11話 藤野 玄人、クエストしました。 ⑦
俺は、2人の方へ駆け寄る。
「どうした!大丈夫か!?」
「や、やー…ちょっと、強くて、な…」
ジャックは立ち上がれない。
見ると、二体のジェネラル・ゴブリンが迫ってきている。
「ね、ねえ…玄人、あなた、あれ…倒せる?」
「いや、無理だな」
俺は、冷や汗を流しながら言う。
「ど、どうすんだよ…」
「やってみようか」
俺がそう告げると、
「き、期待…してるわ」
「おい…玄人…これ、貸してやる…壊すなよ…」
俺は、ジャックから一本の剣を受け取った。それを、《情報視認α》で見る。
『レンク・エヴィ
ランク:??
《スキル》
【自動発動】
《魔力増強》
《鋭化:超》
【任意発動】
《剣聖》
《インフィ・エヴィ・ファザム》』
剣聖…か。剣豪の上のスキルだろうか。
俺は冷凍庫にその剣を入れ、精霊水で作った氷で凍らせて、即座に取り出す。そして、それを見る。
『レンク・エヴィ・エィジット
ランク:??
《スキル》
【自動発動】
《鋭化:超》
《魔力回復:中》
《魔力増強》
【任意発動】
《剣聖》
《インフィ・エヴィ・ファザム》
《アイス・レイム》』
やっぱり、増えてるな。
「じゃ、できるだけやってくる」
俺は2人にそう伝えて、駆け出した。
「「グルオォォォォ!!」」
二体のジェネラル・ゴブリンが俺の方へと向かってくる。
「スキル《剣聖》」
魔力が抜けていくのがわかるが、まだいけそうだ。多分、レベルがいくつも上がったからだろう。
「はあっ!」
「グルオォォ!」
恐らく、見えないほどの速さだっただろう。それでも、今目の前にいるジェネラル・ゴブリンは、反応した。手に持っていた剣を、振った。
俺はすぐに後退し、もう一体のジェネラル・ゴブリンを攻撃する。
「ふっ!」
「グォォォォ!」
俺が剣を振った瞬間、氷の壁が現れる。だが、その壁はいとも容易く切れた。
「がっ…」
切ったのと同時に、俺の口から血が出る。剣との相性が悪いのか、剣が強くて魔力の消費が早いだけなのか…
剣は勢いを削らずに振るわれる。そしてーー
「グオアァァァァァァァァァ!!!」
ジェネラル・ゴブリンの腹を斬った。
「グルァァァ!!」
後ろから、もう一体のジェネラル・ゴブリンが火魔法を放ってきた。
「うおっ……」
俺は急いで剣を抜き、その魔法を回避する。
『アイスゴブリン・ジェネラルを倒しました。
レベルが上がりました』
斬ったジェネラル・ゴブリンの方を見ると……
「「「グギャッ!」」」
すぐ無数のアイスゴブリンがいた。
「……は?」
俺はすぐにやるべきことを理解した。まず、敵が増えたからキャルロットとジャックを守らなければ。さっきまでなら、大きいやつ二体だけだったから、俺を狙わなくなればすぐに気づいた。でも、小さいやつだと、すぐには気づかないだろう。
「ふっ!」
俺は全力で地面を蹴り、着地せずに二人を掴んで木の陰に隠す。すると、ジャックが口を開いた。
「く、玄人。《インフィ・エヴィ・ファザム》。あれ、強いぜ。死ぬくらいに、魔力持ってかれるけどな」
「分かった、ありがとう」
俺はすぐにゴブリン達の方へ戻る。そして、ジャックに言われたスキルを使う。
「スキル《インフィ・エヴィ・ファザム》」
すると、一瞬で魔力が奪われ、周りに無限にも思えるほどの剣が出現した。
「はぁ…はぁ…………いけ」
俺が命令すると、剣が飛んでいく。その剣はゴブリン達を斬り刻んでいく。が、ジェネラル・ゴブリンにはあまりダメージが入っていない。
「おい…あんま強くないぞ…ジャック…」
次の魔法を使おうにも、魔力が少ない。どうするか…
「グォォォォ」
見ると、ジェネラル・ゴブリンの前では、一抱えはある、火球がどんどん膨らんでいる。
「おいおい…ここは森だぞ……?」
これは…もう、魔力の回復を待っていられない。これを使ってみるか。
「スキル《アイス・レイム》!」
そのスキルは、そこまで魔力を使うものじゃなかった。俺の左手にレンク・エヴィ・エィジットそっくりの氷の剣が出現しただけ。
俺はその剣を《情報視認α》で見てみる。
『グレイ・エヴィ・エィジット
ランク:??
《スキル》
【任意発動】
《アブソリュート・クライシス》』
いや、絶対危機って…いっそ殺してやれよ。ま、いいか。燃費良さそうだし、使ってみよう。
「スキル《アブソリュート・クライシス》!」
すると、心臓がどくん、と大きく鼓動した。そして、次の瞬間…
「がっ……はあ……」
「グォォォォ……」
俺とジェネラル・ゴブリンが同時に血を吐いた。
「危機って…そういうことかよ……本当に、危機だぞ……?」
つまり、一発入れれば勝ち、か?そうなれば、こっちの方が有利だな。《剣聖》の効果が残っているはずだ。
「うっ…だぁ!」
俺は体の痛みを無視して、走り出す。
「グルォォォ!」
ジェネラル・ゴブリンは火魔法を放ってきた。
俺は前に滑り込んでその魔法を避ける。そして、その勢いで懐に入り込み、剣を振るう。
「はぁっ!」
「グルァァァ」
ジェネラル・ゴブリンは俺の剣を上から叩くように剣を振るってくる。
ーーまずい。
俺の剣がジェネラル・ゴブリンの剣と触れる。そして、俺の剣は、すっ、と振られた。
腕と剣の先が飛んでいく。それと同時に、俺は血を吐き、地面に倒れる。
見れば、ジェネラル・ゴブリンは腕を抑え、しゃがみこんでいる。だが、俺がもう戦闘不能であることを知れば、すぐに俺にとどめをさすだろう……あ、目があった。ああ、終わったな。
ていうか、もともと不公平だったのだ。ジェネラル・ゴブリンは、俺の攻撃を受けても動けていれば勝ち。つまり、首と心臓辺りだけを守っておけばよかった。
では、俺はどうだろうか。攻撃を当てられても負け、一撃で倒さなければ負けという条件だ。そりゃ、勝てないか。
「グルオォォォォ!!」と、雄叫びが聞こえる。
俺は剣を握ろうとするが、全く力が入らない。
俺は自発的に意識を手放そうとして、目を瞑った。
だが、その時。ふと、声が聞こえた。
「ごめんなさいね?私、この子に死なれたら困るの。だから今回は見逃してあげて?……退かないのね?じゃあ…………死ねばいいわ」
そこで俺の意識は途絶えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
なんだか水を千倍に薄めたくらいの濃度になってしまいました。