2話 疑惑
別れは突然にやってくるもので、その正確な時刻というのは誰にも予測がつかない。
だからこそ別れはつらく、とても意味のあるものとなる。
いつ来るか分からない別れのために人は日々の繰り返しを愛おしいと思い、より良く生きていこうと考えるのだ。
だからといっても、俺はその別れがなければいいのにとつい考えてしまう。
だって、こんな別れはつらすぎるから。
こんなにもつらいと知っていたなら、味わいたくなんてなかった。
もしもこの早すぎる別れに意味があるというならば、どうか教えて欲しい。
俺たち納得できるように、その意味を一言一句、全て。
なぜ義父さんが殺されなければならなかったのか、
誰が、何のために義父さんを手にかけたのか、
を。
あの日も何も変わらない日常だった。
何か変なことがあったとすれば、俺が朝ご飯のサラダに入っていたトマトを食べたことだろうか。
それほど何も変わらない1日だった。
「ねぇ、そろそろ義父さんの誕生日でしょ?私たち3人で何か買ってあげない?」
「いいね、それ。じゃあ、今週末に近くのショッピングモール買いに行こうか。」
「すまん、俺、今週末予定入れちまってるわ。2人に任せていいか?」
俺の拒否に2人の反応は「えーっ」「じゃあ、お会計は凪持ちで」とまちまちである。
「お代は割り勘だからな。」
「分かってるって。」
家への帰路はそのように義父さんへの誕生日プレゼントを考えながらゆったりと歩いて帰った。
「だから、お義父さんには明るい色じゃなくてもっと暗い色の方がいいと思うのよ。」
「そうかな?いつも暗い色ばっかしか着てないからそう思うだけで、白のマフラーとかも似合うと思うんだけどな。」
「おい、お前ら。もう家着いちまったから、また後で考えようぜ。」
マフラーにしようとまでは決まったのだが、その色を暗い色にするのか明るい色にするのかが決まらないまま、気づけば家に着いていた。
古くたびれた門を片手で押し開け、それから玄関の扉を開ける。
散らかった靴に玄関を上がった先についた僅かな砂の跡。
これはいつも通りの光景・・・?
いや、違う。どこかがおかしいなんてもんじゃない。全てがおかしい。
義父さんは服装とかヘアースタイルとか、そういった自分の身なりにはあまり気を配る方ではないが、靴の並べ方や家のチリやホコリ、そういったことには人1倍気を遣い清潔にする性格をしている。
だから、こんなに散らかっていることなんてあり得ないのだ。
いろいろなことに思考が追いついていくうちに、ザワザワとした不吉な予感が脳裏をよぎる。
「芽依、カイ。早く来てくれ!どうもおかしいんだ。」
「どうしたんだ!」
「何があったって言うのよ。」
駆け寄ってくる2人の質問に対して、目に入ってくるこの異様な光景から推測ができる、しかし頭のどこかで否定しようとしている、1つの答えを口にする。
「もしかしたら・・・義父さんの身に何かあったのかも知れない。」
義父さんへのプレゼントを考えていた和やかな雰囲気は一瞬にして消え去り、今までに感じたことのないほどの緊張した空気が流れる。
「な、なにそれ笑えないわよ。冗談なんでしょ?」
「冗談なんかでそんなこと言うかよ!」
声を震わせながら尋ねた芽依の質問をはね除ける。
これは冗談なんてもってのほか、俺でさえ考えたくないことなのだから分かって欲しかった。
「どういうことか説明して?一体、玄関の先で何を見たっていうんだ。」
「それは・・・」
俺はできるだけ短く、でも的確にこの状況を説明した。
2人とも驚きを隠せない様子ではあったが、俺が言ったことを理解してくれ、「義父さんが大丈夫か確かめに行こう」という危険な提案に対し「そうだね」、「えぇ」と同意の言葉を返してくれる。
義父さん、どうか無事であってくれよ!
こうして俺たちは「ただいま」も言わずに、静かに家の敷居をまたぐのであった。




