10話 藤野 玄人、クエストしました。⑥
〜藤野 玄人視点〜
「「ギャッ!」」
ノーマルゴブリンが突っ込んでくる。速い。でも、なんとか反応できる。レベルがあがったおかげか、指輪のおかげか。
「ふっ!」
俺は、刃を飛ばす。
「ギャッ!」
一体目。
「「グギャッ!」」
くそ、二体同時か!ファイアゴブリンとアイスゴブリンだ。
前方から、二つの魔法が同時に放たれる。速度が尋常じゃない。
「ぐっ!」
《冷蔵庫》を発動できなかった。俺はなんとか精霊槍で受け止める。
「「ギャッ!」」
ゴブリンは魔法を増やし、連発してくる。
「スキル《冷蔵庫》っ!」
今度は、《冷蔵庫》に取り込む。
「そこっ!」
俺は突っ込み、横薙ぎする。
「グルオォォォォ」
だが、氷の壁によって阻まれた。
「くっ」
「「ギャッ」」
今度は、横から魔法を撃たれる。
「《冷蔵庫》っ!」
だが、撃たれたのは、二発。一つの《冷蔵庫》だけでは、カバーできない。火魔法を、おもいっきり喰らってしまった。
「ぐっ!」
「「ギャッ」」
そこへ、追い討ちがかけられる。
「くっそ、《アイスミット》!」
「「ギャッ」」
なんとか退けた。だが、倒したわけではない。さて、どうするか…
「ギャッ」
「くっ」
ノーマルゴブリンだ。見えるが、今の状況だと、反撃するのは危険だ。別方向から魔法を喰らってしまう。
俺は、どんどん追い詰められる。
「《アイスミット》!」
ダメだ。めまいがひどいな。魔力回復が追いついていない。
「《冷蔵庫》!精霊水!」
俺は、ペットボトルを取り出し、精霊水を飲み干す。これでなんとか、まだ戦えそうだ。
だが、その隙に攻撃をくらいそうになる。
「だっ!」
ペットボトルを投げ、攻撃を妨げる。
「ギャッ」
怯んだ!
「そこだっ!」
俺は冷凍庫から短剣を取り出す。
「ハアッ!」
そして、再び出現した氷の壁を砕き、精霊槍を突き出す。
「ギャッ!」
ノーマルゴブリンは短剣を取り出して俺の攻撃に対応してくる。だが、俺の方が力が強い。
「だあっ!」
「ギャッ」
ノーマルゴブリンは、粒になって消えていった。
「ギャッ」
そして、別のゴブリンが現れる。
これじゃあ埒が明かない!
「はああぁぁぁ!」
俺は全力で精霊槍に魔力を込める。
「スキルッ!《アイスミット》ッッッ!」
多数の氷の山が地面から扇形に出現する。そして、その氷は、ゴブリン達を貫いていく。
「はあ…はあ…」
なんとか一掃できた。
『レベルが上がりました』
それでも、次から次へと湧くように出てくる。俺は、そいつらを《情報視認α》で確認する。
『ノーマルゴブリン Lv5
アイスゴブリン Lv6
ファイアゴブリン Lv5』
レベルは俺以下だ。でも、多数対一。これだと、勝てるかどうか…
「「「グギャッ!」」」
ゴブリン達が一斉に襲ってくる。
「だあっ!」
俺は、精霊槍で大きく横薙ぎし、刃を飛ばす。ゴブリン達は、それを知っていたかのように左右二方向に展開する。
挟まれた…と。
カシャン、と音がした。俺は、その方向に目を向ける。音の正体は、さっきジャックが使っていた剣だった。
「ふっ!」
俺は剣の方へ飛び込み、その剣を確保する。そして、冷凍庫に入れ、急速に温度を下げて精霊水で凍らせる。
「来いっ!」
俺は、凍らせた剣を取り出す。すると、俺の体から恐ろしいほどの魔力がぬけていく。
「ぐっ…《情報視認a》」
俺は、精霊槍でなんとかゴブリン達の攻撃をいなしながら、剣のステータスを確認する。
『ラ・ミット・ターナ
ランク:A
《スキル》
【自動発動】
《鋭化:超》
【任意発動】
《剣豪》』
今俺は、魔力切れを起こしかけている。でも、こいつらを倒せばレベルが上がって回復できるだろう。なら、やるしかないよな。
「スキルッ《剣豪》!」
その瞬間、俺の集中力が研ぎ澄まされた。その集中力を最大限に発揮するために、俺は精霊槍をしまう。
俺は、大地を蹴った。
「ギャッ!?」
いつのまにか、目の前にはノーマルゴブリン。あ、そうか。今斬ればいいのか。
俺は一瞬でそう理解し、剣を振るう。そして、次のゴブリンへ向かう。
「ふっ」「っと」「そっ」
俺は、考えずに剣をふるった。そして、五秒ほどだった時、いきなり、強いめまいが体を襲ってきた。
「ぐっ…」
どうやら、このスキルは、斬れば斬るほど魔力を使うらしい。でも、もう少しでレベルが上がるはずだ。
俺は、力を振り絞ってゴブリンを斬りにいく。やっぱり、さっきより遅い。でも、気にしてられないな。
「はあっ!」
「ギャッ」
『レベルが上がりました』
俺のめまいと体力が回復する。これならいけそうだな。
俺が辺りを確認すると、数体しかゴブリンはいなかった。俺は何十体も倒したわけじゃないから、2人がやってくれたんだろう。それじゃあ、俺も残り数体、がんばるか。
