17話 能力
「ものは試しだ、凪、もう一度さっきやったようにやってみてくれないかい?」
「そうだな、もう一度やってみるか!」
オーパーツに隠された能力を探るべく、カイに促されるままにもう一度試してみることに・・・いや、待てよ。
俺が時間を移動したことを確実に証明するために2人にも分かりやすい証拠を作っておかなければ、また変な探り合いになってしまうかもしれない。それは困る。
何か、何かいいアイデアはないだろうか。
そうだ!
俺はいいアイデアを思いつくと、オーパーツのボタンを押す準備をする。そして、それを推す前に、2人に対して
「カイ、芽依。俺がボタンを押す前に、2人だけで1つの数字を決めて共有してくれ。」
2人とも少し、なんでそんなことをと小首をかしげたが、直ぐに意図を理解してくれたようで「あー、そういうことね」、「いいね」と口にし、それから俺に背を向けて、ひそひそと話を始めた。
少し時間がかかった後、こちらに振り返り「おっけー」と指で合図を送ってきた。
これで準備は整った。
「じゃあ押すぞ!」
カチッ!
さぁ、さっきみたいにこの先を、あいつらが決めた数字を見せていただくとするか!と勢いよく臨んだことはいいものの、視界はいたって正常だし、先が見えた気配はない。
ん?カイ、話しが違くないか!?
「で、どうなのよ?分かったの?」
俺が動揺していると、芽依が結果を催促してきた。
「それが・・・なんでか分かんねーが、時間は移動しなかったんだ。だから、お前たちが決めた数字は分かんねー。でも、どういうことなんだ?確かに俺は今、ボタンを押したはずなのに・・・」
まさかボタンを押す以外にも、他に何か条件があったということなんだろうか。
「もしかしたら、使用に制限があるのかも知れないよ。ついさっきその能力を使ったばかりだから、直ぐには再び使えないのかもね。」
カイの言うとおりなんだろうか。
さっきはやったのに、今はしていないこと・・・何かあっただろうか?そう頭の中で思考を巡らせる。すると、ある1つの今回やっていなかったことを思い出した。
そうだ、今回はまだ2回目を押していない。
さっきも1回目を押したときには、何も起こらなかったじゃないか!
つまり、このオーパーツの能力は想像するに、1回目押した地点を記録し、2回目に押したときにその地点まで戻るというものなのかも知れない。もっとわかりやすく言うならば、ゲームのセーブとロード機能のようなものだろう。1回目がセーブ、そして2回目がロードにあたるものなんだ。
なら、今すべきことは2人から数字を教えてもらうことだ。そしてそれを聞き次第、もう一回このボタンを押すことだろう。まだこの仮説が正しいと証明された訳ではないが、やってみる価値は大いにある。
「なぁ、ちなみに数字はなんだったんだ?」
「あー、実は数字だったら勘で1つ言えば当たるかも知れないでしょ?だから、あえて数字じゃなくて他の言葉を決めたのよ。」
なんて疑り深い奴らなんだ、こいつらはほんとに・・・。
「で、なんて言葉を決めたんだ?」
でも今は、そんなことはどうでもいい。むしろ、そんなに疑ってくれて好都合だ。それを戻って伝えたら100%に近い信頼を得られるに違いない。
「それはね、凪だよ。」
「俺?」
「そうそう、別に何でも良かったからね。じゃあ凪でいいんじゃないって。」
「そうか。凪、だな。」
再度確認を取ると、2人ともうんうんと首を縦に振ってみせる。それじゃあ、もう一度押してみるとするか。
そうして、カチッと音を鳴らす。どうか今度こそは戻ってくれよ。
瞬間、あの時と同様に視界がゆがんだ。
「で、どうなのよ?分かったの?」
そしてそのゆがみが戻ったかと思うと、突然芽依から聞き覚えのある、俺からしたら2回目の質問が飛んできた。それを聞いたことで、やっぱりそういうことだったのかと自分の中でこのオーパーツの能力について確信が持て、フフッと頬が自然と緩んでしまった。
「なんであんたにやついてんのよ、正直気味悪いわよ。」
そのせいで、芽依からは心ない言葉が発せられる。うるーせーよと言おうかと思ったが、今はそんなことはどうでもいいので、さやを収めてやるとするか。感謝して欲しいくらいである。
「どうやら分かったみたいだね?」
「あぁ、もちろん分かったぜ。」
「じゃあ、僕たちが決めた数字は何だったんだい?」
はっ、数字だと?数字じゃないくせに。よくもこんな平然とした顔で2人は人を引っかけようとできるな。数十年の間、一緒に育ってきたがほんとに怖いやつらだ。
「お前たちが決めたのは数字じゃない。ある言葉だ、そうだろ?」
そうしたり顔で言ってみせると、予想通りの驚きの表情を2人は見せた。あまりにも予想通り過ぎて、少し引いてしまったくらいだ。そして俺は間髪入れずに、そのある言葉を言ってやることにした。
「そしてその言葉は、俺、凪だ!どうだあってるだろ?」
その言葉に、2人の表情はより一層驚きを表したものに変わった。
「正解だよ、凪。正直、半信半疑だったけどこれは信じざるを得ないね。」
「数字だと勘で当たるかもって思ってこれにしたのに・・・まさか、本当に当たるだなんてね。」
そして、各々がぼそりと感嘆の言葉を発する。芽依のやつは俺にとっては2回目であったけれども。
「あぁ、俺も自分で体験したのに未だに不思議で仕方ねぇよ。でも、このオーパーツには不思議な能力があるって証明できたし、信じてもらえてよかったぜ。」
それから少し、俺のオーパーツの能力について分かったことを2人に説明した。この能力はこの見知らぬ異世界で上手く生き延びていくのに役立つに違いない。
一通りの説明を終えると、
「凪のに能力があるのなら、僕と芽依のにも何らかしらの能力が隠されていても不思議じゃないね。」
とごもっともな見解を述べる。確かにその通りだ。義父さんが不思議な加護があると言ってこれら3つをノームに渡したとなれば、他の2つにも同等の能力が隠されていてもおかしくはない。
「よし、休憩がてらお前たちのオーパーツについても色々と調べてみるとするか!」
外は未だ雨が降りしきっていて、幸いなことに時間だけはありそうだ。今のうちに、役立ちそうなことはなんでも知っておきたいしな。
そうして、2人のオーパーツいじってみることにした。