15話 藤野 玄人、レベル上げしました。
俺は今、精霊水で凍らせた杖を持ってキャルロットとジャックと共に草原に来ている。
「玄人、行ったわよ!」
「おっけ、任せろ!」
キャルロットがおびき寄せたスライムを、俺は小さい氷の球で倒す。
「ナイスだ玄人!」
でかいモンスターが来ないか周囲を見張っているジャックの声。
今は三人でレベル上げの最中だ。
「ジャックーー、おっきいモンスターは来てないかしら?」
「んー、来てないな。見えるのはスライムばっかりだ」
スライムは貰える経験値が低いみたいだし、スライムばっかり狩ってても効率が悪いだろうな……
「なあ、どっかにもうちょっと効率のいい所ないかな?」
「そうね……もうちょっと東に進むといい感じのところがあるわよ」
「じゃあそこに行こう」
「いや、気持ち悪いな」
「そ、そうだな……」
俺たちが移動した先にいたのは、でかいアリのモンスターだった。
「でも、身体は柔らかそうだし、倒しやすいと思うわ」
とのことなので、やってみる。
「スキル《形質変化》」
俺は手に持っていた杖を銃の形に変化させる。そして、その中に《冷蔵庫》を展開して、氷と水が放てる銃の完成だ。
この機構は、俺が考えたものだ。まず、《冷蔵庫》をかなり小さくする必要がある。それは、案外簡単にできた。三つの指輪のおかげだったりするのだろうか。次に、《冷蔵庫》から氷や水を放出する。それが弾丸となり、銃によって凄まじい回転がかけられて飛んで行く。
別にそれ、ふつうに《冷蔵庫》から出せば?と言われるかもしれないが、今の俺だと、回転を一定にかけ続けるとかいう芸当はできない。
「いけっ!」
俺が魔力を込めると、氷が放たれる。なぜか最初に放った時にコツが分かったので、簡単に撃つことができるようになった。
バシュッ、と音が鳴って銃口から弾丸が出た次の瞬間、アリを三体貫通していた。
「「「…………………」」」
沈黙。モンスターすら黙っている。
そこで俺は一言。
「い、いよっしゃ、次だ次!」
俺は狂ったように銃を撃ちまくる。バシュッ、バシュッと音がなるたび、アリの悲鳴が聞こえる。
「なあキャル、これ、俺たち必要なくないか?」
「そ、そんなことないと思う……わよ?ほら、玄人が魔力切れを起こしたら私たちが助けないと!ね?」
「そ、そうだな!俺たち必要だな!」
何やら二人が言い合っていた。話の内容からすると、俺が強すぎる、と。
「ま、転生してきたしな」
俺は小声で呟いた。
大体の転生者は強いと相場は決まっている。でも、俺は負けた。死にかけた。だから今こうしてレベル上げに励んでいるわけだ。
「二人も頑張れよ!」
「そうだ!俺も負けてらんねえ!」
そういうと、ジャックも俺の隣に並んでアリの討伐を始めた。
「あ、ちょっと、ずるいわよ!私も!」
三人でやることになった。こういうの、何だか楽しいなあ。
俺たちが一時間ほどレベル上げを続けていると、ジャックがふと話しかけてきた。
「なあ玄人、なんかすげえ揺れてねえ?……おい、あれ見ろ」
ジャックが森の奥を指差す。
「なんだ?」「なによ?」
そこにいたのはーー
「は?」「でかいわね……」
ふつうの五倍はくだらない大きさの、めっちゃでかいアリがいた。
ん?んんんん?ナニアレスゴイネ。
「どうするの…?」
「まあ、玄人のあれ、バンってやりゃ一発だろ!いけぇ!玄人!」
あれとは、銃の事だろう。
「分かった、やってみる」
俺は銃に魔力を込めるーーバシュッ。
…………ペコッ。
「クアアア?」
「「「はああああ?」」」
三人の、いや、三人と一匹の声が重なる。その球は、たしかに速かった。何であろうと撃ち抜けそうなほどに。だが、巨大なアリは無傷。
「よし、逃げよう」
「そうだな」
「そうなるわよね」
だが、簡単に逃がしてくれるだろうか。
「クアアアアアアア」
「うおっ!」
逃がしてくれませんでした。なんか飛んできました。
「まあ、勝てるか」
ジャックがいきなりそんなことを言いはじめる。
「ほんとに言ってるのか?」
「いや、そのためにレベル上げしたんじゃねえか」
「「あっ」」
「はぁ……二人ともアレだな、俺よりもバカだ」
「「いや、それはない(ないわね)」」
「さいですか」
「ま、ジャックがいうなら行けるか。んじゃ、前方三方向に展開からの潰せばいいかな?」
「おっけ」「いいわよ」
二人が答える。
「いくぞっ!」
その瞬間、三人とも飛び出す。
「スキル《形質変化》!」
俺の銃が剣に変化する。
この剣のギミックは、こうだ。
敵を斬ると、その瞬間、剣筋が氷となって現れる。そしてその氷はどんどん大きくなっていき、相手を行動不能にする。そして、精霊水で杖を凍らせたからか、凍らせた相手の魔力をどんどん吸っていく。ここが強いところだ。
そして、その剣で一閃……すると。
「あれ?」
気づいたら、巨大なアリは俺とジャックによって四つの塊に分かれ、キャルロットはそれを殴り飛ばしていた。
「……強くなった」
「あ、うん」「んんん、そうみたい……」
ボクタチ、コンワク。
銃で撃っても効かなかったのに、なぜ剣で通用するのだろうか。後で調べないとだな。
結局、一週間狩り続けて、最終レベルは20だった。後半から、全くレベルが上がらなくなってしまって、少し困った。
二人にもいくつレベルが上がったか聞いたけど、なんか教えてくれなかった。
「じゃあ、明日のトーナメント頑張ってね!」
「負けんなよ!」
「おう、ありがとう」
そう、明日は本番だ。
「頑張らなくっちゃな」
そして、俺はベッドに入ってからきづいた。
「お祈り、まだ一回もしてなかった……」
忘れないうちに、しておく。
「んー、なんて言ったらいいんだろ……あ。
女神様、今日も一日ありがとうございました。明日もお見守りください」
これでよし。声とか、よくあるやつは聞こえないな。
「じゃ、寝るか」
ここまで読んでいただきありがとうございます。




