12話 記憶
「ねぇ、義父さん。お話聞かせて!」
「あーずるい凪だけ。私も私も!」
「待って。僕も聞きたい!」
パキパキと音を立てながら燃える暖炉、体重移動に合わせて軽く前後に揺れ動く椅子、そして、それに腰を掛けて「うーん」と軽く悩み込んだ男性。見た目には気を使っていないのか、髭は無造作に伸び、白髪交じりの髪は夜だというのにはねてしまっている。
「そうだなぁ、それじゃあ」
その男性が発するただ聞いているだけで心が和んでしまうような声。それは聞き覚えがあるとかそういった類いのものではない。10年以上も毎日のように聞いてきてきたのだから、もう耳に染みついていると言ってもいいだろう。
昨日までこの空間にいたはずなのに、随分懐かしいように感じられる。
「なになにっ!」
その男性を囲むように集まってきて、きらきらと目を輝かせて待つ2人の少年と1人の少女。
これは俺の昔の記憶である。
小さい頃はよく3人で義父さんにせがんで、何かお話を聞かせてもらってたなぁ。それで、研究で忙しい義父さんをたびたび困らせてたっけ。
この日は何のお話を聞かせてもらったんだろう。
面白い話だったということは覚えているんだが、あまりにも昔のことでその内容までははっきりと思い出せず、いつの間にかそこに居るあどけない「俺たち」と同じ目線で、義父さんの次の言葉に耳を傾けていた。
「それじゃあ今日は、森で出会ったノー・・・」
ガバッ
これからが良いところというタイミングで、俺は目を覚ましてしまう。いや、正確には目を覚まさせられた。
「凪、やっと起きたね。」
「やっぱり、布団を剥がすのが一番なのよ。」
体を起こすと目の前には、はぎ取った俺の布団を持ち、どこか自慢げな芽依とにっこりと愛想笑いを浮かべるカイがいた。
もう少し寝せててくれたら聞けたのに、と俺は心の中で「ちっ」と舌打ちしながらも
「ん、おはよ。」
と朝の挨拶を交わす。
「じゃあ、凪も起きたことだしそろそろ行こうか。」
「そうね、あんたも早く着替えてちょうだい。」
目は覚ましたのはいいものの未だベットの上でまどろみの中に居る俺を他所に、何やら勝手に話を進めていく2人に頭が着いていかない。
こいつらは朝っぱらから一体何の話をしてるんだ?
だいたいこんな朝早くから、見知らぬ国でどこに行くっていうんだよ。
まさか散歩でもするつもりなのか?
「どこに行くんだよ?」
いろいろ疑問に思ったが、眠いので一番重要な質問だけをしておこう。
回答によっては二度寝でもしよう。
そんな風に思いながら構えていると、カイから想定外の答えが返ってきて俺の眠り眼は一瞬にして覚醒することになる。
「凪が寝ている間に、リューインさんから言伝があって、ノームが目を覚ましたらしいんだ。居場所を聞いておいたから早く行こうと思って。」
それは、俺たちがとても待ちわびていた言伝であったのだ。