俺が踏み込むと、ゴブリンはやっぱり目の前。でも、レベルが上がった直後だと、こっちの方がはやいな。
「ふっ」
俺はゴブリンを一閃し、また踏み込む。それを数回すると、辺りのゴブリンはいなくなっていた。
「ふぅ…」
残りは、ジェネラル・ゴブリンだけか。
俺が向かおうとした瞬間、バキッ、と音がなり、ラ・ミット・ターナは壊れてしまった。
「えっ……どうしよう」
これは、精霊槍を使うしかないか。
「スキル《冷蔵庫》。来い、精霊槍」
なんだか、こっちの方が馴染んでる気がするな。やっぱり、使いやすいのだろうか。
「さあ、行くか」
俺が視線を向けると、2人も終わったようだ。
「なあ、俺の剣知らね?」
あ。
「悪い、壊した」
「ばかやろ!後で飯おごれよ!」
「ごめんって。てか、そんな金ないよ」
「ちょっと2人とも?緊張感ないわね?」
「本当にな!」
俺は笑いながら言った。
「「「グルオォォォォ!!!」」」
「なあ、あいつらは俺たちが戦ってる間って、何してたんだ?」
「あー、なんか、ゴブリンを生み出してたみてえだぜ?」
「じゃあ、早めに終わらせないとな!」
そう言って、俺は駆け出した。もう、辺りは真っ暗だ。
3人いるから、一対一だろう。俺は、真ん中のノーマルゴブリン・ジェネラルかな。
「スキルッ《アイスミット》《アイスミット》!」
俺がスキルを使った瞬間、ゴブリン・ジェネラルは俺の視界から姿を消した。
「…は?ーーぐあっ!」
背中を蹴られたのだろうか。いきなり、衝撃が走った。
目を開けると、そこには剣を振り上げた、ジェネラル・ゴブリン。
まずいっ!
俺は咄嗟に横に転がって回避し、すぐに立ってスキルを発動する。
「《アイスミット》!」
「グオオオオオオオオ!」
地面に剣が刺さり、動かないようで、バッチリ入った…が。
「グルオォォォォ」
体は少ししか傷ついていなかった。
ジェネラル・ゴブリンは、傷を気にすることなく、こっちに向かってきた。
俺が迎え撃とうとしたその瞬間。
「な、なんだ?」
体が急に重くなった。なんでだ?
「…そうか、キャルロットの魔法が切れたのか!まずい!」
俺はそのまま、ジェネラル・ゴブリンの攻撃を受ける。
すると、バキッ、と音を立てて、精霊槍が折れた。
「なっ…くっ!」
俺は大きく後ろに飛び退く。
「スキル《冷蔵庫》」
俺は《冷蔵庫》に精霊槍をしまって、短剣を取り出す。
でも、これでどうしろって言うんだよ!
「グオオオオオオ」
「くっそ!」
このままでは、逃げることしかできない。
「なにか、手は無いのか?」
だが、回避に精一杯で頭が回らない。
一旦落ち着くために、木に隠れる…よし、上手くいった。
「考えろ……何か…………」
そこで、俺は思い出した。
「確か、魔力で操作できるんだったか……?」
やってみるしか無い。一度、試しに…
「グルオォォォォ!!」
やばい、見つかった!
「くっ!」
俺はなんとか回避して、起き上がる。
「ぶっつけ本番かよ…スキル《冷蔵庫》」
さあ、どんな風にしたらいいのか…精霊槍に魔力を流すのと同じようにやってみるか。
「グオオオオオオオオ!」
「ふっ」
また、剣が地面に刺さる。
(イメージは…隕石だろうか…なら、斜め上に《冷蔵庫》を出して…)
そう考えた瞬間。
「ぐっ!」
体から魔力が抜けていく。そして、それと同時に、もう一つ、《冷蔵庫》が出現した。
「ふ、二つ目…?」
(いや、考えている暇は無い。さあ、魔力を流せ…)
自分の魔力が、《冷蔵庫》の中で球形になっていくのがわかる。
「もっと…もっとだ……」
めまいがする。気持ちが悪い。それでも、魔力を流し続ける。
すると、《冷蔵庫》のドアが開き、その中から、大きな球が見える。
ジェネラル・ゴブリンはその危険性を感じ取ったのか、剣を前に構えている。
「その剣で斬るつもりか。なら、勝負だ!」
勝てるかはわからない。でも、最後はカッコよく決めたいな。なんてことを考えれるのは、《好奇心》のおかげだろうか。それとも、ただの好奇心か。
「いっっっけぇぇぇ!レデスプ・グレイル!!」
「グルオォォォォォォォォォォォォ!!!」
どうだ?かっこいいだろ、この名前!厨二感満載だ!
そして、二つがぶつかった瞬間。
パンッッッ!!
俺は反射的に目を瞑ってしまった。そして、恐る恐る目を開けると……
「俺の勝ち、だな!」
そこには、潰れたジェネラル・ゴブリン。それはすぐに、粒になって消えていった。
『ジェネラル・ゴブリンを倒しました。
レベルが上がりました。レベルが上がりました……』
「おいおい、いくつ上がるんだよ…」
7レベルも上がった。
「さて、あいつらは終わったかな?」
みると…
「「はぁ…はぁ…」」
そこには、ボロボロになった2人が立っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。