15話 遺品
「急いでおるところ、待たせて悪いな。」
ドアを無造作に開けて入ってきたのはつい15分くらい前にここを出て行ったばかりのノームであった。ノームはそのまま俺たちの前まで駆け寄ってくる。
「これらを受け取ってくれ。」
そう言いながら何やら右手を俺たちの方へと差し出してきた。
「何なんだよ、これは?」
「これらはな、成浩が残していったものだ。今までは余が大切に保管してきたが、これらはお主たちが持つのがふさわしいだろう。」
義父さんが残していったものだって!?
驚きつつもノームの手からそれらを受け取り、一体何なんだろうかと確認する。それらは偶然にも俺らと同じ3つで、見た目は各々で随分と異なっていた。
1つ目は10~15cmほどの大きさで鍵のような形をしている。もしかしたら、車や家の鍵を想像したかも知れないが、それらとは違いこれはおとぎ話に出てきそうな鍵である。
2つ目も大きさは同じくらいであったが筒状であり、その片端には押すことができそうなスイッチがついている。
3つ目は耳に挟んで付けるイヤリングのような形状をしている。
それらは所々さび付いてはいたが、下に見え隠れする色を見るに元々はとても鮮やかなものであったことがうかがえる。生前ミイラだの遺跡だのにしか興味を示さなかった義父さんにもこんな綺麗なものを集める趣味があったんだなぁと今更ながら新鮮に感じるとともに、妙な違和感が頭を占有していた。
でも、どこかでこれに似たようなものを見たことがある気がするんだよな・・・一体どこで見たんだろ・・・うーん、全然思い出せねぇや。
「あっ、これ!あれに似てない?」
うおっ、びっくりした。
芽依、お前はエスパーか何かなのか?
ちょうど俺が疑問に思っていたことを芽依が口に出したので思わず突っ込んじまったぜ。
「一体何に似てるんだよ?」
だが、俺の感じた違和感の正体が分かる気がして芽依の次の言葉に耳を傾ける。
「あれよあれ、覚えてるでしょ!お義父さんの部屋に大事そうに飾ってあったオーパーツ!」
義父さんの部屋にあった・・・オーパー・・・!
そうだ、それだ!オーパーツ!
考古学者である義父さんが発掘に行っては拾って帰ってきたオーパーツ、あれもこれらと同じようにさび付いてはいたけれどキラキラと輝いて綺麗だったな。
「おぉ、そうであった。成浩もこれらをオーパーツと呼んでおったぞ。あやつ曰く、これらには不思議な加護の力があるらしい。それはきっとお主らを助けてくれるだろう。」
これに加護の力があるだって?
どう見てもただ飾って目で楽しむ置物の一つにしか思えないんだが・・・
そうは思ったがこれらは義父さんの遺品でもある。
ありがたくもらっておこう。
「ちょうど3つあるし、1人1つづつ持っておくとするか。芽依はこのイヤリングみたいなやつで、カイはこの鍵みたいなやつでいいか?」
どれか1つを持つならカチカチできるこれがよさそうだ。イヤリングみたいなやつは女子が持った方がそれっぽいし、鍵みたいなやつはうーん、何というか俺の趣味じゃない。
2人とも「別にどれでもいいよ」みたいなことを言ったので、それぞれを受け渡すことに決まった。
「それじゃあ、そろそろ行くとするか!」
「森の出口までは余が連れて行こ・・・ぐっ。」
ノームが優しいことに森を抜けるところまで連れて行こうと提案しようとしたようだが、義父さんの遺品を取りに行こうと無理して出歩いたりしたせいで傷がまた痛み出してしまったようだ。まぁ、そりゃそうだよな。昨日あんな爆破を受けて寝込んでたのに、今これだけ動いてる方がおかしいってもんだ。
「無理しないでください、ここで十分です。」
「そうだぞ、無理すんなよ。」
「あぁ、ありがたい。だが、余もそれは分かっておる。だから」
ガチャ
再びドアが開けられる。
誰が開けたんだろうかと思いドアの方を見ると、そこにはこの国の王女であるネーアが立っていた。
「ネーアに頼んでおいたのだ。」
ノームのあまりの周到さに、さすがに苦笑いしてしまった。
「まぁ、私が連れ込んだ客だしね。私が外まで案内してあげるわ。」
でも、ネーアにお礼も言いたかったところだし、これはこれでちょうど良かった。さすがに何も言わずに去るのは後ろめたかったしな。
「ありがとな。」
俺がそう言うと、ネーアはなぜか小首をかしげた。
ん?別に変なこと言ってないよな、ただ送ってくれることに感謝しただけだし。
じゃあ、なんでこいつは不思議そうにしてるんだろうか・・・?
その理由は直ぐに分かることになった。
「ここは“サンキュー”じゃないのかしら?ありがとうとサンキューにも使い分けがあるのね、難しいわ。」
こうしてネーアに連れられるまま歩いて、歩いて、そうして俺たちは北を目指しノームの森の外へと出て行くのであった。