4話 決意
これまでの人生で、義父さんからはとてもたくさんの、それはもう数え切れないほど多くのことを学んできた。学校の勉強から家族の愛まで大きさの違いはあれど。
そして今、義父さんの死から俺たちは2つのことを学ぶこととなる。
1つ目、それは人の死が持つ意味。
2つ目、それは・・・
「2人とも少し来てくれない?」
俺と芽依が義父さんの死体の前で泣き疲れぐったりと座り込んでいた頃、その性格のためか一足先に部屋を後にしていたカイが少し上がり気味に戻ってきた。
「なんでそんな元気なのよ。私はこんなにつらいっていうのに、あんたは平気なの?」
「何もしたくないから、また後にしてくれよ。」
まだ義父さんが死んでから数時間であったので、今だけは何に対してもやる気が沸いてこず、カイの呼びかけに答えることでさえおっくうに感じていた。だから、とても気の抜けた、やる気の無い声で答えていたと思う。
「2人とも悲しいのは分かるし、僕ももちろん悲しいのは一緒だ!でも、これは義父さんを殺した奴に関することかも知れない重要なことなんだ。だから、来て欲しい。」
なん、だって?
義父さんを殺した奴に関することだって?
カイのその言葉を聞いた瞬間、義父さんを殺した奴に対するどうしようもない気持ちのやり場が見つかったような気がして
「詳しく教えてくれ!」
いつもより食い気味に尋ねた。しかし、カイはここでは何も答えず「見た方が早い」とだけ言って付いてくるように催促する。
そこで俺と芽依には他にしようが無いので、その後を黙ってついて行くことにした。
廊下を下り、そして玄関を出るのかと思いきや1階の廊下を進む。犯人はとっくに外に逃げていると思っていたから、どうして1階を探索するのか、そしてどこへ向かっているのかを不思議に感じて仕方なかった。
「おい、カイ!どこに向かってんだよ。犯人は2階で義父さんを殺して、もうとっくに逃げてるはずだろ?なんで1階なんか探すんだ?」
カイはふいっとひとさし指で床を見るように促してくる。
こいつは何がしたいんだ?
床がどうしたって言うんだよ。
とカイの意図が分からないまま、とりあえず視線を床に落としてみる。
すると、
「なっ、まさか!」
思いもよらない証拠につい声を挙げてしまった。
「そう、うっすらとしか付いてないから気づきにくいんだけど、間違いない。
血だ。」
始め家に入ったときは、義父さんの無事を確認するために2階を目指していたから、2階へと続く砂の後にしか目が向いていなかったが、よく目をこらしてみると今までの道のりにも、僅かながら血が付いていたことに気づく。
ここで別の不安がわき起こる。
「まさか、犯人は家の中にいるって言うの?」
芽依が声に出したが、俺も思っていたことはそれであった。
血は玄関のほうにのびていたのではなく、家の中へと続いている。ここからだと、未だ犯人が家の中で息を潜めていると考えるのが普通であろう。
「いや、犯人はもう家の中にはいないよ。」
「なんで分かるんだよ。家の外には血痕なんか付いてなかっただろ?だったら」
「いいや、分かるんだ。犯人は確かに家の中にはいない。もう少し付いてきてくれれば、2人も分かるはずだよ。」
カイの発言には妙な確信があり、相当の証拠を持っているのだろう。俺は心のどこかで恐怖を感じながらも、再びカイの後をついて行く。
そうして向かったのは、俺が一度も見たことがない部屋であった。
他の2人も知らなかったらしく、義父さんが隠していた、いわゆる秘密の部屋なのだろう。
一階の階段下に、小さな物置部屋として使っている小部屋があったのだが、そこの床が取り外されており、さらに地下へと続く階段があったのだ。
キシッ、ミシッとその階段は老朽化のためか今にも崩れ落ちそうな音を立てる。
「2人に来て欲しかったのはここだ。」
そう言って、階段を下った先にあるドアを開く。
その先で見たのはとても現実じゃ考えられないが、目の前に確かに存在していた。「それ」は、重厚な枠組みに囲われた虹色の光の波だ。その古びた枠には細部にわたって彫刻が施されており、一層神秘さを増している。これをフィクションの言葉を借りるのであれば、ゲートとでも呼ぶべきだろうか。
こんなものフィクションの中だけだと思っていたから、いざ目の前にするとあまりの壮大さに、戦いて後ずさりしてしまう。
「ゲートって言うやつなのか?」
