8話 治療
「疲れたぁ」
「おつかれ、凪。」
火の気が残る地帯からノームをやっとのことで運び出すことに成功し、安全な場所にそっと横にする。ノームの体重は体感で80から90ぐらいのずっしりしたものであったからとても疲れて、俺とカイも草の上に倒れ込んで休憩する。
それに合わせて芽依は元にいた世界から持ってきた消毒液や包帯を鞄から取り出した。芽依の鞄の中には、それらの治療品を始め、マスクや懐中電灯など困ったときのお助け道具がビッシリと詰め込まれている。
ほんと、用意周到だな。
俺1人だったら絶対持ってきてなかっただろうな、うん。
そう俺は芽依に感心していたが、ノームを見守る彼女は口を挟んでくる。
「待ちなさい、ノーム様に何怪しい液体をかけようとしてるのよ!」
まぁ、そうなるよな。
「これは消毒液だから安心して。これを患部に塗るとばい菌とかが入るのを防げるの。」
徐々にこの少女の気性に慣れてきて、3人とも上手くなだめられるようになってきていた。
消毒液をかけると、ノームは意識がないながらも「うぐっ」と僅かな悲痛の声を上げ、それを彼女はただ心配そうに見つめていた。
「はい、お仕舞いっと。」
消毒液を患部に塗った後、その部分に包帯を巻くと、芽依はようやく一息を入れる。
「芽依もお疲れ。」
「うん、これで少しは良くなるといいんだけどね。」
治療の終わりを確認すると、邪魔にならないようにと離れていた少女は再びノームの元へと駆け寄り、「ノーム様・・・」と小声で不安を口にしていた。
「芽依は家でも俺たちが怪我したときとかに治療してくれてたんだ。腕は確かだから、安心しろって。」
俺は不安で泣きそうになっているその背中をドンッと叩き、安心づけようとするが、
「だから触んないでって言ってるでしょ!」
と相変わらず当たりの強い口調で反発の言葉が返ってきた。ここまでしてやってもまだこの態度なのかと呆れたが、もうこれはこれでいいかとそのまま受け流すことにした。
「そんだけ元気なら、心配するまでもなかったな。」
「人間に心配されるなんて屈辱よ!」
「はいはい。」
思わぬ一仕事を終えて、ここで俺たち3人はようやく本来の目的について話を戻すにいたった。
「ノームもひとまず大丈夫だろうし、僕たちもそろそろ犯人の手がかりを探しに行こうか。」
「そうだな、こんなところでいつまでも時間を使ってるわけにはいかないしな。だが、手がかりを探すにしても、特に・・・あっ!?」
今まであったことを振り返りながら、手がかりになりそうなことを思い出していると、先ほどは聞き逃してしまっていた重要なことに気がつき、声を上げてしまった。
それは少女が人間を嫌悪する理由を述べていたときのことである。確か、彼女は先ほど「突然森に現われた人間が」爆発を引き起こしたと言っていた。
突然森に現われたとは一体どういうことなのか。たぶんそれは、俺たちと同様ゲートを潜ってきたことで、この森の中に転移したということじゃないだろうか。
それが意味することはつまり、そいつが義父さんを殺した犯人だということ。
「突然声を上げてどうしたのよ、凪。」
自分の中で思考をまとめるのに時間がかかり、芽依が聞き返してきていた。
「あぁ、すまん。実は犯人の手がかりについて気がついたことがあってだな・・・」
ぐいっと前屈みになる2人をよそに、まずは少女に確認を取ることにした。
「おい、エルフ。少し聞きたいことがあるんだがいいか?」
「エルフって・・・まぁ、いいわ。助けてくれたお礼に、答えてあげなくもないわよ。」
それって答えてくれるってことで良いんだよな、わかりにくいから回りくどい言い方は止めてくれ。
「お前、さっき『突然森に現われた人間』が爆発を引き起こしたって言ってたよな。それは、どういうことなんだ?」
「そのことね。私にも詳しくは分からないのだけど、森の精霊であるノーム様には森の中の状況がある程度分かる能力があるらしいの。それであいつのことも見つけたらしいのだけど、あいつは突然森の中に現われたらしいわ。まるでワープしてきたみたいにね。」
やっぱりそうか。
「それがどうかしたのかしら?」
「いや、お前には関係ないんだが、俺たちにとってはとても役に立ったぜ。」
ネーアは「?」と頭をかしげているが、ひとまず置いといて俺が思ったことを芽依とカイに伝えることにした。
「そうか!ならそいつの特徴や行った先が分かれば」
「犯人にたどり着けるってことね!」
これからの行く先すら何も分からなかった暗闇に、一筋の光が差し込んだ。
「そうと分かれば、ネーアに色々と聞きましょうよ。」
「そうだな。」
そして、もう一度少女に話しかけようとしたときであった。
「いたぞ、人間だ!捕らえろぉー!!」
突然、森の中に勇ましい声が響き渡り、それに追随するようにして「おぉー」という群衆の声が響いてきたのだ。




