送られながら、俺たちは会場へ向かった。
「宣誓。これより、ロヴィル王都学院編入トーナメントを開催する」
今、開会式が行われている。話しているのは、誰だろう。最初の話を聞いてなかったから、全くわからん。
「次に、くじを引いて、対戦相手を決定していただきます。皆さん、前はどうぞ」
全員が順番に引いていく。
「このようになりました」
大きなモニターに表が表示された。
いきなり俺からかよ。
「第1試合を行います。藤野 玄人選手、アド=ログラ選手は場内へ、それ以外の選手は控え室へお願いします」
全員が移動を始める。
「では、最初にルール確認から。
勝利条件は、相手を行動不能にする、仮に動いた場合にすぐに命を取られる。この二つとなります。後者は、例えば首に刀を突きつけられている状態だったり、周りに魔法が展開されている状態です。そして、殺害した場合は、退場及び警察官によって連行されますので、お気をつけください」
おっけ、分かった。
「では、始めます。両選手、前へ!」
そして、沈黙。
「………始めっ!」
「スキル《冷蔵庫》!来いっ、『アーク・グリアー・エスピリット』!」
「スキル、《レフォース》《レフォース》《レフォース》!」
アド選手は、《レフォース》三重に唱えた。え、三重?今流行ってんのか?そういうの。
「いくぞっ!」
でも、遅いな。これならノーマルゴブリンの方が速かった。
…と、実況が聞こえてくる。
『さあ始まりました第1試合、藤野 玄人選手対アド=ログラ選手です!……藤野 選手はレベル20、アド選手もレベル20ということです。同じレベルなので、いい戦いが見れることでしょう。ね?校長』
どうやら、解説席には二人いるようだ。
『そうだな。いや、藤野選手のデータが少ない。彼は未知数だ。今は見るなら彼中心だろうな』
その声は、女性のものだった。校長は女性なのか。ていうか、俺見られてるのか。
「よそ見するなっ!」
アド選手が腰から剣を抜いて斬りかかってくる。
「《形質変化》」
俺はその攻撃を、杖を剣に変えて軽くいなす。そして、カウンター。
「くっ!」
俺のカウンターは躱される。レベルが同じだから、俺程度の攻撃は避けられるんだろうな。
とはいえ、俺もレベルが上がって《冷蔵庫》を前より上手く使えるようになった。
「《形質変化》」
俺は剣を銃に変え、そこに《冷蔵庫》を二つ展開する。
そして、撃つ。
バ、バン。一気に二発放たれる。
「なっ」
二つの氷は、彼の剣を折る。貫通する。
「うっ……くっそ!」
アド選手は逆側に挿してあったもう一本の剣を抜いた。
「スキルッ、《剣士》!」
彼は一気に距離を詰めてくる。さっきよりも速い。ノーマルゴブリンほどだ。これならまだ反応できるな。
ただ、さっきのようにいなして、カウンターを楽に叩き込めるほどではない。
「《形質変化》!ふっ!」
鍔迫り合い。俺と彼の視線が交わる。ぶつかる。
「ここで決めるっ!《剣士》《剣士》《剣士》!」
そんなに魔力を使って大丈夫だろうか。
『校長、彼はあんなに魔力を使っていいのでしょうか?』
実況の人も俺と同じことを考えているみたいだ。
『そうだな。あれほど頻繁に《形質変化》を使えば、彼の魔力は残り半分、といったところか。よっぽど魔力に自信があるんだろうが……優勝は、もうこの時点で難しいかもしれんな」
え、俺?
『反対に、アド選手は《剣士》の重ねがけで魔力を節約している。そして、二人とも魔法を使っていない。アド選手は次の試合に備えて魔力を残している感じだろうな。逆に、藤野選手はとりあえずこの試合に勝とう、という感じで、もうすぐ魔法を行使してくるんじゃないだろうか』
『な、なるほど』
いや、使わんが。
「そこっ!」
は、速いっ!
「《形質変化》!」
俺は剣から盾に変え、なんとかその攻撃を防ぐ。
「はあっ!」
そして、そのまま盾を押し付ける。
「《形質変化》!」
「ぐあっ!」
俺は盾の角を剣に変え、アド選手の肩に刺す。
彼は剣を落とした。
「くっ……」
「《形質変化》」
俺は盾を剣に戻し、彼の首に突きつける。
「……ま、負けました」
こうして、俺は無事、一回戦を突破した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
三連休、頑張るかもしれません。