「多分そうだと思う。そして、ここで血の跡がパッタリと途絶えているんだ。そこから導き出される答えは」
「犯人は異世界から来た何者かで、義父さんを殺してここから帰って行った。」
「ビンゴ。」
「そ、そんなの信じられないわ!だって、だって・・・」
目の前にあることが受け入れられないのか芽依はなんとか否定しようとするが、二の句が継げない様子である。
俺も正直、そんな子供の妄想みたいな考えは受け入れられなかっただろう。このゲートがなければ。全ての状況がそうであると物語っているようで、納得せざるをえないのだ。
「受け入れられないのは分かるし、混乱しちゃうのも分かる。でもね、今はこれからどうするかを考えないといけない。」
カイはいつにもなく冷静に盤面を整理していく。カイがいつにもなく冷静なのはきっと、そうしていないと感情の高ぶりを抑えられないからなのだろう。以前にも似たようなことがあったから、俺にはなんとなく分かる。
「これからって?」
「義父さんを殺した犯人を見つけるために、この先がどうなっているかも分からないゲートをくぐるのか、それとも今まで通りではないけど、3人で日常を過ごしていくのかだよ。正直僕は決めかねているんだ。」
義父さんの死、ゲートの存在と立て続けに信じがたいことが起きて、容量オーバーな頭にさらに考えなければならないことが増えて、頭の中がごった返していた。
そして、少しの沈黙が流れる。
「俺は、犯人を見つけて敵を取りたい。お前らが反対してもこの意思は・・・変わらない。」
この胸の中にある確かな気持ちをしっかりと伝えるために、そして自分自身にも言い聞かせるように、一言一言慎重に発言する。
「凪はそう思うんだね。芽依はどう?」
まだ気持ちが固まりきらないうちに話を振られたからか、芽依は「うーん」と相づちを入れてからまた黙り込んでしまう。
「そういうカイはどう考えてんだよ。」
「そうだねぇ・・・僕は、いや、僕もだね。敵を取ってあげたい、そう思ってる。」
その発言には、いつもの適当で曖昧さを残しているカイからは想像ができないくらい固い意志が感じられて、正直驚いた。
それほどカイも本気なのだろう。
残るは芽依ただ1人。
回答を催促したり、まして賛同を求めたりするわけにはいかず、気まずい沈黙が流れるのをひたすらに待ち続ける。
そして、ついに芽依が沈黙を破る。
「私は、3人でいつも通りの日常とはいかないけど、一緒に、今まで通り仲良くに暮らしていたい。今日も、明日も、それからもずっとずっと。」
意見が食い違うことは仕方ないことだ。いくら10年以上ともに過ごしてきたからとはいえ、好みや考え方までは同じにはならない。
「芽依は、そう考えてるんだね。」
「うん。ゲートの向こうに行くのは反対。」
「でもね、3人がバラバラになるのが一番いやなの。私はさ、もう二度と『家族』を失いたくないんだ。本当の両親に捨てられて、ずっと1人で生きていくんだってそう思ってたの。でも、お義父さんに拾われて・・・それだけでも十分幸せなのに、凪やカイみたいな今では本当の兄弟みたいに感じられる2人もいて、私の持ってる幸運を正直全部使っちゃったんじゃないかってくらい幸せなんだ、私。だからね、ゲートを潜るのは本当に反対なんだけど、3人一緒ならそれでもいいって、そう思うの。私、変だよね。」
芽依はそう言ってポロポロと泣き始めてしまった。こぼれ落ちる涙を手でこすり、またこぼれ落ちる涙を手でこする。
正直、芽依がこんなに大事に思っていたとは知らなかった。だから、芽依の熱い本心を聞いていて、こっちまで熱くなってきてしまい、目に力を入れていないと泣いてしまいそうであった。
「それじゃあ、決まりだね。」
「あぁ、この先がどうなってるかは分からねぇ。でも、3人一緒ならどんなにつらくても乗り越えられる、だろ?」
「そうね。」
涙混じりの声で芽依も答える。
まだ夜も明けやらぬ未明の朝、俺たち兄弟は旅立ちを決意し、義父さんとの最後の挨拶を済また。
そして、俺たち3人はひっそりとこの世界から姿を消した。
義父さんの死から俺たちは2つのことを学ぶこととなった。
1つ目、それは人の死が持つ意味。
2つ目、それはこの世界が1つではないこと。
そうして俺たちは、異世界の地にやってきたのであった。
ここまでが毎日投稿となります。
ここからは2日に1回のペースになりますが
よろしくお願いします。
次話投稿日は4月18日です。




