11話 休息
「ぷはぁ~、今日はいろいろあったから疲れたぜ。」
「ふぅ~、そうだね。異世界に来て、ノームを治療して、エルフの兵に捕まりそうになって、そしたらエルフの国に来ることになって・・・。」
「そうね、いざ言葉にしてみるとほんと濃い一日だったわね。」
「忙しい1日だったなぁ。」
こんな感じで、俺たち3人は湯船に浸かりながら今日あったことを振り返っていた。
「でも、びっくりしたよね。エルフの国にも日本の温泉みたいなのがあるなんてさ。」
そう、俺たちは温泉に来ているのだ。いや、正確には温泉に連れてきてもらったと言った方がいい。
エルフの国に来るなり、エルフの少女、じゃなくて王女ネーアが
「私の邸宅に招待してあげるけれど、その前に体を洗ってくるといいわ。私たち王族専用のお風呂だから安心して入ってくるといいわ。」
と、温泉へと案内してくれたというわけだ。
正直、王族専用の温泉に入るなんて気が引けたが、もし民営の温泉などに入りに行ったら「人間だ!」と国中で大騒ぎになるに違いないからこれはこれで仕方ない。ノームが目を覚ますまでの辛抱というよりも贅沢だ!エルフの国をせいぜい楽しませてもらおうじゃないか!
あ、1つ言い忘れていたが、芽依と俺たちは別の風呂に入っているから安心して欲しい。他に誰もいないので、いたら王族ということになるからこんなにも呑気に風呂なんか入ってら
れないのだが、垣根を隔てながらも会話をしていたのだ。
「ほんと極楽よ。でも、1番びっくりしたのはネーアが王女様だったってことねよ。」
「あいつが王女なんてな。この国の行く末が心配だぜ。」
「凪、それはさすがに失礼でしょ。」
といいながらも、カイは苦笑いしていた。それにつられて俺や芽依も「くくく」と笑い出してしまう。こんなところをネーアやクルシュに見られたら、即追放とかにされていたかも知れないな。
それからもしばらく雑談しながら疲れをゆったりと流した後、温泉を上がる。そして着替えを済まし外へと出ると、そこには王女らしい衣装を身にまとったネーアとお付きの者が待っていた。
「ようやく上がったわね。」
「おう、風呂まで貸してくれてサンキューな!」
「さ、さんきゅー?さんきゅーって何かしら?」
何気なくサンキューと言ったが、こっちの世界では使われてない言葉のようで面を食らってしまう。今までネーアと話してきて会話で特段困ったことがなかったので、元の世界に居たときと同様に話しをしていたが、やはりここは異世界なのだなぁと実感してしまう。
「サンキューってのはありがとってことだよ。」
と言うと、ネーアは「あぁ、そういう意味なのね」と理解した様子である。
そんなことを話していると、「少し時間かかっちゃった。」やや慌てて駆け寄ってきた。俺たちが揃ったのをネーアは確認すると、「それじゃあ、行きましょうか。」と言ってついにネーアの邸宅こと王宮へと案内してくれるようだ。
「見えてきたわよ。」
おぉ、あれが王宮か!
案内されて歩くこと数分、目の前に見えてきたのはいかにもエルフの国らしく自然と調和した巨大な建築物であった。噴水はないようだがほど広い庭園も備えており、とても趣深く感じられる。
そんな庭園を高揚した気分で闊歩し、そうして徐々に建物へと歩みを進めてゆく。
俺たちの頭上をゆうに超える高さの入り口の扉がギィィっという音を立てながら開かれ、俺たちを中へと迎える。
入ってすぐの場所では、ネーアよりも豪華絢爛とした衣装に身を包んだ、歳が4,50代くらいの女性と、スーツを格好良く着こなした男性が出迎えてくれていた。思うに女性の方はエルフの国の女王様で、男性の方はその執事といったところだろうか。
「ようこそ、人間の皆様。既に王女から話は伺っておりますわ。中で軽い御食事を用意しましたので是非召し上がってくださいね。私はご一緒にはできませんので、何か困ったことがありましたらこのリューインに申しつけてくださいね。」
女王様はとても優しく品のある口調でものごとを話し、ネーアとは大違いである。
さすがは女王様!
女王様にリューインと呼ばれた執事姿の男は、短く「どうも」とだけ口にすると、俺たちをさっそく部屋へと先導してくれる。
その後は部屋で用意してくれていた“とても豪勢な”食事を堪能し、ふかふかのベットで眠りにつく。そんな至れり尽くせりな夜を過ごしたのであった。